精神障害者を監視 改定精神保健法 倉林氏が反対 参院で可決(本会議)
相模原市の障害者施設で起きた殺傷事件の“再発防止”を口実にしながら委員会審議中に改定趣旨から同事件の記述を削除する異例の経過をたどった改定精神保健法が17日、参院本会議で自民、公明、維新など各党の賛成多数で可決し、衆院に送られました。共産、民進、自由、社民の各党と「沖縄の風」は反対しました。
採決に先立ち日本共産党の倉林明子議員が反対討論に立ち、改定趣旨の記述削除は「前代未聞」と批判するとともに、中身も「障害者の福祉増進・国民の精神保健向上を図る」とした法律の趣旨をねじ曲げるもので、撤回すべきだと訴えました。
改定法は、措置入院者に対する支援計画策定を自治体に義務付け、公務員に措置入院者の規制薬物使用の告発や、警察への情報提供を求めるもの。
倉林氏は、「犯罪を実行していない者の情報まで警察に提供する仕組みをつくり、転居先の自治体まで情報が引き継がれることになる。精神障害者の監視体制の整備だ」と指摘。一方で、「国連から再三指摘されてきた精神障害者の権利擁護の観点からの見直しはほとんど盛り込まれていない」と批判しました。
本来の趣旨とは相いれない犯罪防止策を官邸主導で盛り込んだ改定案は撤回し、精神障害者の権利擁護を目的とした法案として出し直すよう求めました。
○倉林明子君 私は、日本共産党を代表して、ただいま議題となりました精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案に断固反対する立場から討論を行います。
本法案は、相模原事件の直後に、総理の指示の下、再発防止策の検討を厚生労働省が中心となって行い、法改正に至ったものです。
一月二十日、総理の施政方針演説でも、昨年七月、障害者施設で何の罪もない多くの方々の命が奪われました、決してあってはならない事件であり、断じて許せません、精神保健福祉法を改正し、措置入院患者に対して退院後も支援を継続する仕組みを設けるなど、再発防止策をしっかりと講じてまいりますと明確に立法趣旨を説明していたのです。事前の法案概要資料にも、改正趣旨として、「相模原市の障害者支援施設の事件では、犯罪予告通り実施され、多くの被害者を出す惨事となった。二度と同様の事件が発生しないよう、以下のポイントに留意して法整備を行う。」と、事件の再発防止が改正全体の前提として明記され、説明が行われてまいりました。
ところが、当事者や関係団体から反対の声が広がり、相模原事件が精神障害者による犯罪だとする立法事実が崩れる中、法案審議の最中に、前提として説明してきた再発防止に係る文言を削除し、大臣が法改正の趣旨説明をやり直すという前代未聞の事態となりました。犯罪防止を目的としたものではないと繰り返し説明する一方で、法案の中身は一切変わらないというのですから、改正目的の隠蔽以外の何物でもありません。国会も国民も愚弄するこうした政府の対応は、断じて容認できません。
変えないとしているその法案の中身が問題なのです。
第一は、精神障害者の情報を警察に提供する仕組みをつくり、結果として犯罪防止が目的となっていることです。
措置入院者に限り退院後の支援計画の策定を自治体に義務付けることで、公務員に対し、措置入院患者の規制薬物使用の告発や、確固とした信念に基づき犯罪を企図する者の情報提供を警察に行う仕組みを新たに設けることが審議を通じて明らかになりました。医療と警察の役割分担を行うとして、いまだ犯罪を実行していない者の情報まで警察に提供する仕組みをつくるのですから、その狙いは明らかです。転居先の自治体までその情報は引き継がれることとなり、精神障害者の監視体制の整備となるものです。
入院者の情報提供の判断は現場の医師が行うこととなります。結果として、薬物依存症の患者を医療から遠ざけ、病状悪化につながる危険性が高まるだけでなく、妄想や幻聴で苦しむ精神障害者は、犯罪を企図する者と判定されることを恐れ、医療からも支援からも遠ざかることになりかねません。
精神障害者の医療、保健、福祉の向上を目的とする本法の趣旨とは全く相入れない治安目的を持ち込むなど、到底認められるものではありません。犯罪防止ではないというのであれば、中身を変えて出し直すべきではないでしょうか。
第二は、法改正には精神障害者の権利擁護の観点が欠落していることです。
当初の説明によれば、措置入院者の退院後の支援計画の策定に本人は必要に応じて参加するとされていました。委員からの指摘を受けて、原則参加にするとはしたものの、退院後の支援計画は、本人が要らないと表明しても、自治体に策定が義務付けられているために必ず策定されることとなります。本人に従う義務はないとしていますが、当事者の思いよりも計画策定が優先されることは明らかです。
当事者団体や弁護士会からも求められていた第三者の法定代理人や弁護士も本法案には盛り込まれず、権利擁護の要となる精神医療審査会は、審査が形骸化し機能を果たせていない実態、これは厚労省の調査ではっきりしているにもかかわらず、改善措置は何ら盛り込まれませんでした。
そもそも、日本の精神医療は、大臣も率直に認められたとおり、世界的にも立ち遅れていることが審議を通じて明らかになりました。病床の多さ、入院期間の長期化はOECD諸国と比較しても突出しています。そうした中で、保護室への隔離、身体拘束が過去十年間で二倍に達し、それぞれ一万件を超えている事実を自らが把握しながら、その要因についての調査はこれからだという始末です。
精神医療における人権問題として、国連の人権委員会からも繰り返し指摘されていることを政府は真摯に受け止めるべきです。二〇一三年には拷問禁止委員会から、隔離、身体拘束について非人道的及び品位を傷つける行為とされ、非自発的入院を減らすことを求められました。また、二〇一四年には自由権規約委員会から、精神科病院における強制入院の減少と入院者の権利擁護措置をとるよう求められているのです。
日本の精神医療に対し解決が求められているこれらの課題に対し、精神障害者の権利擁護の観点からの見直しがほとんど盛り込まれておりません。本法案は撤回し、精神障害者の権利擁護を目的とした法案として出し直すことを強く求めるものです。
今回の法改正の検討を託されたこれからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会は、二〇一六年一月のスタート地点では、医療保護入院の在り方、新たな地域精神保健医療体制の在り方が大きなテーマとなっていたのです。議論の半ばに、官邸主導で持ち込まれたのが相模原事件の再発防止策でした。本来の法の趣旨とは相入れない犯罪防止策を法改正に盛り込むことに、委員会のメンバーからも、当事者及び関係団体からも批判が相次いでいたのに、その声に全く耳を傾けることなく提出されたのが本法案だということは明らかです。
法の趣旨もねじ曲げ、当事者の声も踏み付けにする本法案を断じて成立させるべきではありません。廃案まで断固として奮闘する決意を申し上げまして、反対討論といたします。