警察介入強める改定 精神保健法で追及(厚生労働委員会)
(資料があります)
日本共産党の倉林明子議員は9日、参院厚生労働委員会で、政府が異例の改定趣旨の変更を行った精神保健福祉法改定案について、警察の介入を強めるなどの内容に変更はなく「現行法の理念に逆行する」と迫りました。
塩崎恭久厚生労働相は改定案について、相模原市の精神障害者施設での殺傷事件の再発防止とした改定趣旨を削除し、「犯罪防止を目的としたものではない」と説明しています。
倉林氏は、「措置入院者の退院後支援計画の策定」「警察を含む地域の関係者の協議の場を設置」など同改定案の内容を示し、「厚労省は一貫して同事件の“再発防止策”として改定を進めてきた。法案の内容はいっさい変わっておらず、改定趣旨を変えることは改定目的を隠蔽(いんぺい)することだ」と批判しました。
さらに、改定案では、同事件の被告が大麻を使用していたことから、措置入院者が規制薬物を使用していた場合に医師から自治体への届けに記載を求めるとしていることや、大臣が薬物使用は犯罪行為であるとして「自治体職員に告発義務がある」と発言していることを指摘。「治療が必要で措置入院する人と医療機関との信頼関係を壊しかねない」とただしました。
塩崎厚労相は「一律に告発を求めるものではない」としながらも否定できませんでした。
倉林氏は「犯罪だと強調することで告発が基本になりかねず、警察が情報を共有する可能性が極めて高くなる」と批判しました。
○倉林明子君 日本共産党の倉林明子です。
大臣は、あの概要書、概要の説明資料から、事件の再発防止策という改正趣旨、これを削除しながら、再発防止に資するという説明をされております。さらに、説明に加えて、犯罪防止を目的にしたものではないと、こう繰り返されているわけですね。改正目的を尋ねられたところの答弁では、これは措置入院者の退院後の孤立を防ぐと、こういう説明もされておりまして、改正目的が何なのかということが大変揺れ動いた答弁になっているというのがこの間の経過ではないかと思います。その上、大臣は、総理の施政方針演説について解釈をされておりまして、様々な再発防止対策に取り組むという決意を述べたものだと御説明されたわけですね。
私、そこで、改めて事実経過を検証したいというふうに思います。
昨年の七月二十八日、関係閣僚会議、ここで総理は、措置入院の見直しについて早急に検討するように指示をされています。八月の八日、この関係閣僚会議幹事会が立ち上げられたわけですけれども、相模原市の障害者支援施設における事件の検証及び再発防止策検討チーム、ここのスケジュール案が八月八日、既に示されております。それは一体どういうものだったでしょうか。
○政府参考人(堀江裕君) 委員御指摘の資料は、八月八日に開催されました障害者施設における殺傷事件への対応に関する関係閣僚会議幹事会において検証チームの当面のスケジュール案についてお示ししたものでございまして、その資料では、八月十日に検証チームを立ち上げ、事実関係に関する報告及びこれに対する意見交換を行い、第二回は八月中旬に開催し、同月中を目途に事実関係の検証結果の取りまとめを行う予定であること、再発防止策の取りまとめは秋頃を目途に行う予定であることについて記載してございます。
○倉林明子君 確かに、若干の遅れはあるものの、このスケジュールどおりにこの検証・検討チームが立ち上げられ、運営され、そして九月八日、ここで中間の取りまとめがされて、十二月の八日、ここで報告書、再発防止策の提言、これが提出されている。これ、スケジュール案示された、厚生労働省が提出した資料というのを資料の一枚目に付けています。これに即して進んでいったということだと思うんですね。
再発防止策の提言、この報告書がまとまった十二月八日の翌日、ここで関係閣僚会議が開催されております。ここで大臣が発言された中身の確認をしたい。特に重要な再発防止策、二点の報告がされています。その中身は何だったでしょうか。
○政府参考人(堀江裕君) 昨年十二月九日に関係閣僚会議において大臣より検証チームの取りまとめについて具体的に御説明したのは、再発防止策を構成する四つの柱のうちの、退院後の医療等の継続支援の実施のために必要な対応等と、関係機関等の協力の推進でございました。
厚生労働省としては、ほかの二つの柱であります共生社会の推進に向けた取組、そして社会福祉施設等における対応も含め四つ全てが重要と考えてございますが、共生社会の推進については、再発防止策の方向性に記載された事項について直接担当する内閣府特命大臣、文部科学大臣より別個発言されることなどから、法改正にもつながる二つに絞りまして大臣から御報告されたものでございます。
○倉林明子君 いや、きっとそういう分かりにくい説明するんじゃないかなと思って、三枚目にそのままの議事概要を付けております。大変はっきりしているんですね。赤線を引いておきました。
特に重要な再発防止策として二点、見直し後は、措置入院の見直し後は、措置権者である都道府県知事が、患者の措置入院中から、帰住先の自治体、入院先の病院、通院先の病院など関係者を含めた調整会議を開催し、退院後支援計画を作成することとする、これ一つ大事ということで、再発防止策だと言っているわけですよ。もう一つの大事なものが、下の方になりますけれども、関係機関等の協力の推進なんだ、ここに自治体、警察、精神科医療関係者と明記した上で、地方の関係者の協議の場を設置することとすると、再発防止策としてこの二つが重要だという報告を大臣はしているわけですよね。
措置入院患者の退院後支援計画の策定と、警察を含む地域の関係者の協議の場を設置する、これが本法案に盛り込まれた。再発防止策として盛り込んだ。経過は極めて一貫性があるというふうに思うんですよ。
この事実経過、再発防止策を取りまとめてきた、特に大事な二点として厚労省は法案に盛り込んだ、間違いないと思いますが、いかがですか。
○政府参考人(堀江裕君) 今回、委員の方から御提出いただいています関係閣僚会議の議事概要、ある意味、一ページ目のところだけが付けられているわけでございまして、その次のページのところには加藤内閣府担当特命大臣から、細かい話は抜きといたしまして、共生社会の実現に向け、今後も広報啓発活動に一層力を入れてまいる所存でございます。それから、三ページ目に至るところで松野文部科学大臣の方から、こちらも簡単に申し上げますと、引き続き学校教育を通じて障害に対する理解が進むよう推進してまいりますということで、この共生社会関係については、塩崎大臣、加藤大臣、松野大臣で併せましてお答えされているということでございます。
○倉林明子君 厚生労働省は一貫して再発防止策、相模原殺傷事件の再発防止策として法改正を視野に入れてやってきたという経過は、私、大臣の説明、厚生労働大臣が関係閣僚会議で説明した中身からも、それははっきりしていると思うんですよ。
私、今になって改正趣旨を変えるから、こういう矛盾が出てきているんだと思うんですね。私、法案の内容は一切変わっていないわけです。一連の検討経過も事実はっきりしているわけです。これ、改正趣旨を変えるということは、改正目的を隠蔽するということになるんじゃないかと、これは強く指摘をしておきたいと思います。
そこで、この間の大臣答弁で事実を確認しておきたいと思う点を質問したいと思うんですね。
先ほども、本人同意がなくても計画は策定されるということが石橋委員の質疑で明らかになったかと思うんですね。そこで、民進党の足立筆頭理事からも質問があった、その中の答弁でも確認すべき事項だと私思いましたのは、大臣が措置入院者の、いろいろ措置入院制度に問題があるということが明らかになったんだとおっしゃった上で、今回の植松被告の経過を振り返った上で、被告人が大麻を使用していたことが措置入院者の症状消退届に記載が一言もされていなかったと、こういう触れ方をされているわけですね。
そこで確認したい。大麻のような規制薬物、この使用について、今後、症状消退届には記載されるべきだと、こういう認識なんでしょうか。
○国務大臣(塩崎恭久君) 四月二十五日、今御指摘の委員会における私の答弁の中で、消退届の中には一言もその問題について触れていないという、この大麻使用について申し上げたわけでありますが、これは、被告人の当時の症状消退届における病名の欄には、主たる精神障害として大麻使用による精神及び行動の障害と、こういう病名が書かれていたわけでございます。
にもかかわらず、消退届の訪問指導等に関する意見という欄、あるいは障害福祉サービス等の利用に関する意見という、こういう欄があるわけでありますけれども、そこが空欄であったということで、こういうことで申し上げたわけでございまして、措置入院の原因となった精神障害が大麻などの規制薬物の使用によるものである場合には、症状消退届にそのことが記載されるべきというふうに考えておりまして、今後通知などによってその旨を周知をしてまいりたいと考えております。
○倉林明子君 結局、法改正したら、措置入院の場合、条件はおっしゃったけれども、薬物使用が発覚したら、それ記載するようにということにつながっていくんじゃないかと思うんですね。それ、私、治療が必要な場合、精神病院に受診する、受診というか、措置されて入ってくるという事態になるわけなので、治療に必要な信頼関係というのを壊しかねないということだと思うんですよ。
さらに、この足立理事との一連の質疑の中で大臣は、薬物使用は犯罪行為だと、こう明言された上で、自治体職員について告発義務があるとおっしゃっています。この取扱いを考えていくということをおっしゃったわけで、これ、退院後支援計画策定、この関係者である自治体職員、措置入院者の薬物使用を知った場合、告発義務を負うということをお考えなのでしょうか。
○国務大臣(塩崎恭久君) これは、違法薬物を使うということ、あるいは所持をする、これが犯罪行為であることはもう言うまでもないわけで、それは警察で適切に対応すべき問題だということだと思います。
一方で、薬物依存症の患者の方々については治療継続というのが大事であって、医療関係者などからは、治療中の患者について違法薬物の使用を把握をした場合の警察への情報提供の在り方については、これは治療継続との関係から慎重に検討すべきという御意見をいただいてございます。
この点、現在は、措置入院中に違法薬物の使用を把握した医療機関やあるいは自治体が警察に情報提供をするか否かについては、これは医療機関や自治体の判断に委ねられているわけであります。医療機関あるいは自治体ごとに取扱いがこれ全国でもばらばらになっているという状況にございまして、このため、厚生労働省としては、公務員の告発義務に一定の裁量が認められているとの見解があることも踏まえて、薬物依存症の患者の治療継続に配慮した警察への情報提供の在り方、これについて検討して全国的な対応方針を示したいと考えております。
検討に当たっては、どの程度の犯罪の疑いがあれば情報提供すべきかといったこと、あるいは医療現場にどのような影響を与えるのかということを十分考慮をする必要があるというふうに考えておりまして、一部の医療関係者などからは、治療継続による改善が期待できると医師が認めた場合には必ずしも警察には通報を要しないということができないかという意見を賜っておりまして、こういう意見も踏まえながら検討を進めていきたいと思っておりますし、こうした検討を通じて、医療機関や自治体ごとに取扱いに現在ばらつきがある状況、これを改めるということができると考えるわけでありますが、一律に告発を促すようなものでは決してないということでございます。
○倉林明子君 私、これ犯罪だと強調されるということで告発がやっぱりすべきものなんだということを、それが基本になりかねない危険があると。
先ほどの議論でも明らかになったように、警察が情報を共有する、こういう可能性というのは極めて高くなる法改正である、それ自身がこの精神保健福祉法の法の理念に逆行するものだと強く申し上げて、終わります。