優生思想残っている 障害者支援 参考人(2022/12/5 厚生労働委員会)
参院厚生労働委員会は5日、障害者総合支援法案について参考人質疑を行いました。
特定非営利活動法人日本障害者協議会の藤井克徳代表は、国連障害者権利委員会が出した障害者権利条約に基づく日本への勧告で、障害者政策が「障害者への父権主義(パターナリズム)的アプローチ」だと指摘していると紹介。「日本は障害者を権利の主体ではなく、保護の対象とし、同情的・温情的な視点からアプローチする。優生思想、または健常者優先主義という視点がまだ残っている」と主張しました。
杏林大保健学部作業療法学科の長谷川利夫教授は、精神科病院での身体拘束が2013年から10年間で2倍になった実態を紹介し、身体拘束の要件緩和で「(これまで違法とされてきた)身体拘束が適法化される可能性がある」と危機感を示しました。
質疑で日本共産党の倉林明子議員は「優生保護法の全面解決に向けて政府・国会に望むことは何か」と質問。藤井氏は「障害者関係で最初に生まれた法律が優生保護法で、障害者を『不良』と呼称し、高校の保健体育の教科書までそれがまん延した。この点での検証は国会では行われなかった。与野党含めて良識の府の参院では真摯(しんし)に向き合ってほしい」と要望しました。
倉林氏は、医療機関に身体拘束を減らすための行動制限最小化委員会の設置後も、身体拘束が逆に増えていると指摘し、「制度上の問題は何か」と質問。長谷川氏は「形式だけで、極めて形骸化している。本当に身体拘束を減らすための検討をやっていない」と指摘しました。
○倉林明子君 日本共産党の倉林明子です。
今日は、四人の参考人の皆さん、本当に貴重な御意見ありがとうございました。
質問は、まず藤井参考人にお願いしたいと思います。
先ほどの意見陳述で、最後の部分で、レジュメには、総括所見から見えてくる課題ということで四点挙げてあるんですけれども、時間がちょっと足りなくなって、そこの部分がちょっと割愛されたように受け止めたので、その部分についてまず補足的に意見表明をいただければと思います。
○参考人(藤井克徳君) ありがとうございます。
まずは、総括所見、初めての国際評価ですね、これに照らして日本の主要な政策を一遍総点検をしてみようじゃないか、これは是非、私は立法府なんかにもこれについては考えていただきたいと思います。
二つ目に、やはり、やや各論ですけれども、先ほどから出ているこの政策審議システム、本当の意味で、私たち抜きに私たちのことを決めないでというあの権利条約の制定過程で繰り返されたフレーズですね、これを含めて考えてもらう。
さらには、実態把握ですね。残念ながらこの国では、障害者の状況というのは基幹統計にほとんどというか、今まで皆無でした。やっと今年度、社会生活基本統計で一部入ってきました。来年は国民生活基礎調査で入ってきます。基幹統計、たしか五十何本あるはずです。障害を持っている者と持たない者が比較できるような、そういうふうなデータをちゃんと取るということが三点目。
そして、国内人権機関、権利条約の第三十三条ですね、政府から独立した、パリ原則ですね、国内人権機関。これについては、子どもの権利条約や女性差別撤廃条約、他の条約体とのやはり共同作業でやっていくということを含めて考えていく。
最後に、私が思うのは、今の障害関連の行政組織機関がこれでいいんだろうかということ。つまり、様々な分野がまたがっています。こども庁ならぬ、将来、障害者庁などのようなことが展望すべきなのか。いや、まずは厚労省の縦割りを消していくために、障害者関係の障害者支援局をつくる。実は、一九九七年に障害保健福祉部が官房長直轄ででき上がったときに、いずれ場合によっては局という話もあったんです。改めて、この障害者支援局なんか考えていくということも考える。こんなことが、総括所見から読み取れる大きな絵柄かと思います。
○倉林明子君 藤井参考人に引き続きお伺いしたいと思います。
国連障害者権利委員会の初の日本審査、傍聴もされたということで伺いました。特にその中で、日本政府の対応について残念なところがということを先ほど少し触れられましたけれども、率直な感想をお聞かせいただければと思います。
○参考人(藤井克徳君) 残念ながら、政府、さっき言った二十八人、六つの省庁から参加して答弁してもらったんですけれども、率直に感じて三点ありました。
一つは、非常に言い訳に終始してしまったという。あれもやっている、これもやっていると言うんだけれども、もう権利委員はそれを見破っているんですね。そういう点でいうと、何となく私たち傍聴団も恥ずかしい思いをしたというのが第一点目。
例えば、障害者基本法の目的条項だけ読んでこれやっていますと言うんだけれども、目的条項はとっても立派なんです。そういう点でいうと、そういうこともあったし、例えば優生保護法問題でいうと、裁判の結果、官房長官がこういう談話を述べた、反省していますと言ったと言うけれども、上告したという事実は言わないわけですね。そういう点でいうと、多くの委員は、ああ、官房長官まで反省した、すごいなという話になってしまうわけで、やっぱりある面でいうと、そこが大変気になった。
二つ目。やっぱり、この権利条約の本旨、本質をもう少し政府は知ってほしい。例えば人権モデルどうかと問われると、いや、人権教育やっていますと言うんだけれども、これ随分内容は違うんですね。そんな一幕があったりで。
最後に、三つ目は、かつて国際障害者年、このときは官僚が物すごく頑張ったんです、追い風にしよう、大蔵省を説得しようということで。そういう点でいうと、この今の厚生省を中心に見ていくと、何か障害者政策を変えていこうという気迫が今度の建設的対話からは感じられなかった、こんなことを大きく感じたわけです。
○倉林明子君 ありがとうございます。
続けて、藤井参考人にお聞きします。
今も少し紹介ありました優生保護法との絡みなんですけれども、この全面解決に向けて、政府、国会に望むことを簡潔に御紹介いただきたいのと、一時金支給法の延長線上には被害者の尊厳回復はないと御指摘もいただいております。御要望をお聞かせいただきたいと思います。
○参考人(藤井克徳君) 私は、優生保護法は終わったけれど、優生保護法問題は終わっていないということを言っています。
すなわち、被害者が、強制不妊手術を受けた者だけでも二万五千人近い、あるいは人工妊娠中絶、知的障害、精神障害者ですね、家族同意なしで受けさせられた五万八千九百七十二人と。こういうこともありますし、もう一方で、障害者関係の立法の最初に生まれた法律が優生保護法なんです。これ、どういうふうに障害者を呼称したかというと、不良と書いたんですね、不良と。そういう点でいうと、これが他の立法にどう影響したのかということ。また、この優生思想というものが、言わば公認したわけですから、高校の保健体育の教科書を含めて、これがもう蔓延してしまったわけです。そういう面から優生保護法問題終わっていないと、こう言っているわけですが。
こういった点でのやはり検証を、残念ながら、国会ではあの一時金支給法の、ごめんなさい、優生保護法の優生条項撤廃、九六年でしたね。また、今度の一時金支給法の創設、これが二〇一九年でした。二回とも超党派での全会一致で委員長提案であったために、逆に質疑がなかった。つまり、総括がないまま、この戦後最大の障害分野の未決着問題がすうっと通ってしまった。
改めて、今せっかく超党派での議員連盟があるわけですから、全党、もっと与党も野党も含めて、今言ったように、最大の未決着問題、障害者問題ではね、これ是非とも、特に良識の府の参議院においては真摯に向き合ってほしいということを要望しておきます。
○倉林明子君 本当に、優生保護法の問題で不良という提起が、その後の精神でも、先ほど紹介ありましたスティグマにつながっていると。やっぱり、この精神保健福祉医療を本当に考える上でも、この問題について真摯に向き合っていくということが我々に求められていると深く自覚して取り組んでいきたいと改めて思いました。
そこで、長谷川参考人にお聞きしたいと思います。
最初に、身体拘束の問題で発信をたくさんしていただいて本当に感謝しているんですが、二〇〇四年の行動制限の最小化委員会が設置されました。二〇〇四年なんですね。で、医療保護入院等の診療料ということでこれ加算、診療報酬上の評価も付けて促進したはずなのに、その後、拘束件数というのは逆に増えるということになりました。十年で二倍という数字、今日、本会議でも紹介したんですけれども、減らそうということで導入したものが結果としては増えることに、つながったのかどうかというのは別としまして、そういうことになっているということで、これ急増して長期化しているということだと思うんですね。
これ、減少しない、本当は減らそうとしたのに減少しないと。制度上の問題について、先生、お考えをお聞かせいただければと思います。
○参考人(長谷川利夫君) ありがとうございます。
これは、済みません、私、余り口が良くないのであれなんですけれども、税金泥棒だと、税金泥棒というか、(発言する者あり)保険料泥棒かな。何か、いや、というか、あと、その政策の評価というのがそもそもなされていないですよね。
だから、これは、行動制限最小化委員会が実は設けられたのは犀潟病院事件がきっかけです。新潟県にある犀潟病院で、一九九八年に、五十歳代の女性が、医師の診察ないまま看護師が身体拘束をして、そして喉に物を詰まらせて亡くなった。そのときは国立療養所でした。ですから、公衆衛生審議会でも議論され、そして厚生科学研究が組まれ、そして内部審査機関を設けるということが提案され、そしてできたのが行動制限最小化委員会です。元々の発端というのはそこなんですね。
ところが、いつの間にか、月に一回研修会やっているとか、あとは一覧性台帳を設けているとか、そういう形式をやっていれば報酬が入ってくるというふうな形になってしまっていて、私も幾つかのところからお話はお伺いしていますけれども、極めて形骸化しています。
それは、とりわけ日本の医療の世界というのは、やっぱり医師を頂点としたヒエラルキーが非常に強いので、なかなかその中で、医師が、精神保健指定医が出した決定についてみんなでフラットに検討し合うということが非常にしにくいと感じています。私もオブザーバーで出たこともありますけれども、大体、司会の方が各病棟に、どうですかといって件数だけ報告させて終わっていたりとか、本当に減らすための検討をやっているという感じではなかったです、私の知る限りでは。むしろ、ちゃんと本当に減らすという検討をやっていればこうはなっていないわけで。
あと、外部の人がやっぱり入らない。だから、それもやっぱり同僚審査、内部審査になってしまっていて、別にそれは医療的な視点で見なくてもいいわけですよね。いや、普通の感覚でいったら、これだけ長くやっているのはおかしいんじゃないのというふうな一言を発してくれている、くれるという視点が大事だと思うんですね。
さっき私が言った、フリードソンが言った、専門家以外の者で相殺するという視点が僕は大事だと思うんですけれども、でも、そうでなくて、専門家同士で集まって、そして一定の結論が出て終わってしまっているというのが行動制限最小化委員会ということで、これはだから、その政策の失敗というのはなかなか認めたくないんだと思うんですけれども、これはきちんとやっぱり総括して、別の方法をきちんと模索するとかしないといけないのではないかなというふうには思っています。
○倉林明子君 ありがとうございます。
総括所見、先ほど来話題になっていますけれども、との関わりで、今回の身体拘束に関わる要件緩和の問題を先ほど御紹介もありました。要は、総括所見から見て今度の要件緩和というのはどうお考えになるかということ一点と。
もう一点お聞きしますが、身体拘束に関して、電話番号も公開して多くの相談が寄せられているということです。深刻なケース、大変多いんじゃないかと。寄せられるSOSもあるということです。
具体的な事例で、まあプライバシーの問題ありましょうから、御紹介していただけるところを紹介していただいて、是非共有したいと思います。お願いします。
○参考人(長谷川利夫君) まず、総括所見の関係でいえば、身体的拘束とか、あと強制治療とかですね、それから医療観察法とか、あと、そもそも精神保健福祉法というもの自体が非常に重大な懸念を持って観察しなければいけないということになっているので、そもそもが強制的にそういう措置をするということ自体が非常に良くないということでもう言われていますので、何というんですかね、ちょっと日本の現状からすると、本当にある意味先を行っているので、何かすごい距離を感じてしまうというか、日本は不適切な身体拘束をゼロにするというふうにしている今レベルなので、余りにも落差が大きいなというふうなことを感じています。
それから、身体拘束では本当に実際多くの方が亡くなっていて、先週もお電話をいただいて相談しています。今週忙しいので来週お会いしましょうということでしているんですけれども。例えば、これは御遺族の方から、地方とかお名前は言わないけれども、どうぞ広げてくださいと言われている例ですけれども、ある地方で、地域で暮らしていた統合失調症の男性の方がいらっしゃいました。
それで、そのとき、あるときアパートを出て交番に行ってお巡りさんに、そのときちょうど安倍政権のときで、安倍さんがどうのこうのということをちょっと言ったと。そうしたら、もうすぐに精神科病院に連れていかれて緊急措置入院になってしまい、そして、あなたは統合失調症スペクトラムに罹患しておりという紙を渡され、私も全部、カルテも全部読んでいるんですけれども、それで、でもその人は薬は飲んでいなかったんですけれども、薬を飲みなさいと言われて、いや、私は飲みません、飲みなさい、その押し問答で、最終的に身体拘束をして強制投与、点滴で薬を入れるという形になりました。そして、その方は亡くなっています。それはエコノミークラス症候群でもう確定診断が、肺血栓でもう亡くなっています。
ただ、何でこういう話が、じゃ、メディアに出てこないかというと、これも最終的に和解なんですよね。だから、秘匿条項が付いているのでしゃべれないということで、私の場合は、弁護士の方から最初相談があったんで、実際御遺族と直接その地方に行ってお会いして、話の内容だけは伝えてもいいかということで了承を取っているので、こういうふうな強制治療による身体拘束、精神保健福祉法は強制治療を認めているとは思いませんけれども、そういうことすら起きているということを知っていただきたいと思います。
○倉林明子君 最後になるかと思いますけれども、長谷川参考人にもう一つだけお聞きしたいと思うんです。
さっきの御紹介あった例は和解になったのでということでしたが、石川県の大畠一也さんが身体拘束を受けて、やっぱりエコノミー症候群で亡くなったと。最高裁判例が確定したということになっているわけですが、これ、違法性が認められたということの意味をどう受け止めていらっしゃるか。そして、医療現場や精神科医療、福祉に関わる法制度にどんなふうに波及していってほしいかと。現場が変わるというために何が必要とお考えか。余り時間ありませんが、済みません。
○参考人(長谷川利夫君) 今日、資料に「精神看護」という雑誌の連載を入れさせていただいておりまして、現場にまずこのことを知っていただくということが大事だと思います。やっぱり身体拘束の実施の違法性が正面から争われた裁判というのは非常に少なくて、今回はそれがメーンの争点でパーフェクトに勝訴をしているということで、身体拘束というのは非常に限定的に行われるんだということを明確に述べているんですね。ですから、ただ、現場の人は余り知らないし、日本精神科病院協会は先ほどのような声明を出している状況なので、もうこれは広げていくしかないんですけれども。
ただ、私は、看護の方々とかにはある意味希望を持っていて、看護の方々は指示を受けて実際にする立場なので、また医師の方と違う悩みを持っています。ですから、非常に苦悩、また別の意味の苦悩があって、そこには、でも、私は、光がないとは言えない、あるんじゃないかなと思っているので、看護の方々ともまた一緒に手を携えていろいろ一緒に考えていく。例えば、暴力というものをどう考えるか。暴力は、何か症状でただするんじゃなくて、人と人の関わりでなるというふうな、そういう考えとか、いろんな発想がありますので、やっぱり看護の方々とかとも一緒にいろいろできればなと思っています。
○倉林明子君 ありがとうございます。まとめていただいてありがとうございます。
今までのお話の中でも、やっぱり総括所見との関係でいうと、日本の精神科医療の遅れというのは、先ほど藤井参考人からも御紹介あったとおり百年以上の開きがあると、これが私も実感です。やっぱりこの総括所見をどうやって力にしていくのかということが、非常に法審議に当たっても重要だと受け止めています。
今日は、辻本参考人、若尾参考人、現場で金と人が決め手だというような御発言もいただきました。そうした御意見も含めて参考にしながら審議に臨みたいと思います。
ありがとうございました。