精神保健 基盤整備が最優先 倉林氏 厚労相は遅れ認める(厚生労働委員会)
(資料があります)
日本共産党の倉林明子議員は20日の参院厚生労働委員会で、精神障害者の処遇改善が政府の目標からみてもきわめて遅れた実態にあるとして、塩崎恭久厚生労働相に「立ち遅れた状況は続いている」と認めさせました。塩崎氏は7日の本会議で、諸外国や他の障害者施策と「単純に比較するのは難しい」との認識を示していました。
倉林氏は、政府が2004年に策定した「精神保健医療福祉の改革ビジョン」を示し、基本方針の中で明確に精神保健医療福祉体系が立ち遅れているとの認識を示している指摘。精神障害者施策の「入院医療中心から地域生活中心」への転換のために、改革ビジョンが掲げる、10年間で精神病床を7万床解消する目標の達成状況が1.8万床にとどまっていることを明らかにしました。倉林氏は「地域の受け皿となる基盤整備こそすすめるべきだ」とし、政府が今国会で成立を狙う精神保健福祉法改定案を批判しました。
塩崎厚労相は質疑終了後、同法案の政府の説明資料の「改正の趣旨」から相模原市の障害者施設で起きた殺傷事件に関する一文を削除した問題で、異例の「再説明」を行い、混乱を招いたとして謝罪しました。ただ、削減理由については、塩崎氏自身が相模原事件を受けて法案を提起したと明言してきたにもかかわらず、「犯罪防止のための法案との誤解を招かないようにする」ためなどと矛盾する説明に終始しました。
○倉林明子君 日本共産党の倉林明子です。
精神保健障害福祉に関する法律について、改正趣旨を変えるということで、今回の質疑は一般質疑で、その質疑終了後に改めて説明を受けるということになっています。その中身については引き続き徹底的に審議をさせていただきたいと思うわけですが、改めて、今日は、精神障害者の保健、福祉をどう向上させていくのかという観点から、法に関わって代表質問で行いましたところ、大臣からいただいた答弁に関わって質問したいと思うんです。
大変、本会議の質問の答弁の中で驚いた答弁の一つが、精神障害者の日本における処遇が世界的にも他の障害者施策よりも遅れているという認識はあるのかないのかということでお聞きしたところ、大臣は、諸外国の取組や他の障害者施策と単純に比較するのは難しいという答弁だったんですね。私、この評価についてびっくりしたというのが正直な感想だったんです。
そこで、私、確認したいと思うわけです。二〇〇四年に精神保健医療福祉の改革ビジョンが出されております。この改革ビジョンの基本方針は何だったのか、お答えください。
○政府参考人(堀江裕君) 委員御指摘の、平成十六年、二〇〇四年九月に厚生労働大臣を本部長とします厚生労働省精神保健福祉対策本部が決定した精神保健医療福祉の改革ビジョンについてでございますが、その基本方針は、入院医療中心から地域生活中心へという基本的な方策を推し進めていくために、精神疾患や精神障害者に対する国民の理解を深めていただくこと、それから、早期に退院できる体制整備など精神医療の改革、それから、相談支援、就労支援等の機能強化を通じました地域生活支援の強化を十年間で進めていくということでございまして、受入れ条件が整えば退院可能な者約七万人については、精神病床の機能分化、地域生活支援体制の強化など、立ち遅れた精神保健医療福祉体系の再編と基盤強化を全体的に進めることによりまして、十年後にその移行といいますか、七万人につきまして解消を図っていくと、こういうことが盛り込まれてございます。
○倉林明子君 今紹介あった前段のところでも、入院医療から地域生活中心へという中で、やっぱり、立ち遅れた精神保健医療福祉体系の再編と基盤強化を今後十年で進めると、この一つの方針示されているし、もう一点で、受入れ条件が整えばというところで、もう一度、立ち遅れた精神保健医療体系の再編と基盤強化、全体的に進めることが必要だと、こういう十年目標が出された基本方針だったと思う。
つまり、二〇〇四年、この改革ビジョンは私、画期的なものだったと思うわけですけれども、この時点では厚生労働省の認識は精神保健医療福祉体系は立ち遅れていると、こういう明確な自覚があったんだということだと思いますよ。大臣、よろしいですか。
そこで、この画期的なビジョンで掲げた目標は、十年たっているんだけれども、数値目標というのは一体どうだったのかと、まず目標のところから確認したいと思います。
○政府参考人(堀江裕君) 御指摘の改革ビジョンにおいては、入院医療中心から地域生活中心への政策理念を明確にするため、精神保健医療福祉体系の再編の達成目標といたしまして、各都道府県において、新規に入院する患者の一年間の平均残存率を二四%以下、既に一年以上入院している患者の一年後の退院率を二九%以上とすることを数値目標として掲げ、これらを達成することによりまして十年間で約七万床相当の精神病床数の減少が促されるとしていたものでございます。
○倉林明子君 そこで、十年たってどうなっているのかというのを資料をお付けいたしました。それが一枚目、御説明ありました全国の平均残存率がどうなっているか、二十六年集計中ということになっていますが、目標には及んでおりません。さらに、全国の退院率も、目標二九%以上ということですが、これも達成に至っておりません。そして、囲ってある上のところですけれども、平成二十六年における当初設定した目標の達成は困難であると考えられるということになっているわけですね。
結局、確認したいと思うんですよ。受入れ条件が整えば退院可能な約七万床、これ十年で解消していくという目標だったわけですね。入院から地域へ、この大きな目標の達成状況というのは一体どうなっていますか。
○政府参考人(堀江裕君) 改革ビジョン期間終了時点の達成状況、今、数値の部分につきましては少し補足させていただきますが、先ほどの精神病床数といたしましては、平成十四年の三十五・六万床から平成二十六年には三十三・八万床と、一・八万床減少してございますけれども、七万床減少という当初の想定どおりには進んでございません。
○倉林明子君 これ、資料二でも付けておりますけれども、結局、目標達成状況、到達率で見ると、二五%というところにとどまっているのが現状だということだと思うんです。結局、十年前、二〇〇四年のときも立ち遅れていたんだけれど、現時点でもやっぱりこういう現実というのは立ち遅れているということだと思うわけです。
改めて大臣の評価を確認したいと思います。こうした二〇〇四年のビジョン掲げた時点、そしてそれ以降の取組の到達、やっぱり立ち遅れているというふうにお考えになりませんか。
○国務大臣(塩崎恭久君) 先ほど御答弁申し上げたように、この十六年の改革ビジョンの中では、入院医療中心から地域生活中心へという、これが一番基本的な考え方であったわけでありますけれども、現在もこの考え方はもちろん変わっていないわけであって、一方で、改革ビジョンの数値目標については、今答弁申し上げたように、達成ができていないと、こういう状況にあって、その理由は、長期に入院している精神障害者の地域移行を具体的に進めるに当たって、本人の抱える複合的な様々な課題を解決するための仕組みがまだまだ不十分だというふうな理由があったというふうに考えられるわけであって、こういうことから、本人の意向を最大限に尊重して、医療面だけではなくて、住まいであったり、あるいはその他の生活面であったり、そしてまた御家族との関係、就労、こういった様々な課題を調整をしながら解決を図っていかなければならないというふうに思っております。
入院先の精神科病院だけではなくて、退院後に患者を支える家族や職場、市町村、保健所あるいは医療機関、介護福祉事業所、こういった様々な関係者が入院中からチームとなって患者を支援するということ、それから、地域で暮らしている精神障害者の方々が言ってみればピアサポーターとして助け合っていくという、そういう支援の仕組みというものもつくらなければならないということで、いずれにしても、一人一人の精神障害者に寄り添った地域移行というものをどうするかということで、今、ビジョンの中で立ち遅れているという表現が平成十六年にあったわけで、そういう意味では、特にその地域移行という面でまだ立ち遅れた状況であるということはそのとおりだろうというふうに思って、更なる努力をしなければいけないというふうに思っております。
○倉林明子君 いや、私、本会議で大臣の答弁聞いてびっくりしたのは、諸外国の取組、他の障害者施策とも単純に比較するのは難しいという答弁をいただいたことにびっくりしたんですね。なぜかというと、この法改正の方向性、到達点をどう評価するかということからやっぱり法改正の方向性は出てくると思うんですよ。この二〇〇四年のビジョンというのは、当事者はもとより関係者は大いに歓迎したわけですよ。ところが、その到達点がはっきり言ってお恥ずかしい状況だと思うんですよ。
改めて、こういうビジョンが目指した方向、諸外国とも他の施策とも比べて、もう一回聞きたいと思うんですね。立ち遅れている現状は、精神障害者の医療、福祉、衛生という面で立ち遅れているという認識を持つべきだと私は思うんですけれど、どうですか。
○国務大臣(塩崎恭久君) 本会議での答弁は、特に外国とどういう形で比べたらいいのかというのはいろいろあろうかということで、余り明確に言っていないわけでありますが、今申し上げたように、一番大きな方向性として地域移行ということをこの平成十六年に打ち立てているわけでありますけれども、そういう面で進んでいないという意味では、立ち遅れた状態は引き続き続いているということは率直に認めないといけないと思いますし、今回の法案も、同じ問題意識で地域移行をしっかりと進めるということが、整備上いろいろと埋めなきゃいけない空間があるなということで、政策的な隙間をしっかりと埋めていくことによって地域移行が実効あるものとして実現するように努力をしていかなければいけないと、これは社会全体の問題ではないかというふうにも思いますが、その制度的な面を法律でもって今回御提起申し上げているという、そういうつもりでございます。
○倉林明子君 今回目指している法案の中身についての議論は改めてたっぷりやりたいというふうに思います。ただ、先進国のところでいえば、入院から地域へという、こういう取組が日本よりもう本当に何十年前から進んできたという実態も踏まえて、各国との比較でもやっぱり遅れているというところをしっかり見る必要があると思います。
そこで、改めてこの改革ビジョンに立ち戻りたいわけですけれども、ここで掲げた目標が達成できていないということは明らかなわけです。じゃ、果たしてここで掲げた目標の達成をどうやって進めていくのか、目標自身どうなるんでしょうか。
○政府参考人(堀江裕君) これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会におきまして、今の精神保健医療福祉の改革ビジョンの振り返りを行って今後の方向性を取りまとめているところでございまして、あるべき地域精神保健医療福祉体制を見据えて、平成三十年度から開始されます各都道府県の医療計画、それから各都道府県、市町村の障害福祉計画、介護保険事業計画の策定プロセスを通じまして、新たな中長期の目標である入院需要、それから地域移行に伴う基盤整備を明確にすることとしてございます。
それから、障害福祉計画に基づいて、平成三十二年度までに多職種チームによる支援体制を構築して、全ての圏域、障害福祉圏域でございますが、全国三百五十四でございますが、及び市町村ごとに、その保健、医療、福祉の連携に向けました精神保健の協議の場を設置することを考えてございまして、それを計画に盛り込んでいただきます。
こうした取組を通じまして、厚生労働省といたしまして、精神障害者の方が地域の一員として安心して自分らしく暮らすことができるよう、それぞれの計画に基づき適切な支援が受けられる環境を整備していきたいというふうに考えてございます。
○倉林明子君 このビジョンは十年達成ビジョンだったわけですよね。ところが、現状では達成できていないんだけれども、目標数値としては一体何になるのかというのがないまま全体の中で数値目標を定めていくんだということで、現状ではビジョンの目標というのは消えちゃっているんですよね。
私、この立ち遅れを取り戻すという観点からも、最優先に取り組んでいくべきが、やっぱり遅れを認められた地域の精神保健福祉体制、いわゆる地域でどうやって受皿をつくっていくのかということを、本当にこの基盤整備ということが緊急に求められている課題だろうと。ここが遅れていたからこそ進まなかったという答弁もあったと思うわけです。私、そういう意味で、改めてこの改革ビジョンに立ち戻って、しっかり目標も据えてやり直すべきだというふうに思っています。
今回の法整備で措置入院の制度見直しありきと、これが最優先されるべき課題ではないということを強く申し上げまして、今日は終わります。