倉林明子

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精神保健福祉法 患者権利に逆行する問題指摘 (本会議)


 日本共産党の倉林明子議員は7日の参院本会議で、精神保健福祉法一部改定案に立ち、「本法案には精神障がい者の権利擁護に逆行する重大な問題が含まれている」として関係者の意見も踏まえた徹底審議を求めました。
 
 倉林氏は、政府の改定案には昨年7月の相模原市の障がい者施設での殺傷事件に触れ「二度と同様の事件が発生しないよう」としているが「これでは改正の目的が精神障がい者の犯罪防止となる」と指摘。「精神障がい者の福祉増進・国民の精神保健の向上を図る」とした法律の目的と矛盾するとし「犯罪の主要因が精神疾患や精神医療歴にあるとの立証もされていない。まぜいま法改正なのか」とただしました。
 改定案は入院しなければ自傷他害の恐れがある場合に都道府県知事の権限で入院させることができる「措置入院」に、新たに「退院後支援計画」策定を盛り込むもの。計画策定のための協議会には警察が関与するとしています。
 
 倉林氏は一方で、患者本人や家族の計画策定への関与が弱いことや、患者が通院後に転居した場合に自治体への通知を義務付けること、警察も情報を共有するとしていることなどを指摘。「精神障がいを理由に犯罪防止の対象とするなど決して容認されるものではない」と批判しました。
 
 塩崎恭久厚労相は「退院後の支援には、患者本人や家族の意向を踏まえる」と述べるにとどまりました。


議事録を読む

○倉林明子君 日本共産党の倉林明子です。
 私は、日本共産党を代表し、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案について、厚生労働大臣に質問します。
 近代日本の精神医学、医療の先駆けとなった呉秀三氏は、我が国何十万の精神病者は実にこの病を受けたる不幸のほかに、この国に生まれたるの不幸を重ぬるものと言うべしと表しました。
 座敷牢に始まり、一九五〇年の精神衛生法制定に至るまで、日本における精神障害者対策は、長く隔離、収容する歴史であったと言っても過言ではありません。
 精神衛生法制定後も、圧倒的に不十分な体制と診療報酬の下で精神病院での隔離、拘束が行われ、患者の人権侵害が続発しました。暴行事件や無資格診療が放置され続けた宇都宮事件では、措置入院の患者の多くが措置の必要のない患者だったことが判明するなど、大きな社会問題に発展し、ようやく一九八七年の精神保健法で患者の人権尊重が盛り込まれることとなりました。しかし、現在でも精神障害者に対する偏見は根強く、人権侵害の事案も少なくありません。
 日本の精神障害者の処遇が、国際的に見ても、他の障害者施策から見ても遅れているとの認識はありますか。大臣の認識をお聞かせください。
 本法案では、改正の趣旨として、相模原市の障害者施設、津久井やまゆり園の殺傷事件が挙げられています。二度と同様の事件が発生しないよう法整備を行うとしていますが、これでは改正目的が精神障害者の犯罪防止となり、本法律の第一条、精神障害者の福祉増進、国民の精神保健の向上を図るとした目的と矛盾するのではありませんか。
 そもそも、相模原事件の被疑者は起訴前の鑑定結果で責任能力が認められています。犯罪の主要因が精神疾患や精神医療歴にあるとの立証もされていません。事件と精神障害との因果関係も未解明なまま、なぜ法改正が必要となるのか。立法事実について明確な説明を求めます。
 入院しなければ自傷他害のおそれがある場合、都道府県知事の権限による入院が精神科医療にのみ認められているのが措置入院です。この措置入院患者に対する退院後の継続的な支援と称して、入院中に都道府県等が退院後支援計画を策定するとしています。設置される精神障害者支援地域協議会に新たに警察も参加することとしています。なぜ精神障害者の退院後の継続的支援に警察が関与する必要があるというのでしょうか。加えて、グレーゾーン事例を対象に含めた理由は何か、答弁を求めます。
 また、この計画策定に当たって実施する個別ケース会議には、患者本人や家族は必要に応じて参加するとされているだけで、精神障害者の自己決定権が担保されているものではありません。誰が参加の可否を判断するのか、その基準は何なのか、説明を求めます。
 さらに、措置入院患者が入院時と異なる地方自治体に転出した場合、転出先の自治体とも情報を共有するとして、移転元から移転先への通知を義務付けています。この情報は警察も共有するということになるのではありませんか。
 どこに退院したとしても、警察の監視対象とされかねない危険があります。これは、憲法二十二条、居住、移転の自由を侵害するのではありませんか。大臣の見解を求めます。
 厚労省の調査によれば、精神病院で身体拘束や施錠された保護室への隔離を受けた入院患者が二〇一四年度に過去最高を更新し、隔離は調査が始まって以来、初めて一万人を突破しました。大臣は、入院医療における精神障害者に対する人権保護はいまだ改善されていないとの認識はお持ちですか。
 我が国の精神科医療は、一九五八年、医療法に精神科特例が設けられ、一般科と比べて医師は三分の一、看護師は三分の二の人員でよいとされて以来、半世紀を超えてもなおこの基準が続き、精神科医療の向上を妨げる大きな要因となってきました。障害者権利条約第五条は、平等の実現と差別の禁止の遵守を求めています。こうした格差は直ちに解消すべきではありませんか。
 精神病院の入院患者数は減少傾向にあるものの、この間、医療保護入院は増え続け、二〇一五年には精神病院入院患者の四六%を占めています。医療保護入院とは、精神保健指定医が本人の医療及び保護のために入院が必要と判断しているが、本人が同意しない場合、保護者の同意による入院を認めているものです。医療保護入院は、入院を必要とする精神障害者で、自傷他害のおそれはないが、任意入院を行う状態にない者という要件が曖昧で、措置入院と同様、本人の同意のない入院となるものです。
 本法案では、本人に代わって入院の同意をする範囲を、家族等に加えて市町村長にも拡大するとしています。安易な保護入院を増やし、入院の長期化につながりかねません。市町村長に同意の範囲を拡大した理由は何か、説明を求めます。
 医療保護入院については、さきの法改正時に、三年後をめどにその手続の在り方等について検討し見直すとされていたものです。日本精神神経学会からは、措置入院も含め、本人同意のない入院や行動制限は、精神科医療に限定された問題ではなく、医療全体の問題として特別法の制定も視野に入れた検討が求められていたものです。精神障害者の人権保護という観点からの検討はどのようにされたのか、お答えください。
 一九九一年、国連は、精神疾患を有する者の保護及びケアの改善のための原則を定め、精神疾患を有する者の基本的な自由と人権と法的権利を保護するための最低限の基準を定め、各国政府に国内法の整備を要請しました。既に、日本政府は二〇一四年に障害者権利条約を批准しています。果たして、本法案は要請や条約に沿ったものとなっているでしょうか。
 障害者権利条約第十四条(b)は、「不法に又は恣意的に自由を奪われないこと、いかなる自由の剥奪も法律に従って行われること及びいかなる場合においても自由の剥奪が障害の存在によって正当化されないこと。」としています。この条文にのっとれば、精神障害を理由に精神障害者を強制的に保護することが認められないことは明らかです。まして、精神障害を理由に犯罪防止の対象とするなど、決して容認されるものではありません。
 本法案には、精神障害者の権利擁護に逆行する重大な問題が含まれています。関係者の意見も十分に踏まえた徹底審議が必要であることを主張し、質問を終わります。(拍手)
   〔国務大臣塩崎恭久君登壇、拍手〕

○国務大臣(塩崎恭久君) 倉林明子議員にお答えを申し上げます。
 日本の精神障害者の処遇についてのお尋ねがございました。
 日本の精神障害者の処遇についてでございますが、精神保健福祉法は、これまでも精神障害者の人権擁護、適正な医療の確保、社会参加の促進などの観点から改革を重ねてまいりました。
 精神障害者の処遇について、諸外国の取組や他の障害者施策と単純に比較することは難しいと考えておりますが、引き続き、精神障害者が地域の一員として安心して自分らしく暮らせるように施策を推進をしてまいります。
 法案の目的、立法事実についてのお尋ねをいただきました。
 本法案の目的は、精神障害者の社会復帰の促進等であり、犯罪防止ではありません。また、昨年七月に発生をした相模原市の障害者支援施設における事件の検証の結果、現行法には、措置入院者について退院後の医療等の支援が不十分である等の課題が明らかになりました。こうした課題に対応するため、措置入院者の退院後の支援の強化等を内容とする本法案を提出したものでございます。
 退院後支援における警察の関与等についてのお尋ねをいただきました。
 精神障害者支援地域協議会では、地域における精神障害者の支援体制の協議と個別ケースの支援内容の協議という二つの役割があります。このうち、支援体制の協議を行う代表者会議には警察の参加も想定されていますが、個別ケースの退院後支援に原則警察は関与いたしません。また、御指摘のグレーゾーン事例については、例えば、確固たる信念を持って犯罪を企図する者への対応などは、医療と警察の役割分担が必要でございます。このため、あらかじめ代表者会議においてその対応方針を明確化することが必要であると考えております。
 退院後支援計画を策定する個別ケース会議への患者、家族の参画についてのお尋ねがございました。
 退院後の医療等の支援を行う上では、患者本人や家族の意向を踏まえることが極めて重要であると認識をしております。個別ケース会議の開催に当たっては、都道府県等が患者、家族の参加を判断することになりますが、可能な限り患者本人と家族に御参加をいただき、計画の内容や必要性について丁寧に説明を行うこと等により、その意向を踏まえた適切な支援がなされるよう求めてまいります。
 措置入院者が転出した際の、転出先の自治体への通知の義務付けについてのお尋ねがありました。
 御指摘の通知は、措置入院者が退院をし、他の自治体に転出した後も、継続して必要な医療等の支援を受けられるようにするためのものであり、監視をしたり、居住、移転の自由を制限したりするものではありません。
 精神障害者の人権保護等についてのお尋ねがございました。
 精神科病院において、隔離や身体的拘束が増加している要因については、本年六月に予定をしている実態調査を通じて早期に分析を行います。また、精神病床の人員配置基準については、一般病床と比べて低く設定されていますが、その上で、急性期の患者に対しては手厚い医療を提供するなど、精神科病院における医療の特性や治療の密度も考慮に入れて検討していくことが必要と考えております。
 医療保護入院についてのお尋ねがございました。
 現行では、精神障害者の家族等が意思表示を行わない場合、必要な入院医療につながりません。このため、本法案では、市町村長による同意の対象を拡大をし、患者を適切な医療につなげることとしております。同意の際に必要となる手続や確認事項は、ガイドラインとして明示をしてまいります。また、本法案では、患者の人権保護の観点から検討を行い、医療保護入院を行う際に、病院管理者に対し、その理由を患者に告知することを求めることなどを盛り込んでまいります。(拍手)