薬事承認の原則守れ 薬機法改正案 「緊急」運用ただす / 財政民主主義反する 与党要求補正予算案 批判(2022/4/22 本会議)
日本共産党の倉林明子議員は22日の参院本会議で、薬機法改正案で新設されるワクチン・医薬品などの「緊急承認」について、薬事承認の大原則が崩れ、時の政権によって恣意(しい)的に運用されることがあってはならないと強調しました。
倉林氏は「緊急時には有効性が『推定』された段階での承認を可能とする」という例外規定が盛り込まれることで、「これまで検証的臨床試験によって有効性、安全性を確認してきた薬事承認の大原則が崩れることはないのかが問われる」と指摘。「時の政権の判断で緊急承認が恣意的に運用されることがあってはならない」と強調しました。岸田文雄首相は、「緊急承認でも、科学的エビデンスに基づき、公平かつ公正に手続きを行う」と答えました。
また倉林氏は、同改正案で創設される電子処方箋に関連し、マイナンバーカードを保険証として利用する「オンライン資格確認システム」が、システムトラブルで運用開始が遅れた問題を追及。その上で、セキュリティー対策やシステムの維持・管理が医療機関の自己責任となっているため、「医療機関をサイバー攻撃から守るセキュリティー対策に、国が責任をもって取り組むべきだ」と主張しました。
日本共産党の倉林明子議員は22日の参院本会議で、自民・公明両党が求める予備費を積み増す補正予算は財政民主主義に反すると批判し、暮らしを支援する補正予算を編成するよう迫りました。
倉林氏は、コロナ禍とウクライナ危機で、景気低迷、生活困窮が長期に及ぶ中で、物価高騰が襲い、暮らしと営業は深刻な打撃を受けていると指摘。「住民税非課税世帯に限定せず、生活困窮者に対する手厚い給付金を支給すべきだ」と求めました。
また、与党が予備費を積み増す方向で補正予算の今国会提出を求めたことについて、「財政民主主義に反する」と厳しく批判。「消費税の5%への引き下げ、年金減額中止など、野党の提案を受け入れ、暮らしを支援する補正予算を速やかに組むべきだ」と求めました。
岸田文雄首相は「与党からの補正予算編成の申し入れを踏まえ、緊急総合対策は4月中の取りまとめに向け具体的にすすめる」と答弁。「消費税率の引き下げを行うことは考えていない」と背を向けました。
日本共産党の倉林明子議員が22日の参院本会議で行った「医薬品医療機器等の品質、有効性・安全性等確保法」(薬機法)等改正案に対する質問(要旨)は次の通りです。
日本ではジフテリア事件や薬害エイズ事件など、ワクチンなどが引き起こした健康被害が繰り返されました。悲惨な薬害の教訓を忘れてはなりません。
新設される緊急承認では、平時の薬事承認を規定する薬機法に、「緊急時には、有効性が『推定』された段階での承認を可能」とする例外規定が盛り込まれます。これまで第三相試験で有効性・安全性を確認、考慮した上で承認してきた薬事承認の大原則が崩れないかが問われます。
緊急承認は、適用する医薬品等は政令で指定しますが、衆院では「政府が政策的に総合的に勘案」と答弁しています。緊急事態であることを、誰が、どう判断するのか。
適用対象の条件は「緊急に使用されることが必要な医薬品等について、他に代替手段が存在しない場合」としています。衆院では「原子力事故やバイオテロ等による健康被害」も「該当し得る」と答弁しています。立法事実がパンデミック対応であるにもかかわらず、なぜ原子力事故やバイオテロも含まれるのでしょうか。なぜ緊急事態に限定される承認のあり方を通常の薬機法に盛り込むのでしょうか。
緊急承認を受けた医薬品等は、2年以内に通常の薬事承認を申請する必要があり、1年延長できます。延長回数は1回に限る旨を法文上で明記すべきではありませんか。
承認申請の際の提出資料は、「原則、通常の承認と同様に第三相臨床試験の結果の提出を求める」としています。ならば、期限内の承認申請で「臨床試験の試験成績に関する資料」を明記すべきではありませんか。厚労省は「リアルワールドデータの提出を求める場合もある」としています。リアルワールドデータと、臨床試験の成績データにはどのような違いがあるのか。
健康被害の救済について、新型コロナワクチン接種後の死亡例は1635件ですが、ワクチンとの因果関係が認められず、救済事例はありません。因果関係が否定できないものは救済すべきではありませんか。
法案では、マイナンバーカードの保険証利用によるオンライン資格確認システムを活用して電子処方箋を創設しますが、資格確認システムはトラブルが相次ぎ延期されました。要因をご説明ください。政府は、顔認証付きカードリーダーの導入にのみ財政支援を行い、セキュリティー対策やシステム維持・管理は医療機関の自己責任です。医療機関を守るサイバーセキュリティー対策に国が責任をもって取り組むべきではありませんか。
○倉林明子君 日本共産党の倉林明子です。
私は、日本共産党を代表して、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等改正案について、岸田総理及び後藤厚労大臣に質問いたします。
コロナ禍とウクライナ危機によって景気の低迷、生活の困難が長期に及んでいるところに、ガソリン、食料品、電気料金を始め物価の高騰が襲いかかり、暮らしと営業は深刻な打撃を受けています。総理、住民税非課税世帯に限定せず、生活困窮者に対する手厚い給付金を支給すべきではありませんか。
与党は予備費を積み増す方向で補正予算の今国会提出を求めていますが、財政民主主義に反するものです。消費税を直ちに五%に引き下げ、年金減額を中止するなど、野党の提案を取り入れ、暮らしを支援する補正予算を速やかに組むことです。いかがですか。
以上、二点の総理の答弁を求めます。
薬機法等の一部を改正する法律案について質問します。
日本では、一九八四年に発生した世界最大規模のワクチン禍であるジフテリア事件、薬害エイズ事件など、ワクチンや医薬品が引き起こしてきた健康被害が繰り返されてきました。これまでの薬害の教訓から、厚労省の正面玄関前には、サリドマイド、スモン、HIV感染のような医薬品による悲惨な薬害を再び発生させることのないよう、医薬品の安全性、有効性の確保に最善の努力を重ねていく決意が銘記された誓いの碑が建立されています。
我が国のワクチン、医薬品行政を進めるに当たって、悲惨な薬害の教訓を決して忘れてはなりません。繰り返されてきた薬害に対する総理の認識をお聞かせください。
本法案で新設される緊急承認についてお聞きします。
今回の法改定では、平時の薬事承認を規定している薬機法に、緊急時には有効性が推定された段階での承認を可能とするという例外規定が盛り込まれることになります。これまで、第三相の検証的臨床試験によって有効性、安全性を確認して、リスクとベネフィットを考慮した上で承認してきた薬事承認の大原則が崩れることはないのかが問われます。
二〇二〇年五月、安倍元総理が今月中の承認を目指したいと承認に前のめりの姿勢を示した治療薬アビガンは、約百三十億円を投じて二百万人分を備蓄しましたが、新型コロナ感染症に対する有効性を示すことはできておりません。
時の政権の判断で緊急承認が恣意的に運用されるようなことがあってはならないと考えますが、総理、いかがでしょうか。
以下、厚労大臣にお聞きします。
緊急承認は国内全ての医薬品や医療機器が対象となっており、適用となる医薬品等は政令で指定することになりますが、衆議院では、政府が政策的に総合的に勘案しながら政令で指定すると曖昧な答弁に終始しています。緊急事態であることを、誰が、どう判断するのか、明確にお答えください。
適用対象となる医薬品の条件は、国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある疾病の蔓延その他の健康被害の拡大を防止するため緊急に使用されることが必要な医薬品等について、他に代替手段が存在しない場合としています。衆議院では、最も想定されるのは感染症の蔓延と考えているが、原子力事故やバイオテロ等による健康被害についても、個別具体的な状況に応じて、緊急に使用する必要性に該当し得ると答弁しています。
立法事実がパンデミック対応であるにもかかわらず、なぜ原子力事故やバイオテロも含まれているのでしょうか。また、ほかに代替手段がない場合といいながら、他の医薬品が承認されている状況でも、治療の選択肢の拡大、安定的な供給の拡大ということでも対象になり得るのであれば、無限定に適用が広がることになるのではありませんか。
そもそも、なぜ緊急事態に限定される承認の在り方を通常の薬機法に盛り込むのでしょうか。対象を国内全ての医薬品、医療機器まで広げたのはなぜですか。緊急事態を明確に規定する特措法での対応になぜしなかったのですか。お答えください。
緊急承認を受けた医薬品等は二年以内に改めて通常の薬事承認を申請する必要があり、必要と認められれば一年の延長ができることとなっています。その延長の回数について、実態上は一回になるのではないかとの答弁があるものの、期限延長が繰り返される歯止めとはなっておりません。期限の延長は一回に限る旨を法文上で明記すべきではありませんか。
承認申請の際に提出する資料について、衆議院の議論では、原則として通常の承認と同様に、第三相臨床試験の結果の提出を求めると答弁しています。そうであるならば、期限内の承認申請において、臨床試験の試験成績に関する資料を求めると法文上で明記すべきではありませんか。
また、厚労省は、例外としてリアルワールドデータの提出を求める場合もあるとしています。リアルワールドデータとは、日常の診療の中で行われる医療行為の記録とされていますが、日本で活用できるリアルワールドデータは具体的に何か、また、リアルワールドデータと臨床試験の試験成績のデータにはどのような違いがあるのか、お答えください。
次に、健康被害の救済制度についてお聞きします。
現行の副反応疑い報告制度では、新型コロナワクチン接種後の死亡例が千六百三十五件報告されていますが、そのほとんどが情報不足により評価不能とされてしまい、ワクチンとの因果関係があると認められていないのが現状です。健康被害救済制度での救済事例は一件もありません。情報不足であっても、因果関係が否定できないものは副反応疑いでも健康被害救済制度で救済していくべきではありませんか。
さらに、有効性の推定段階での承認が行われる緊急承認を導入するのであれば、そのリスクに見合うような支給要件の更なる緩和や手厚い救済を実施すべきではありませんか。
次に、電子処方箋についてお聞きします。
本法案では、マイナンバーカードの保険証利用によるオンライン資格確認システムを活用して電子処方箋の仕組みを創設します。しかし、そのオンライン資格確認システムは、昨年三月下旬より本格運用を開始するとしていたものが、システムトラブルが相次いだことにより十月に延期された経過があります。オンライン資格確認システムの本格運用が延期となった要因について御説明ください。
電子処方箋の仕組みは二〇二三年一月からの運用開始を予定していますが、残り一年もない中、医療機関には更なる業務負担や費用負担などが生じることになります。
政府はオンライン資格確認で使用する顔認証付きカードリーダーの導入に対してのみ財政支援を行っていますが、セキュリティー対策やシステムの維持管理は医療機関の自己責任となっています。
サイバー攻撃が頻発する中、医療機関の機能停止という事態まで起こっています。医療機関を守るためのサイバーセキュリティー対策に国が責任を持って取り組むべきではありませんか。
厚労大臣の答弁を求めて、質問を終わります。(拍手)
〔内閣総理大臣岸田文雄君登壇、拍手〕
○内閣総理大臣(岸田文雄君) 倉林明子議員の御質問にお答えいたします。
生活困窮者への支援と補正予算についてお尋ねがありました。
昨日、与党から、ウクライナ情勢に伴う原油価格や物価の高騰等に緊急かつ機動的に対応するための総合緊急対策の策定と補正予算の編成について申入れをいただきました。この申入れを踏まえ、総合緊急対策については、四月中の取りまとめに向け、コロナ禍の中で物価高騰等に直面し生活に困窮する方々への支援を含め、具体的に、具体化を進めてまいります。
補正予算の編成についても、申入れを踏まえ対応を検討してまいりますが、御指摘の消費税率の引下げなどは行うことを考えてはおりません。
薬害への認識と緊急承認制度の運用についてお尋ねがありました。
薬害の発生を防止することは政府の重要な任務の一つであり、命の尊さを心に刻み、高い倫理観を持って医薬品の品質、有効性及び安全性の確保に最大限の努力をしてまいります。
また、薬事承認に当たっては、申請者から提出されたデータに基づき、専門家の意見も踏まえつつ総合的に審査することとしており、緊急承認制度の場合においても、科学的なエビデンスに基づき公平かつ公正に手続を行ってまいります。
残余の質問については、関係大臣から答弁をさせます。(拍手)
〔国務大臣後藤茂之君登壇、拍手〕
○国務大臣(後藤茂之君) 倉林明子議員の御質問にお答えいたします。
緊急承認制度における緊急性についてお尋ねがありました。
緊急承認制度の適用対象となる医薬品を政令で定める際は、緊急事態宣言の発出といった具体的な状況も含め、政府全体として判断していくこととしています。
その際、医薬品を緊急に使用する必要性については、疾病の蔓延が最も想定されますが、国民の健康被害に対して必要な医薬品等を緊急的に使用する必要がある場合は、疾病の蔓延だけでなく、原子力事故やバイオテロ等による健康被害についても同様であることから、緊急に使用する必要性に該当するものと考えています。
緊急承認の適用の広がりへの懸念についてお尋ねがありました。
他の複数の医薬品が既に承認されている状況においても、治療の選択肢を拡大し、より安定的な供給に資するような場合には緊急承認制度の対象となると考えていますが、具体的な適用対象の考え方については、今後ガイドライン等でお示しさせていただき、運用の適正化に努めてまいります。
また、個別具体的な医薬品等の審査プロセスにおいて、審査報告書を当日ないし数日以内に公表し、新型コロナに関しては特設サイトで開発中の医薬品の情報を公開するなど、透明性、公平性の確保に努めることとしており、議員御懸念のような無限定に適用が広がることにはならないと考えています。
緊急承認制度を薬機法に盛り込んだ理由や制度の対象についてお尋ねがありました。
まず、今般の薬機法の改正は、オミクロン株の出現など引き続き予断を許さない新型コロナの状況を踏まえ、新たな治療の選択肢となり得る治療薬等について迅速に薬事承認を行うことを可能とするべく、法案を提出したものです。
その上で、今般の緊急承認制度は、現行の薬機法において既に緊急時に迅速な薬事承認を行う制度として特例承認制度が措置されていること、緊急時であっても国民から信頼される形での薬事承認が行われることが重要であることから、薬機法の承認制度の一類型として位置付けたところです。
また、制度の対象については、医薬品全般や医療機器等であっても、緊急に使用する必要性等が認められる場合には、同様に緊急承認制度の対象とすることが適当であると考えています。
緊急承認制度の期間延長についてお尋ねがありました。
承認の期限については、緊急承認した医薬品の承認の期限が際限なく延長される事態が生じないよう、改正法案においては、一年を超えない範囲内において延長することができることとしています。その上で、期限の延長は、原則として一年間の延長が一回限りとなるよう運用してまいります。
期限内に改めて行う承認申請の資料についてお尋ねがありました。
緊急承認後の一定の期限内に改めて行う承認申請については、原則として第三相試験の成績の提出を求めることを想定していますが、感染症が急速に収束した場合など試験の実施が困難な場合等には、市販後の使用成績等を含むリアルワールドデータにより、有効性、安全性の確認を行うことも考えられます。
このように、感染症が急速に減少した場合にリアルワールドデータのみにより有効性を確認する場合があることも考慮し、立法技術論として今般の改正法案の規定は適当であると考えております。
薬事申請において活用できるリアルワールドデータについてお尋ねがありました。
リアルワールドデータは、医療機関における電子カルテデータ、学会が収集する患者レジストリーデータなど、臨床試験ではなく実医療において得られたデータを意味するものであり、一部のデータは既に薬事申請に活用されています。
リアルワールドデータについては、適切に設計された臨床試験成績と比べ、例えば、医療機関や患者ごとに取得されているデータ項目が統一されていない場合や、医薬品を投与した患者と投与していない患者で年齢や基礎疾患が異なる場合など、データごとに様々な特徴があることから、こうした特徴を踏まえて医薬品の評価へ更なる活用に取り組んでまいります。
健康被害救済制度についてお尋ねがありました。
予防接種法に基づく健康被害救済制度は、接種に係る過失の有無にかかわらず、予防接種と健康被害との因果関係が認定された方を迅速に救済するものです。他方、副反応疑い報告制度は、予防接種後に生じる症状等の傾向を把握するためのものです。
健康被害救済制度における請求内容については疾病・障害認定審査会で審査されており、請求された死亡等と予防接種との因果関係については、厳密な医学的な因果関係までは必要とせず、接種後の症状が予防接種によって起こることを否定できない場合も対象とするとの考え方に基づいて審査が行われています。
それぞれの事例における因果関係の判断に当たっては、副反応疑い報告制度における評価は勘案していないため、仮に副反応疑い報告制度において因果関係が評価できないとされている事例であっても、健康被害救済の対象となる場合があります。引き続き、審査を進め、迅速な救済に努めてまいります。
緊急承認制度における健康被害救済制度の在り方についてお尋ねがありました。
緊急承認された医薬品については、通常承認と同水準で安全性の確認を行うことを前提としています。このため、その健康被害に対しても同様に、現行の医薬品副作用被害救済制度等に基づく救済の対象とすることが適切と考えています。
オンライン資格確認システムについてお尋ねがありました。
マイナンバーカードを保険証として利用できるオンライン資格確認については、昨年三月の運用開始を目指して準備を進めてきた中で、保険者の加入者データの確認作業の遅れや医療機関等における導入準備の遅れなどの課題が判明いたしました。このため、住基ネットの突合や保険者の誤入力をシステム的にチェックする機能の導入などを実施した上で、昨年十月から本格運用を開始しております。
デジタル化の基盤となるマイナンバーカードの保険証利用の促進に向けて、国民への普及啓発と医療機関等への導入支援の双方を車の両輪として進め、国として全力で取り組んでまいります。
医療機関のサイバーセキュリティー対策についてお尋ねがありました。
国民の生命、健康を守る医療機関がサイバー攻撃によりその機能を失うことがないよう、サイバーセキュリティー対策の強化が不可欠と考えています。このため、厚生労働省では、本年三月に、医療情報システムの安全管理に関するガイドラインを改定し、医療機関に対し、バックアップデータの保存やサイバー攻撃を想定した訓練の実施など、対策を強化するよう求めているところです。引き続き、医療機関の取組状況を把握しながら、必要な対策を講じてまいります。