倉林明子

倉林明子

メルマガ登録

地域福祉への責任後退 改定社会福祉法成立 倉林氏が反対討論(2020/6/5 本会議)

「地域共生社会」の実現をうたい、地域福祉を住民や社会福祉事業者による「互助」に委ねる改定社会福祉法などが5日の参院本会議で、自民、公明、維新各党の賛成多数で可決・成立しました。日本共産党と、立憲民主党などの共同会派、れいわ新選組、参院会派「沖縄の風」、「碧水会」は反対しました。

共産党の倉林明子議員は反対討論で、「地域福祉推進の主体に地域住民等を位置づける一方、国・自治体の役割は『互助の場』の創設などにとどまっている。地域福祉の理念をゆがめ、公的責任のさらなる後退につながる」と指摘しました。

同法案でめざす「包括的な支援体制」は、「民間に丸投げし、財政的・人的に十分な裏付けもないままでは実効性が確保できない」と批判。制度から漏れる人をなくそうと専門職の公務員を増員した韓国ソウル市の例を挙げ、「複雑な課題を抱えた人たちが地域で尊厳をもって生きるためには、まず公的支援の保障が不可欠だ」と強調しました。

「社会福祉連携推進法人」制度の創設についても、「効率化、大規模化に向け中小法人の合併・事業譲渡に道をつける」と告発。介護福祉士養成施設を卒業すれば国家試験に不合格でも資格を付与する措置の5年延長も、「介護職全体の労働条件を低水準に固定化することになりかねない」と批判しました。

倉林氏は「新型コロナの対応に追われる当事者・関係者が十分議論に参加できないまま、成立させることがあってはならない」と力を込めました。


日本共産党の倉林明子議員が5日の参院本会議で行った改定社会福祉法等に対する反対討論(要旨)は以下の通りです。

新型コロナウイルス感染拡大のなか、介護・障害・保育など福祉事業は社会に不可欠の存在であることが明らかになると同時に、現場の強い責任感でどうにか維持されている地域の福祉基盤の脆弱(ぜいじゃく)さが露呈しました。政府は「助け合い」を求めるのではなく、危機にあっても生存権を保障しうるセーフティーネットを強化し、福祉事業が安定して維持できる対策をとるべきです。

事業所、職員、利用者、家族は、コロナ対応に追われ疲弊しています。当事者・関係者が十分に議論に参加できないまま、本法案を成立させることがあってはなりません。

本法案は、地域福祉推進の主体に地域住民等を位置づけ、複雑化した課題の解決を求めています。国・地方自治体の役割は、「共助の場」の創設や連携強化などにとどまっています。地域福祉の理念をゆがめ、公的責任のさらなる後退につながります。

包括的な支援体制は、必要性はあるものの、民間丸投げ、財政的・人的に十分な裏付けがないままでは実効性が確保できません。制度から「漏れる」人を無くすため専門職の公務員による「出かける福祉」を実現した韓国ソウル市とあまりに対照的です。

8050問題やダブル介護などの問題は、社会保障制度の後退と担い手である公務員の削減で、制度から遠ざけられた結果です。複雑な課題を抱えた人たちが、地域で尊厳をもって生きるためには、まず公的支援が保障されることが不可欠です。その上で住民の主体的な活動があるべきです。

社会福祉連携推進法人は、社会福祉法人同士の資金融通や人材確保の協働化をすすめ、効率化、大規模化に向けて、中小法人の合併や事業譲渡へ道をつけるものです。効率化のみが追求され、大規模法人を基本とした報酬や支援制度に変えられれば、小規模法人の経営は成り立たなくなります。支援の多様性は失われ、個別性の強い支援を必要とする人々の生活は守れません。規模に関わりなく安定した経営が可能な報酬体系、財政的保障を確立するべきです。

介護福祉士養成施設卒業者の国家試験に係る経過措置の延長は、介護職全体の労働条件を低水準に固定化することになりかねません。専門性を正当に評価し、賃金水準、職員配置、人員基準を抜本的に引き上げるべきです。


議事録を読む

○倉林明子君 日本共産党の倉林明子です。
 私は、日本共産党を代表して、地域共生社会の実現のための社会福祉法等改正案に反対の討論を行います。
 新型コロナウイルス感染症が拡大し、緊急事態宣言が出される中で、介護、障害、保育など、福祉事業は私たちの社会にとって不可欠の存在であることが明らかになりました。同時に、現場で働く人たちの強い責任感によってどうにか維持されている地域の福祉基盤は、とても脆弱であることが露呈しました。
 今、第二波に向け備えるのであれば、政府がやるべきは、助け合いを求めることではなく、危機にあっても生存権を保障し得るセーフティーネットの強化と、地域福祉の基盤と言える介護・障害福祉を始めとした福祉事業が安定して維持できる抜本的な対策です。
 経済活動の自粛が広がり、雇用情勢は一気に悪化しています。新型コロナ感染症の影響による解雇、雇い止めは、五月二十九日時点でも一万七千人に達する勢いです。多くの人が営業や外出の自粛要請により仕事をなくし、収入の減少に苦しんでいます。住宅も失う人々、今日、明日の食費にも事欠くシングルマザーと子供たちが急増しています。
 時間の経過とともに、生活に困窮する人たちが一気に増えることも予想されます。生存を脅かされることがないよう、生活保護制度の入口を広げ、困った人が利用しやすくするための対策が緊急に必要です。
 一つ、申請書類の簡略化とファクスや郵送で申請も可能とすること。二つ、速やかな決定につながり、申請者のハードルを下げるために、資産要件の適用を一時的に停止すること。家族や親族に対する扶養照会の一律停止を直ちにやるべきです。生活保護への偏見を払拭するため、権利であることを含め、積極的な利用を促すための手だてを取ることを求めます。
 新型コロナ感染症拡大に伴い、介護・障害福祉などを担う事業所は窮地に立たされています。
 きょうされんが障害児者の支援に関わる事業所に行った調査では、四月、五割の事業所が減収に陥り、居宅介護では平均百十一万円もの減収になっています。今日、明日の存立に関わるところまで追い込まれている事業所もあります。就労支援の事業所では、働く障害者の工賃が払えない事態となっています。
 全国介護事業者連盟が行った第二次調査では、九割以上が経営に影響を受けている、受ける可能性があると回答しています。三月以降の利用者減少などによる大幅減収に加え、マスクや消毒等の負担がのしかかり、事態は更に深刻化しています。このままでは感染が収束しても事業を再開できず、長期化すれば介護崩壊につながりかねません。
 これらの事業所による支援が途絶えれば、高齢者や障害のある人が地域で生きることはできません。福祉現場で働く人たちは、常に感染リスクと向かい合いながら、利用者の日常生活を維持するために懸命に働いています。しかし、経営難は、一時金切下げや賃金カットなど従事者にも影響が及んでいます。感染の第二、第三波への体制を準備しなければならない今、賃金が保障されず離職するなどの事態を招いてはなりません。
 マスク、使い捨てエプロン、ガウン等、衛生・防護用品を国の責任で安定供給を確保すること、必要とする利用者、従事者がPCR検査を受けられるよう体制整備することを求めます。全ての事業所に昨年度の実績に見合う収入補填を早急に行うべきです。全ての福祉職に特別の手当を支給すべきです。
 新型コロナ感染症が拡大する中で、高齢者と家族の生活は激変しています。こんなときに、介護保険、医療費の負担増などもってのほかです。撤回を強く求めるものです。
 介護・障害福祉などの事業所、職員、利用者、家族は、新型コロナウイルス感染症への対応に日々追われて疲弊しています。本法案は、現場に大きな変化を迫るものであり、介護の現場からも障害の現場からも、なぜこのような余裕のないときにと声が上がっています。
 私たち抜きに私たちのことを決めないでとの原則は貫かれなければなりません。共生をうたう法案であるなら、当事者、関係者が知らないうちに、十分に議論に参加できないまま成立させることがあってはなりません。
 本法案に反対する第一の理由は、地域福祉推進の主体に地域住民等を位置付け、複雑化した課題の解決を求めていることです。その一方で、国、地方自治体は、支援者や住民をつなぐ共助の場の創設や連携強化などの役割にとどまっています。地域福祉の理念をゆがめ、公的責任の更なる後退につながります。
 包括的な支援体制や断らない相談支援は、その必要性はあるものの、民間への丸投げや、財政的にも人的にも十分な裏付けがなく、このままでは実効性が確保できません。韓国のソウル市が、同じく制度から漏れる人をなくすよう、福祉を届ける対策として専門職の公務員によって出かける福祉を実現したことと余りにも対照的と言わなければなりません。
 八〇五〇問題やダブル介護などの問題は、社会保障制度の後退と担い手である公務員が削らされ、制度から遠ざけられた結果ではありませんか。自己責任の強調で、助けを求められなくなって社会的に孤立を深めているのではありませんか。
 複雑な課題を抱えた人たちが地域で尊厳を持って生きていくためには、まず公的支援が保障されることが不可欠です。公的責任を前提として、住民の主体的な活動があるべきです。自己責任、家族責任の更なる強化を一方で進め、制度を利用できない人たちを拡大しながら、自助、互助を求め、国、地方自治体の責任を後退させることは許されません。
 第二に、社会福祉連携推進法人は、社会福祉法人同士の資金融通や人材確保の協働化を進め、効率化、大規模化に向けて、中小法人の合併や事業譲渡へ道をつくるものです。効率化のみが追求され、大規模法人を基本とした報酬や支援制度に変えられれば、小規模法人の経営は成り立たなくなります。小規模法人の存続が困難になれば、地域における支援の多様性は失われ、個別性の強い支援を必要とする人々の生活は守れません。
 介護・障害福祉等の事業所は、コロナ禍にあって、利用者と家族の命と生活を支え、地域に不可欠な存在であることが明らかになっています。規模に関わりなく安定した経営が可能な報酬体系、財政的保障を確立することこそ今求められています。
 第三に、人材不足を理由に、介護福祉士養成施設卒業者の国家試験に係る経過措置を延長することです。福祉部会でも反対意見が多数あり、法案審議中にも関係者から介護福祉士の地位向上に逆行するとの抗議の声が寄せられております。また、准介護福祉士という二重構造を前提としており、介護報酬の差別化等、介護職全体の労働条件を低水準に固定化することになりかねません。
 政府がやるべきは、ケア労働を軽視する政策を改めることです。介護現場で働く職員の専門性を正当に評価し、著しく低い賃金水準、実情に合わない職員配置、人員基準の抜本的な引上げを強く求めて、討論といたします。