倉林明子

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生活保護 引き下げに異論も 捕捉率公表し向上こそ 参考人質疑で弁護士ら(2018/5/24 厚生労働委員会)

 参院厚生労働委員会は24日、生活困窮者自立支援法等改定案や安倍政権が狙う10月からの生活保護基準引き下げについて、研究者や弁護士、ホームレス支援団体代表らを招いて意見を聞きました。参考人からは、現在の生活保護基準を決める手法や基準引き下げに対し異論が出ました。

 生活保護問題対策全国会議・代表幹事の尾藤廣喜弁護士は意見陳述で、今回、政府が一般低所得世帯(年収の低い方から10%の層)の消費実態に合わせて生活保護基準を引き下げようとしていることについて「捕捉率(保護が必要である人のなかで実際に利用できている人の割合)が低い中で、このような方法では基準は際限なく下がっていく。問題だ」と語り、引き下げに反対を表明。また改定案では「払いすぎた保護費」を、全く性質の異なる「不正受給」の場合と同様に保護費からの天引き徴収を可能としていることも批判し、撤回を求めました。

 日本女子大学の岩永理恵准教授は、生活保護基準引き下げによる生活への影響調査や給付が受けられなくなる世帯数を推計する必要性を指摘。捕捉率を調査・公表し、向上させることがめざすべき方向だとも語りました。

 日本共産党の倉林明子議員は、生活保護の「医療扶助」抑制のために利用者の窓口負担を検討すべきとの意見があることについて質問。

 尾藤弁護士は窓口負担について「(最低生活費の)計算に入っていないものを生活保護利用者が負担することになれば、最低生活を下回る生活が強いられることになり、憲法25条に違反している」と指摘。外来で生活保護利用者が過剰受診である事実がないことも紹介し、「法的な面からも実態からしてもまったく反対です」と語りました。

 尾藤、岩永両氏のほか、大阪府豊中市社会福祉協議会の勝部麗子氏と認定NPO法人抱樸理事長の奥田知志氏も意見を述べました。


議事録を読む

○倉林明子君 日本共産党の倉林明子です。
 今日は、四人の参考人の皆さん、本当に貴重な御意見を聞かせていただきまして、ありがとうございます。
 先ほどの続きのようなことから、難波委員の続きの話から始めたいと思うんですけれども、やっぱり生活保護世帯の実際の暮らしぶりをお聞きしておりますと、これが憲法で規定された暮らしぶり、最低生活水準ということと照らして本当にこれでいいんだろうかという思いを常々思っているわけです。岩永参考人には、先ほど少し時間も足りなかったので、ちょっとやっぱり、そもそも健康で文化的な最低限度の生活を営むことのできる適切な水準、現状がそう言えるようなものなのかどうかということでお考えをお聞きしておきたいと思います。

○参考人(岩永理恵君) そうですね、高齢の世帯についてはとても水準が低くなったなと思います。世帯類型によってかなり基準が異なりますので水準も違うかなと思うんですけれども、その生活水準に影響を与えるのは、保護基準もそうなんですが、先ほど手持ち金、資産要件という話をしましたけれども、今の生活保護は丸裸にならないと入れない状態になっているので、その低い状態からむしろ生活保護に入ると高い生活になって抜け出るのが難しいという話もあるわけですが、とはいえ、私も少ない件数ですけれども生活保護受給世帯のおうちにお邪魔したときに思うのは、もう何というか想像以上に物がないというか、大きい、何というか、家の中にある物を聞くと、もらってきたものだとか、何というか、中古品であるとかというふうに聞いて、すごく工夫して生活していらっしゃるなと感じます。
 他方、ではそういう工夫ができないような、例えば病気があったり様々な障害があったりして暮らせない方というのは、やはりその人それぞれの使える能力によっても違ってくるかなと思うので、それは生活保護でどういうふうに担保するかというのは、基準以外のところでも支援が必要なのではと考えます。
 以上です。

○倉林明子君 ありがとうございます。
 それでは、尾藤先生に二点でお伺いしたいと思うんです。
 先ほども少し入院と外来の医療費の自己負担問題で質問がありましたが、今、医療費の窓口負担を検討してはどうかという御意見が様々上がってきております。これについて、先ほどの発言に加えて御意見伺いたいということと、あわせて、やっぱり基準問題なんですね。今回の引下げについての御意見は弁護士会のお話ということで問題点も指摘いただきました。やっぱりそもそもどうあるべきなのかというところについての御意見を、どうぞ残り時間使っていただいて結構ですので、お話しいただきたいと思います。

○参考人(尾藤廣喜君) ありがとうございます。
 第一点でございますが、生活保護世帯について医療費の一部負担を導入したらどうかという御意見があるというふうにお伺いしていますけれども、私は率直に申し上げて、それは憲法に違反していると思います。なぜかというと、生活保護基準を決めるときに医療費は計算に入っていないわけでございますので、自己負担を強いるということになれば計算に入っていないものをあえて負担するということになります。
 償還払いにするということになると、一定の期日後に入るわけですので、その間は最低生活を下回っている生活を強いることになるわけですね。だから、その間は最低生活を保障していないということになるわけですから、たとえ一円であろうが十円であろうが自己負担を強いるということになりますと、これは憲法二十五条に違反して、最低生活の計算上、私は憲法に違反しているというふうに考えます。法的に言うとですね。
 それからもう一つは、やっぱり制度を運用し、あるいは新しく変えようというときは、きちっとした事実に基づいてやらなきゃいけないと思うんですけれども、先ほども少し申し上げましたけれども、西成区の医療が非常に問題になっていると。あそこの状況をどうするかということで、当時、橋下市長が西成区を特別扱いにしましょうと。特に、あそこにいろんな形で集中をすることによって西成区というものを底上げしようという発想で、西成特区構想を二〇一二年に検討されたわけですけれども、そのときに、西成における医療扶助を受給している方についての外来の調査、医療費の分析をされたことがございます。それはデータとして既に報告されておりますけれども、橋下市長が御心配になっていたような結果ではなくて、結局、生活保護を利用している方と一般の方との差はそれほどないと、外来の関係ではそれほどないということが出ておりますので、そういう点からも、自己負担がないから過剰診療になっているとか、あるいは乱診乱療が起きるという状況にはなっていないということで、データに基づいて議論をすべきだというふうに思います。
 それから、少し時間いただきましたので、余計なことかもしれませんけれども、私、日弁連の一員としてイタリアに調査に行きました。これ、イタリアに調査に行ったというのは、イタリアは、財政事情非常に厳しいですけれども、医療費は全て無料なんですね。
 なぜそういう形になっているのかという実態を調査に行ったわけですけれども、担当の健康省の保健局のフランチェスコ・ベーベレという局長さんとお会いをして、なぜイタリアは医療費が財政状況厳しい中で無料になっているんですかというふうにお聞きしましたところ、医療と受益者負担とは本質的に矛盾すると。つまり、医療費が負担できない貧困層こそ医療が必要になってくるわけだから、そういう受益を非常に多くなっている人に負担を求めるということになると、結局、お金のある方は医療にアクセスできるけれども、お金のない方は医療にアクセスできないということになるんだということを言われました。
 私は、あえて、そうおっしゃるけれども、乱診乱療の問題とか、自己負担を増やすことによって医療費の無駄な支出というのを抑えるという考え方は取れないんですかと、こういうことを、私の考えとは違いますが、あえて御質問申し上げましたら、鼻でせせら笑われました。
 その理由は、自己負担増で受診抑制しようとするのは無能な行政官のやることであると。つまり、その結果どうなるかというと、貧困層が医療から遠ざかるということになるので、自己負担によって受診抑制とかあるいは医療費を抑制するという考え方は、それはある意味で簡単かもしれないけれども、長い年月の中に、国民の健康という面からすると、非常に大きな負担と後退をもたらすことになると。そういうことよりも、自己負担の問題ではなくて、どういう医療があるべきなのかということを国民的に問う。例えば、先ほどの入院ですと、入院の在り方としてどうなのかということを問う。国民の自己決定というのを大事にしながら合意形成をしていく努力をすることこそが行政官の役割で、安易に自己負担によって医療の規制をするべきではないというのがお答えでした。私、感激しました。
 その考え方からすれば、生活保護受給者について、自己負担を強いることによって医療から遠ざけるということになりますと、これは明らかに生活保護受給層が医療を受けられないという事態を招くことになりますので、私は、法的な面からしても実態からしても、あるいは諸外国の例からしても、全く反対でございます。
 以上です。

○倉林明子君 残り僅かなんですけれども、そもそも生活保護基準はどうあるべきなのかということで、残り時間でお願いします。

○参考人(尾藤廣喜君) 先ほどもお話が出ましたけれども、今の格差縮小方式というものが本当にいい方法なのかということについては、もう随分前から壁にぶち当たっているわけですね。基準部会の先生方もどういう形での議論をすべきかというのをいろいろ専門的な立場から御意見もいただいてもおりまして、それでいろんな意見も出ていたわけですけれども、その結論が出ないままで、第一・十分位との比較で今回引下げという結論になっているわけで、私はそういうやり方はやっぱり再検討をすべきだと。
 これ、個人的に申しますと、私は新マーケットバスケット方式と言っているんですけれども、最低生活の中身というものを現代に合わせて、どういうものが必要で、どういう費用が必要なのかということの新しいマーケットバスケットみたいなものを考えながら基準を再度練り直していいんじゃないかなと思います。そのための資産とか需要というものは、イギリスでもやっていますけれども、平均的な家庭でどれぐらいの資産が必要で、どういう需要なのかということの需要調査もやらなきゃいけないと思います。
 実は、昔、マーケットバスケット方式からエンゲル方式に切り替わって、その後、格差縮小方式から水準均衡方式に切り替わる経過でも、しばらくの間はマーケットバスケット方式の計算もやっておられた。私がいましたときはマーケットバスケット方式の計算もやって、それとの比較をしながら決めていたということございます。だから、新しいマーケットバスケット方式も一つの方法ではないかと。
 先ほど岩永参考人も言われましたけれども、いろんな形の意見を出し合いながら、本当に最低生活の在り方というものを、憲法に基づいて健康で文化的な基準を決めていただきたいというのが私の考え方でございます。

○倉林明子君 終わります。ありがとうございました。