給付減押しつけるな 健康保険法改定案 参院で審議入り(2023/4/19 本会議)
後期高齢者の医療保険料負担を引き上げる健康保険法等改定案が19日、参院本会議で審議入りしました。日本共産党の倉林明子議員は、国民に負担増と給付減を押し付け、国の責任を後退させる同案の撤回を求めました。
倉林氏は、後期高齢者の保険料の伸び率を現役世代と同じにし出産一時金の一部を負担することで、来年度は1人当たり平均8400円の負担増になることや、政府の家計調査でも、高齢単身世帯で毎月2万~3万円以上の赤字になると指摘。「年収153万円以下の低所得者は対象外としているが、153万円以上なら暮らしに影響しないのか」と迫りました。
加藤勝信厚生労働相は、負担能力に応じた負担の観点から年収153万円以上の人を対象にお願いするなどとして、「全世代で、増加する医療費を公平に支え合う仕組みの構築が必要だ」と答弁しました。
倉林氏は、政府は「国保の都道府県化」により、自治体に公費の独自繰り入れをやめさせ、高すぎる国保料のさらなる引き上げ圧力を強めていると指摘。2023年度中に保険料水準統一加速プランを策定する問題では、「全国に先駆けて保険料統一を掲げた大阪府では、保険料が前年から1割近く引き上げられた。国の圧力で、自治体を住民負担増・給付削減へと駆り立てる仕組みは撤廃すべきだ」と批判しました。
加藤厚労相は「住民などの関係者の理解を得ながら進める。国民健康保険のより安定的な運営に努める」と強弁しました。
日本共産党の倉林明子議員が19日、参院本会議で行った健康保険法改定案についての質問の要旨は次の通りです。
法案に一貫しているのは現状を給付は高齢者中心、負担は現役世代中心だとして世代間対立を喚起し、負担増を求めるものです。
昨年10月から、後期高齢者医療の窓口負担が2割になりました。全日本民医連が実施した影響調査では、8割が「重い」と回答しています。受診を控え、食費を削る制度が「能力に応じた」負担なのですか。受診負担軽減をはかることは当然ではないですか。
後期高齢者の保険料の伸び率を現役世代と同じにして出産一時金の一部を負担することで、来年度は1人当たり平均8400円の負担増になり、政府の家計調査でも高齢単身世帯では毎月2万~3万円以上の赤字額になります。年収153万円以下の低所得者は対象外としていますが、153万円以上なら暮らしには影響しないと政府は考えているのでしょうか。
現役世帯の負担軽減は、国庫負担比率の引き上げで実施すべきです。政府は「国保の都道府県化」により、自治体に公費の独自繰り入れをやめさせ、高すぎる国保料のさらなる引き上げ圧力を強めています。2023年度中に保険料水準統一加速プランを策定するとしています。全国に先駆けて保険料統一を掲げた大阪府では、保険料が前年から1割近く引き上げられました。国の圧力で、自治体を住民負担増・給付削減へと駆り立てる仕組みは撤廃すべきではありませんか。
介護保険でも大幅な負担増です。政府は2割負担の対象拡大と老健施設などの多床室の室料負担の新設について、今年夏までに結論を出すとしています。2割負担は強行され「年金12万、介護費用20万」など、負担能力を大きく超える負担を強いられる利用者もいます。2割負担拡大は撤回すべきです。
病床削減、看護師等医療従事者、介護職の圧倒的不足が、コロナ禍の医療崩壊、介護崩壊をもたらし、患者が亡くなる事例が相次ぎました。痛恨の事態を招いた要因を検証し、適切な医療体制を構築することこそ必要ではありませんか。
かかりつけ医機能の法定化では、厚労省が定める「かかりつけ医機能」を充分に提供できない医療機関に何らかのペナルティーを科すことはないと断言できますか。
○倉林明子君 日本共産党の倉林明子です。
会派を代表して、ただいま議題となりました全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等改正案について質問します。
本法案は、全世代型社会保障の名の下に、十一本もの法律を束ねたものです。高齢者医療、子育て支援、医療提供体制など多岐にわたりますが、一貫しているのは、現状を給付は高齢者中心、負担は現役世代中心だとし、世代間対立を喚起し、負担増を求めることです。
今の高齢者福祉は、それほど充実し、高齢者の生活は保障されているのでしょうか。
年金者組合京都府本部女性部のアンケートでは、今まで経験したことのない息苦しさが語られています。食べることを我慢し、コロナ、熱中症の中でもエアコンを我慢、医者通いも回数を減らしているなど悲痛な声が続きます。これは、世代間の公平、能力に応じた負担のうたい文句で、年金を減額し、医療も介護も大幅負担増と給付の削減が繰り返された結果です。
高齢者の命綱は限界まで切り縮められています。総理、高齢者への給付は、憲法が保障する生存権を保障する水準だと言えますか。
昨年十月から、後期高齢者医療の窓口負担が二割になりました。全日本民医連が実施した影響調査では、八割が重いと回答しています。大半の人が、貯金を切り崩し、食費、水光熱費などを削ることを余儀なくされています。
受診を控える、食費を削る、これが能力に応じた負担なのでしょうか。年を重ねるほど有病率は高まります。受診の負担軽減を図ることは当然ではありませんか。一割負担に戻すべきです。厚労大臣の答弁を求めます。
法案は、後期高齢者の負担を更に重くするものです。
後期高齢者の保険料の伸び率を現役世代の伸び率と同じにし、出産一時金の一部を負担することで、来年度は一人当たり平均八千四百円の負担増になります。低所得者は負担増にならないと言いますが、対象は年金収入百五十三万円、月十二万七千円以下です。
厚労大臣、百五十三万円以上なら暮らしに影響しないと検証したのでしょうか。負担可能と判断した根拠をお示しください。
政府の家計調査で見ても、高齢単身世帯では毎月二ないし三万円以上の赤字となっています。貯金がなくなったときのことを考えると苦しくなるとの声は、大半の高齢者の共通する思いです。ただでさえ負担の重い保険料をこれ以上引き上げるなど、到底容認できません。現役世代の負担軽減は、この間引き下げられた国庫負担比率を引き上げることで実施すべきです。大臣の答弁を求めます。
介護保険でも大幅な負担増が待ち受けています。政府は、その一歩として、二割負担の対象拡大と老健施設などの多床室の室料負担の新設について、今年夏までに結論を出すとしています。
厚労大臣、二割負担の対象は、後期高齢者医療と同様、所得上位三〇%まで拡大するのですか。
そもそも、二割負担導入の際、厚労省が負担能力を示したデータは誤りで、撤回を余儀なくされました。にもかかわらず、二割負担は強行され、施設退所や利用抑制が生じました。年金十二万、介護費用は二十万など、本人の負担能力を大きく超える負担を強いられても、他を犠牲にして利用を続けなければならない利用者、家族も多くいます。こうした状況の検証もなく、更なる負担増を強行すれば、家族も含めた生活を破壊することにつながります。二割負担の対象拡大は撤回すべきです。厚労大臣の答弁を求めます。
負担増は現役世代にも及びます。国民健康保険法について質問します。
法案は、都道府県国保運営方針の対象期間を六年間とするとともに、医療費適正化、市町村国保事業の効率的な運営等を必須事項に加えるとしています。政府は、国保の都道府県化により、自治体に公費の独自繰入れをやめさせ、高過ぎる国保料の更なる引上げ圧力を強めています。さらに、二三年度中に保険料水準統一加速化プランを策定するとしています。
都道府県単位の保険料完全統一の期限を明示した都道府県はどこになるのか示してください。法改正と加速化プランにより、保険料統一を期限を切って強固に推進することになるのではありませんか。
全国に先駆けて二四年に保険料の完全統一を掲げている大阪府では、保険料が大幅に引き上げられました。一人当たりの必要保険料額は、二三年度十六万二千四百十七円と、前年から一割近い値上げです。大阪社保協の試算では、所得三百万の四十代夫婦と子供二人の世帯の保険料は六十五万五千円、月五万五千円近い負担となります。
保険料統一を強行すれば、全国で同様の事態になりかねません。国の圧力で自治体を住民負担増、給付削減へと駆り立てる仕組みは撤廃すべきです。
以上、厚労大臣の答弁を求めます。
現役世代に高過ぎる国保料がのしかかるのは、収入のない子供にも保険料を掛ける均等割があるからです。総理、子供が増えるほど負担は重くなり、子育てすること自体に罰を与える子育て罰そのものではありませんか。異次元の少子化対策というなら、せめて子供に係る均等割は廃止すべきではありませんか。
医療費適正化計画の見直しについて質問します。
昨年五月の財政審建議は、医療・介護分野では、受益と負担の不均衡について、年金制度のような給付水準を自動的に調整する仕組みは導入されていないと批判し、更なる給付の削減を求めています。
病床削減、看護師等医療従事者、介護職の圧倒的な不足が、コロナ禍の医療崩壊、介護崩壊をもたらし、福祉施設や自宅に留め置かれ、亡くなる事例が相次ぎました。今やるべきは、医療、介護の給付を自動的に削減することでは断じてありません。救える命が救えない痛恨の事態を招いた要因を検証し、適切な医療体制を構築することではありませんか。総理の答弁を求めます。
かかりつけ医機能の法定化について質問します。
法案は、医療機関が、夜間、休日の対応や在宅医療など、かかりつけ医機能の提供状況を都道府県に報告、公表する制度を創設します。
都道府県は、報告どおりの医療提供体制があるか、基準に照らして確認するとしています。都道府県による確認が、医療機関の評価、認定につながることがあってはなりません。厚労省が定めるかかりつけ医機能を十分に提供できない医療機関に何らかのペナルティーを科すことはないと断言できますか。
財政審は、かかりつけ医の認定、患者の事前登録とセットとなる患者負担などを提起、緩やかなゲートキーパー機能を求めています。全世代型社会保障構築会議等では、今回の法案は第一歩との認識が示され、医療現場からは制度の検討が続くことに懸念の声が上がっています。
人頭払い、フリーアクセスの制限、かかりつけ医以外を受診した場合の定額負担導入など、かかりつけ医を医療費抑制の仕組みとすることがあってはなりません。厚労大臣の答弁を求めます。
以上、本法案は、全世代型社会保障の名の下に、国民に負担増と給付削減を押し付け、国の責任を後退させるものにほかなりません。全世代型社会保障と称する医療、介護、福祉の制度改悪によって、世代を問わず貧困が拡大しました。少子高齢化による財政危機を強調し、高齢者優遇という幻想を振りまいて世代間の対立をあおるのはやめるべきです。国の責任を後退させ、世代間の助け合い、相互扶助を制度として強要する本法案の撤回を強く求めて、終わります。
○内閣総理大臣(岸田文雄君) 倉林明子議員の御質問にお答えいたします。
高齢者への給付水準についてお尋ねがありました。
低所得の高齢者に対しては、社会保障制度全体で総合的に支援していく観点から、年金生活者支援給付金の支給、介護保険における低所得の方を対象とした補足給付の支給、医療保険、介護保険における所得に応じた自己負担、利用者負担の上限額の設定などにより、経済的な支援を実施しております。
本法案でも、高齢者に新たな御負担をお願いするに当たっては、高齢者全員に一律の負担をお願いするのではなく、所得に応じて、約六割の方々には負担増が生じないようにし、それを超える所得の方々についても、負担能力に応じた負担とするとともに、適切な激変緩和措置を講ずることとしております。
今後とも、低所得の方々に対してきめ細かく配慮を行い、憲法第二十五条に基づく国の責務をしっかりと果たしてまいります。
子育て世帯の国民健康保険の均等割保険料についてお尋ねがありました。
国民健康保険の保険料については、全ての被保険者がひとしく給付を受ける権利があるため、子供を含めた被保険者の人数に応じて一定の御負担をいただくことが基本です。その上で、所得の低い世帯には応益割保険料を最大で七割軽減する措置を講じています。
そして、子供に係る均等割保険料を廃止することについては、財源の確保等の課題を踏まえ慎重に検討する必要がありますが、昨年度から未就学児の医療費の自己負担が二割とされていること等を踏まえ、未就学児の均等割保険料を一律半額に軽減する措置を講じており、これをしっかりと運用してまいります。
医療費適正化計画等についてお尋ねがありました。
本法案における医療費適正化計画の見直しは、地域の実情に応じて、都道府県、医療関係者、保険者等が、地域差等の実態を把握した上で協議を行い、適正化に向けた実効性のある取組を推進するものです。
今回の新型コロナ対応では、限られた医療資源の適切な配分のため、各地域で平素から、失礼、平時から、医療機能の分化、そして感染症危機時の役割分担の明確化等を図る必要性が明らかになったと認識をしています。
このため、昨年の感染症法改正により、都道府県が、平時に医療機関と協議を行い、感染症発生、蔓延時における病床確保や人材派遣等について協定を結ぶ仕組みを法制化するなど、流行の初期段階から機能する医療提供体制を構築することとしており、引き続き都道府県等と連携して取り組んでまいります。
残余の質問については、関係大臣から答弁をさせます。
○国務大臣(加藤勝信君) 倉林明子議員の御質問にお答えいたします。
後期高齢者の自己負担についてお尋ねがありました。
二〇二五年までに全ての団塊の世代が七十五歳以上となる中、負担能力に応じて、全世代で、増加する医療費を公平に支え合う仕組みの構築は待ったなしの課題であります。
後期高齢者の医療費の自己負担割合の見直しは、現役世代の負担の上昇を抑える観点から、負担能力や家計への影響を考慮した上で、一定の収入以上の方々についてのみ自己負担割合を二割とするものであります。こうした方々については、配慮措置も講じることで必要な受診の抑制を招かないようにしており、自己負担割合を一割に戻すことは考えていません。
後期高齢者の保険料負担についてお尋ねがありました。
今回の制度改正により、令和六年度から高齢者に追加の保険料負担をお願いするに当たっては、高齢者全員に一律の負担をお願いするのではなく、低所得の方々の負担増が生じないよう、負担能力に応じた負担とするとともに、出産育児一時金に対する後期高齢者からの支援対象額を二分の一とするなど、激変緩和措置を講じることとしています。
平成三十年の家計調査の個票データを用いて年収百五十五万円より上位の所得者について分析した収支の状況を踏まえ、負担能力に応じた負担の観点から、年収百五十三万円以上の方を対象に制度改正に伴う負担をお願いすることとしています。
後期高齢者医療に対する国庫負担については、制度創設時と比べると財源全体に占める国費の割合が減少しておりますが、これは被用者保険者間の負担の公平を図る観点から、後期高齢者支援金に総報酬割が導入された結果として減少したものであります。
二〇二五年までに全ての団塊の世代が七十五歳以上となる中、負担能力に応じて、全世代で、増加する医療費を公平に支え合う仕組みを構築する必要があり、今回の改革は是非とも実現する必要があると考えております。
介護保険の利用者負担についてお尋ねがありました。
介護保険制度については、サービスの質を確保しながら制度の持続可能性を維持するためにも、高齢者の負担能力に応じた負担など、給付と負担のバランスを図ることが重要な課題であると認識をしております。
このような認識の下、昨年の社会保障審議会介護保険部会において、利用者負担の在り方についても様々な観点から議論していただき、十二月の介護保険部会の意見書では、令和六年度からの次期介護保険事業計画に向けて議論を行うこととされたところであります。
引き続き、利用者の生活への影響も踏まえつつ、高齢者が必要なサービスを受けられるよう、様々な御意見をしっかりと聞き、丁寧に検討を進めてまいります。
国民健康保険の保険料水準の統一についてお尋ねがありました。
国民健康保険については、平成三十年度の制度改革により、財政支援を拡充するとともに都道府県と市町村が共同で運営する仕組みとし、安定的な財政運営を確保する観点から、都道府県単位での保険料水準の統一に向けた取組を進めることとしております。現在、保険料水準の完全統一に向けて期限を明示して取り組んでいる都道府県は、北海道、福島県、大阪府、奈良県、佐賀県、沖縄県であります。
この法案では、保険料水準の統一に向けた取組を加速化するため、都道府県が定める運営方針の必須記載事項として、事務の標準化、広域化の推進に関する事項等を追加することとしており、保険料水準の統一の時期については、都道府県と市町村がよく議論した上で、住民など関係者の理解を得ながら進めることとしております。
また、都道府県の取組を支援するため、国として保険料水準の統一の意義や課題の解決事例などを整理した保険料水準統一加速化プランを策定することとしており、こうした取組により、国民健康保険のより安定的な運営に努めてまいります。
かかりつけ医機能の確認についてお尋ねがありました。
本法案では、地域の医療機関が自らの有するかかりつけ医機能を都道府県に報告し、都道府県においては報告を受けた機能に係る体制を有しているかどうかを確認し、地域の関係者の協議の場に報告するとともに公表することとしております。
この確認は、報告されたかかりつけ医機能の現状を客観性が担保された形で的確に把握する観点から都道府県が事務的に確認するものであり、法律上の効果として、医療機関の権利や義務に直接的に影響を与えるものではなく、医療機関の評価や認定を行ったり、ペナルティーを科したりするものでもありません。
かかりつけ医機能に関する制度整備の考え方についてお尋ねがありました。
政府としては、必要なときに必要な医療を迅速に受けられるフリーアクセスの考えの下で、地域のそれぞれの医療機関が地域の実情に応じて、その機能や専門性に応じて連携しつつ、かかりつけ医機能を発揮するよう促すことが重要であると考えております。
その上で、本法案による制度整備は、国民、患者がそのニーズに応じて適切に医療機関を選択できるようにするとともに、医療機関がかかりつけ医機能の内容を強化し、地域において必要なかかりつけ医機能を確保することとするものであり、患者の受療行動に介入するものではなく、医療費抑制の仕組みと言われるものでもありません。