年金水準 議論が必要 倉林氏に参考人「国民期待」(2020/5/26 厚生労働委員会)
年金支給開始の選択肢を75歳まで広げるなどの年金制度改定法案の参考人質疑が26日、参院厚生労働委員会で行われ、日本共産党の倉林明子議員が質疑に立ちました。
倉林氏は、新型コロナウイルスの影響でさらなる雇用調整が続けば、新たな低年金・無年金者が出てくるリスクを指摘し、コロナ禍が年金にもたらす影響について質問。日本総研の西沢和彦主席研究員は「雇用の質が悪化すると、所得を前提としている社会保険は非常に苦しくなる」と語りました。
倉林氏は、マクロ経済スライドで年金水準が下がる一方、社会保障の負担が増えているとして、「とりわけ基礎年金の水準がどうあるべきか議論していく必要があるのではないか」と質問。西沢氏は「国民は基礎年金に老後生活の礎を期待していると思う。国民の期待と年金財政を預かる立場はずれてきており、議論すべきだ」と述べました。
さらに倉林氏は、年金支給開始の選択肢を75歳まで延ばせば、感染リスクが高い高齢者も働くことになるとして、感染に備えた雇用を考える必要があるのではないかと尋ねました。経団連の井上隆常務理事は「高齢者の感染リスクが高いのはおっしゃる通りだ。十分に配慮しながら対応していく」と答えました。
○倉林明子君 日本共産党の倉林でございます。
緊急事態は解除されたというものの、感染のリスクもある中、本当に貴重な時間をいただきましてありがとうございます。御意見聞かせていただきました。
私の方から、まず、こうしたコロナで、見通しという点では今はっきりしたもの持てないわけですけれども、相当長期化して雇用に対して大きな影響が出るだろうという状況はもうちょっと確実になってきたなというふうに思っているんですね。
財政検証をどうするかという問題とは別に、今のコロナの影響が雇用にも大きく影響しているし、短期的な影響をどう見るかということ、年金に対してですね、短期的にどういう影響が出るかということと、あわせて、先ほど少しありましたけれども、就職氷河期世代というのは雇用が不安定ということが、将来的には低年金を拡大する、こういうリスク伴うものだと思うんですね。今回のコロナによる雇用調整がどんどん進むということになりますと、新たな低年金、低年金世代といいますか、そういう状況も長期的にも出てくるんじゃないかという懸念持っているんですね。
そこら辺で、お三方にそれぞれ、神野先生からで、影響について御教示いただければと思います。
○参考人(神野直彦君) 今のところ、ちょっと私は読みができませんが、おっしゃっているのはこういうふうに理解させていただくと、現在起きている様々な雇用問題が将来の年金問題なり、その人がもらうときのですね、影響するんじゃないかというふうに理解させていただくというふうにさせていただければ、それは、先ほど来言っているような問題を、つまりセーフティーネットの網を広げたり網の目を細かくしていくという一般的な充実していくという政策を取ること、これが重要であろうかと思います。一旦そのときだけ何か政策を打つというのは将来に効きませんので、年金制度ということに関して言えばですね。それはむしろ、今、繰り返すようですけれども、今やろうとしていることを確実にやっていくということが重要ではないかというふうに思っております。
先ほど井上さんからもお話がありましたが、今回のこれは、雇用状況、もうどうなるかというのはよく分からないんですね。雇用形態も恐らくかなり変わってくるでしょうし、産業構造そのものがどういう方向に変わるか分からないと。
ただ、私は、二つの切り抜け方があって、それまでも、一つは、自分さえ良ければという、アメリカン・ファーストとかそういうようなことの風潮が一方であると同時に、そうではない、年金というのは高齢者をどうやって支えていくのかという社会の共同事業なんですね。なので、このコロナを乗り越えることによって、国民の間に、やはりお互いに助け合って生きていくことが重要なんじゃないかという行動変容で乗り越えるのか、そうではない方法で乗り越えるのか、つまり乗り越え方。これは社会学習といって、必ずそれは履歴効果として次の時代に残っていきます。
どういう乗り越え方で乗り越えていくのか。つまり、社会の構成員全体でもって社会的なセーフティーネットという共同事業を強めていこうという形で乗り越えるのか、そっちが重要ではないかというふうに個人的には思っております。
○参考人(井上隆君) ありがとうございます。
経団連の中で企業のトップの方々とこのコロナの件につきましていろいろな御意見を伺う機会がございますけれども、やはり予想付かないというのが正直なところではございますが、まだ、私先ほども意見申し上げましたけれども、海外の拡大状況というのは一向に収まる状況にありません。あと、コロナが明けた後も、国際関係がどうなっていくのかというのも全く見通しが付きません。したがいまして、企業にとって本当に先が見通せない状況ではございます。しかも、それはある一定程度長期化してしまうだろうというのが今のところの見方でございます。
ただ一方で、私どもといたしましては、とにかく雇用の維持と事業の継続を最優先というふうに考えておりまして、既に連合さんとか、あるいは就職に関しては大学側とか学生に不安を与えないようにするにはどうしたらいいか、来年の就職をどうしたらいいかということについても直接トップ同士で話し合うようなことで、雇用の維持とともに第二の就職氷河期を絶対につくらないというような必死の取組をしているわけでございます。
ただ、そうはいっても、自然災害とも言えるような大きな事象でございますので、一つの企業だけでは到底対応できないような状況もございますので、そこは政府に、国あるいは自治体に適切な支援を、政策対応をお願いをするということで何とか切り抜けていきたいというふうに考えております。
○参考人(西沢和彦君) 雇用を失う、雇用の質が悪化しますと、やはり社会保険というのは所得を前提としているので、非常に苦しくなると思います。
年金と医療保険に分けますと、医療保険については前年所得で今年の国民健康保険料決まっていますから、前年所得があっても今収入を失うと、かなりきつい状況に置かれている人いると思うんですね。ですから、年金は減免を年金機構に申請したとしても、国民健康保険については今対処すべきことはすべきだと思いますし、もう一つ、コロナで、社会保険はただ限界があると思うんですね、どうしても。払ってもらうという仕組みですし、年金も今払って将来年金をもらう仕組みですから。
やはりスピーディーに対応できるのは税制であって、東日本大震災のときは復興税のようなスキームができましたけれども、コロナも私は復興税のようなスキームでお金を配っておけば財政の悪化も防げてよかったと思いますし、また、定額給付金も課税所得にしておけば、お金持ちがもらっても来年所得税払えば国にちょっと召し上げられますので、何かそうした形でスピーディーな対応をするには税制改正を使っていった方がいいかなと思います。
○倉林明子君 年金がマクロ経済スライドの下でやっぱり水準が下がっていく、調整されていくということと併せまして、社会保障の負担の方はやっぱり増えてきていると、給付と負担のバランス見直しということもあって。で、実際に、その受け取れる年金というものに対して、やっぱり生活本当に苦しいということから、就労も、もう働かざるを得ないという方々少なくないと思うんですね。
で、お聞きするのは神野参考人と西沢参考人にお聞きしたいんですけれども、社会保障としてそのセーフティーネットを、網の目をというお話よく分かるんですけれども、じゃ、そもそも今の年金水準というのはセーフティーネットとしての機能が正直言って劣化しているんじゃないかと思っているんですね。とりわけ基礎年金の部分のところが水準としてやっぱりどうあるべきなのかという議論が必要じゃないかと思っているんですけれども、御意見をお聞かせいただきたいと思います。
○参考人(神野直彦君) これちょっと繰り返しになりますが、年金に対しての考え方二つあって、ベバリッジ型とビスマルク型と二つあるというお話をいたしました。これは全ての人が、社会保険というのは、そもそも正当な理由で、失業とかそういう正当な理由で賃金を失ったときに、それに代替するものを政府が市場の外側で給付するという性格のものですので、現役世代と退役したときの生活水準が余りにも大きく下がってしまうということを調整するんだという考え方と、先ほども言いましたように、ベバリッジ報告のように定額でもう全部配ってやりましょうかという二つの考え方があって、日本の被用者保険はそこがドッキングしているので、そのバランスは国民がやはり基本的には判断して、どちらを重視するのかということになるかと思います。それで最低水準とかを維持するということであれば、ほかにいろんな制度もあるわけですね、例えば生活保護とどう組み合わせるか。なので、社会保障全体として組み合わせていくことが重要だと思っています。
御存じのとおり、今、非常にドラスチックな提案でいけば、私は反対なんですね。生活が困窮していくというのは様々な事情で、高齢とかもありますけれども、障害とか心の病とか様々な理由で生活困窮というのは起きているので、それぞれに対応した方がいいという考え方を持っているんですが、御存じのとおり、ベーシックインカムという考え方が非常に強くなって、もうやめてしまえと、全部同じ金額だけ配ればいいじゃないかという考え方が出てきているわけですね。そこは国民的な合意を取り付ける必要があるかと思いますが、私は、今の制度の下でバランスを考えていくというのが一番ベターなんじゃないかというふうに思って、ベストなんじゃないかと思っています。
○参考人(西沢和彦君) 私はおっしゃるとおりだと思います。
元々、昭和六十年に国民年金法を改正する形で基礎年金を入れているわけですけれども、本来であれば基礎年金法のような法律があって、その一番目に基礎年金の目的が書き込まれるような議論があったらいいと思うんですね。二〇〇四年改正でマクロ経済スライドが基礎年金にも、新規裁定、既裁定に適用されることによって、今この目の前にある金額が一体何の金額なのか分からなくなってきてしまっています。
一方で、国民は、基礎年金にはその名のとおり基礎的な老後生活の礎を期待していると思うんですね。ですので、我々の、国民の期待と、あと年金財政を預かる立場とのそごが、非常にずれてきていると思いますので、これはビジョン型として議論をしていくべきだと思います。
○倉林明子君 ありがとうございます。
コロナの影響に戻るんですけれども、働き方も大きく変わっていくんじゃないかと、私も本当にそう思っていまして、特に、とりわけ高齢者の感染リスクが高いということありますので、これまでのように、元気だったら積極的に就労来てもらおうということとは変わっていく、いかざるを得ないと思うんですね。
七十五歳までの延長措置ということになったんですけれども、この質問は井上参考人にお願いしようと思うんですけれど、もちろん人手不足という環境もこれ大きくまたコロナによって変わっていくだろうと。で、感染症に対応するということでいうと、高齢者の感染リスクをどう防いでいくかという働き方をしてもらう必要があると。
七十五歳まで、今回選択肢を延ばすということで働いてもらおうということになるわけですけれども、企業側から見て、コロナと共存していく、そしてコロナ後、新たな感染症が来るかもしれないということも備えた雇用を考えていく必要があるんじゃないかというふうに思うんですが、今検討されているようなことがありましたら是非教えていただきたい。
○参考人(井上隆君) ありがとうございます。
昨日、緊急事態宣言が解除されまして、経団連といたしましても、業種別のガイドラインというのを作って、それを基に新しい働き方、職場の在り方というものを徹底をしていくということが始まったわけでございます。各自治体からも様々な対応策が出ておりますので、これ高齢者に限ってということではないですけれども、ただ、やはり高齢者の方のリスクが高いというのはおっしゃるとおりでございますので、そこも十分に配慮をしながら、各企業で順次その状況を見ながら、そのガイドラインの位置付けも見直しながら丁寧に対応していくということになろうかと思います。
○倉林明子君 以上で質問は終わります。
今日はありがとうございました。