精神保健福祉法改定案の趣旨説明「相模原事件」を厚労省削除「立法事実に関わる」倉林氏 (厚生労働委員会)
相模原市で起きた障害者殺傷事件の再発防止策との名目で政府が今国会に提出している精神保健福祉法改定案をめぐり、厚生労働省は13日、法案説明資料の「改正の趣旨」から相模原事件の記述をすべて削除しました。法案の質疑と参考人質疑が行われた同日の参院厚労委員会では、「法案自体の基礎が失われた」(池原毅和弁護士)など批判が相次ぎました。
同法案は、相模原事件の被告に措置入院歴があったことを理由に、再発防止策として措置入院後の監視・指導を強めるもの。精神障害の有無と事件との因果関係が明らかになっていないにもかかわらず、本人の意思を無視した「支援」になりかねず、警察への通知・監視体制が人権侵害にあたるとの批判が当事者団体などから出ています。
参考人質疑で、「全国『精神病』者集団」運営委員の桐原尚之氏は「相模原事件は差別と優生思想の問題であり措置入院の問題でない。法案は障害者の声と真逆の方向を示している」と訴えました。
厚労省作成の法案説明は当初、冒頭に「相模原市の障害者支援施設の事件では、犯罪予告通り実施され、多くの被害者を出す惨事となった。二度と同様の事件が発生しないよう、以下のポイントに留意して法整備を行う」と記述していました。
質疑で日本共産党の倉林明子議員は、「削除されたのは改定案の立法事実にかかわる核心部分であり、修正で済ませられるものではない」と厳しく批判しました。
塩崎恭久厚労相は「法案をより分かりやすくするためのもので、内容に変更を加えるものではない」と開き直りました。
○倉林明子君 日本共産党の倉林明子です。
今日は、五名の参考人の皆さんの貴重な意見を聞かせていただき、ありがとうございました。時間の関係で全ての皆さんにお聞きできないことをまずお断り申し上げておきたいと思います。
最初に、池原参考人に、非自発的な入院について権利条約も引いて御説明をいただきました。私も、これは代表質問で政府の見解も確認させていただいたんですけれど、政府は、障害のみを理由としたものではないのでこの障害者権利条約には違反しない、先ほども既に、こういう否定された警官の御説明もあったんですけれど、いまだにそういう答弁を国会ではしているということに対して、改めてもう一度、池原参考人の考えをお聞かせください。
○参考人(池原毅和君) ありがとうございます。
この点は無意識に障害者権利条約が作られていなくて、八回のアドホック委員会というのが国連で二〇〇二年から二〇〇六年にかけて開かれていまして、その中で、この十四条に関して、やはりどこの国でも日本と似たような、つまり、精神障害以外に自傷他害の危険性であるとか医療の必要性であるとか判断能力の欠如であるとか、そういう付加的な要件が付いて強制入院を認める制度は、まあ二十世紀にはたくさん存在していたわけです。
それに対して、つまり、条約の審査に入っている各国の代表が、例えば日本は、精神保健福祉法を維持していくためには、精神障害のみを理由とした強制入院は許されないという、自由剥奪は許されないという規定にできないだろうかということを提案して、否決されています。それから、ヨーロッパとか幾つかの国が、精神障害以外の理由が付加されている場合は自由の剥奪が許容されるというような規定ぶりにはできないだろうかという提案をして、これも否定されています。つまり、現行の障害者権利条約十四条、つまり障害を理由とした自由剥奪は正当化されないというこの規定は、精神障害以外の何かの付加的な要件が付いてもそれは許されないのだということを明確に意識して規定されているわけですね。
ですから、日本は、二〇一四年でしたか、条約を批准して、一六年にこの条約の履行状態について条約委員会に政府報告を出していますけれども、その審査結果としては、日本の精神保健福祉法は条約に違反しているという指摘を受けることは避けられないだろうというふうに思います。
○倉林明子君 ありがとうございます。
今日は、当事者ということで代表して桐原参考人に御出席いただいて、本当にありがとうございます。
先ほど来、様々な事例の御紹介もいただいたんですけれども、今回の法改正についてたくさんの当事者の方々の御意見があろうかと思うんですね。先ほど来御紹介もいただいたんだけれども、言い切れなかった部分もたくさんあるんじゃないかと思いますので、どうぞ御紹介をいただきたいなと思います。
○参考人(桐原尚之君) ありがとうございます。
とにかくこの精神保健福祉法という制度、法律自体が、精神障害者の多くの国の団体がまず廃止してほしいというふうに要求しています。僕たちも、世界の精神障害者の団体と同じく、そういうふうに主張してきました。
そして、障害者権利条約でも、精神障害を理由とした非自発的入院というものは廃止ということを明記されているし、それを補足的に説明するための例えば十四条ガイドラインというものが障害者権利委員会によって出されていますが、ここにはもう明確に、障害のみだけではなく、障害と複数の要件によって非自発的入院が行われる場合もこれは条約に違反するということが明記されています。なので、条約の政府審査というものを二〇二〇年前後行われると思うんですけど、これを受けた検討ではそこは意識した検討がなされるべきではないかというふうに思っています。
それから、やはりこの法案自体に対しては、警察が入って自殺をしないように見回りに来るとか、やはり僕らの生活に警察側が関与してしまう、入ってしまうということに対して強い不安がありますし、それから退院後支援の、これも支援であればいいというようなものではなくて、やはり支援がすごく、何というんでしょう、迷惑というか余計なこととか、そういうように作用している部分も現実ありますので、そうならないようにするためにも、こうした仕組みではなく、もっと本人の意思に基づいた仕組みにしていかなければならないのではないかなというふうに思います。
できればこの審議自体を見直して、次回の改正のときはこうしたことが起こらないように当事者の声を反映した検討というものをしっかりしてほしいなと思っています。
○倉林明子君 ありがとうございます。
最後に、田村参考人が最後の方で時間がなくて意見がお述べできなかった部分が、省略された部分があろうかと思いますので、そこを御紹介していただいて、終わりにしたいと思います。
○参考人(田村綾子君) ありがとうございます。
精神障害者の福祉の部分の法律がこの法の中から障害者総合支援法ができた時点でかなり抜けています、法改正されたことによりまして。ですので、実際には、現在この法律の中では、ほとんど精神科の医療あるいは国民の健康、心の健康の保持増進ということで保健の部分はあると思うんですけれども、福祉に関してはかなり抜けています。
それは、精神障害者だけの福祉というよりも、障害者全体を一元化して総合支援法の中であるいは総合福祉法の中で見ていくという、そういった法律の変遷があったためだということで、決してそれ自体が悪いわけではないのですけれども。ですので、精神障害のある方の地域生活支援を考えるときに、この法律の中だけでやろうとするとどうしても足りないところというのは当然出てくるんですね。
そこをどういうふうにつないでいくかというのは、結局、法律があれば全てがうまくいくということではないと思いますので、法制度を変えるということだけではなくて、実際の運用の在り方をどのように工夫していくかという、そこは人がどうやって工夫するかということだと思うのですけれども、そういう知恵を出し合う必要もあるというふうに考えています。具体的には、それは専門知識や技術を持った職員の配置ということになるんだというふうに考えています。
あとは、報酬の体系につきましても、今回の法改正の中でも、措置入院の方の退院後支援計画を考えるときに地域の福祉援助事業者も一緒になってというふうになっていますが、そこのところが、この法律の中で報酬を出すということは具体的には難しい状況で、総合支援法の中での報酬をどのように位置付けるかということが必要になります。そこでは、市町村をどうやって絡ませていくか、市町村における精神障害者の地域移行支援事業をきちんと活用しながら、措置入院の方もあるいはそうでない方も含めて、実際に医療と福祉が本当に連携する形で支援ができるようにしていかなくてはいけないので、そこに関してはもう少し運用上の工夫が必要になるところではないかというふうに考えています。
以上です。
○倉林明子君 ありがとうございました。終わります。
○倉林明子君 日本共産党の倉林明子です。
ちょっとこれはないだろうと思いました。今朝、私の部屋をコンコンとたたく小さなノックの音がありまして、開けてみたら、厚生労働省の担当の方がお見えになって、この大臣言うところの修正の一部改正法律案の概要を持ってこられました。改めて、三十年ぐらい国会で働いている秘書さんに聞いてみました、法案の審議途中でこのような概要の変更があったのかと。彼女は記憶がないと申しました。
そこにいらっしゃる方々に確認したい。法案審議途中に概要の説明書きを変えると、こんなことあるんですか。
○政府参考人(堀江裕君) 本日の理事会でその概要資料の一部を修正することについて御説明申し上げまして、理事会の方では追加資料と取り扱われたところでございますけれども、本委員会での御議論を踏まえ、概要資料のうち、改正の趣旨を法案の内容に即したものにすることでより分かりやすくするために修正したものでございまして、法案の内容に変更は加えたものでは全くございません。
○倉林明子君 質問への答弁の用意がないんだったら、手挙げないでほしいんですね。
記憶あるんですかって聞いたんですよ。こんなことやったことあるんですか。誰かそういうことをやった経験ありますか。大臣ありますか。
○国務大臣(塩崎恭久君) 通告のなかった御質問なものですから、ちょっとすぐには……(発言する者あり)
○委員長(羽生田俊君) ちょっとお静かにお願いいたします。
○国務大臣(塩崎恭久君) 通告を受けていないものですから、今悉皆的に調べろと言われても調べられませんが、追加の資料ということはいろいろあったと思いますが、今回のことについては、私が先ほど申し上げたとおり、より分かりやすくなるようにということでありますけれども、こういう形になったことについてはおわびを申し上げたところでございます。
○倉林明子君 おわびを説明の時点でいただいたという記憶は、私、今朝のことですけど、ありません。こういうふうに変更したいということでペーパーを持ってこられたにすぎません。お昼に来られた課長は、こういった記憶はございませんと明言されましたよ。こういうことをやったことがあるのかないのかと、私は重大な問題だと思うから確認しているんですよ。その自覚があるのかないのかぐらい答えられないんですか。
○国務大臣(塩崎恭久君) 過去にあったかどうかは調べてみたいと思いますが、いずれにしても、今回こういう形になったことは、国会に趣旨説明のときに申し上げた言葉ではございませんけれども、追加でこういう形で出したことについては申し訳ないと思っております。
○倉林明子君 いや、申し訳ないと謝られる前に、私はきちんと、変更するなら変更する、修正するなら修正する、何をどう変えたのかというきちんとした説明がこの委員会ではまだ一回もないんですよ。どこをどう変えたのかということをきちんと委員会でも説明をして、部屋では説明聞きましたよ、部屋では聞きました、委員会への説明が正式に、修正なり変更なり、ここをこうしたということはないわけですよ。記録に残らないまま変更を了解してくれって、こんな話は通らない。どう思いますか。説明のやり直しは最低限やるべきだ、どうでしょう。
○国務大臣(塩崎恭久君) これは私どもの方から理事会にお諮りを申し上げて、理事会の方で御差配をいただいたというふうに思っております。
○倉林明子君 我々理事会で確認したのは、これを修正の、差し替えたいという提案を受けました。文書の中身については提案を、説明を受けておりません。その上で我々は、修正、差し替えは認めることができないということで、追加の資料として了解したということですよ。十分理解してもらわないと困るんですね。
それで、この追加の資料について私確認したいと思うんです。この追加の資料なるものを一体誰がこの追加、修正の指示を出したのか。いつ出したのか、いつ決めたのか、国会への説明はいつ誰がやったのか、具体的に説明してもらえますか、経過。
○国務大臣(塩崎恭久君) これ、前回のここの場で委員会で御指摘をいただいて、そのときにも非を認めていたわけでありますから、それを受けて、組織としてこの書き方をより分かりやすくするということで、今日理事会の方にお諮りを申し上げたということでございます。
○倉林明子君 答えていない。誰がいつ決めたんですか。
○国務大臣(塩崎恭久君) さっき申し上げたとおり、厚労省として、組織としてやりましたから、当然私まで上がって判断をしているということでございます。
○倉林明子君 いつ国会への説明ということですか。いつしたんですか。説明いつしたんですか。答えていないですよ。
○政府参考人(堀江裕君) 本日の、今朝の理事会で報告をさせていただきました。
○倉林明子君 いや、説明は受けていないと言っているんですよ。説明したというのと紙渡したというのは違うんじゃないですか。
○国務大臣(塩崎恭久君) この御指摘の資料は国会に提出、元々していないものでございます。しかし、ホームページにも掲載をされ、広く使われてきたものではありますから、分かりにくさを分かりやすくするということで、前回御指摘をこの場で受けましたから、それをより良くしようということで、この間の問題点、指摘を受けて直したものでございます。
○倉林明子君 これを使って法案の説明をずっとしてきたわけですよ。そこの改正の趣旨が二行抜けるというのは、単純に二行抜けるというだけにとどまらない変更なんですよ。
そもそも、抜いた二行は何だったかと。「相模原市の障害者支援施設の事件では、犯罪予告通り実施され、多くの被害者を出す惨事となった。二度と同様の事件が発生しないよう、以下のポイントに留意して法整備を行う。」、これ、前提として書かれている文章が丸々消えるんですよ。これが趣旨の変更でなくて何なんだと思うんですよ。元々の法の趣旨が誤解される説明だったから抜いたんだというんだけれども、これ、改正の趣旨のこの二行が抜けたら、元々の説明の趣旨が変わるんじゃないですか。
私は追加というよりも変更だというふうに受け止めましたけれども、いかがですか。
○国務大臣(塩崎恭久君) 先ほど申し上げたとおり、この概要資料のうちで改正の趣旨を法案の内容により即したものにすることで、より分かりやすくするための直しをしたものでございまして、法案の内容自体に変更を加えるものではないということを先ほど申し上げたとおりでございます。
○倉林明子君 余計分からなくなるわけですよ、何のための立法だったのだと。
先ほど来、立法事実に対して質疑ありました。私どももここが本当に大きく、立法事実があるのかという質疑もさせていただいた中心部分だったわけですよ。それを修正だ、差し替えだということで取ってしまうということをペーパー配って済まそうなんというのはもってのほかだ、国会軽視も甚だしいと。修正案出し直して、説明のやり直しを私は厳しく求めたいと思う。そうでないとまともに法案審議できませんよ。
どう考えているんですか、大臣。
○国務大臣(塩崎恭久君) 先ほど申し上げたとおり、この資料は広く使われてきたことは事実でありますけれども、正式に国会に提出した資料ではございません。
しかし、今申し上げたとおり、法案説明の際に使われてきたということもございますから、それはやはり分かりやすく、より実態というか、この改正の趣旨により合ったものにした方がいいということで、今回のものを追加配付をさせていただいたということでございます。
○倉林明子君 じゃ、改めて、現時点で立法事実は何だったんでしょうか、この法案。
○政府参考人(堀江裕君) 相模原の事件を一つの契機といたしましてこの精神保健福祉法の措置入院につきまして検証を行いまして、この退院後の支援が欠けていたということでございましたので、それにつきまして現行制度の検討を行った結果、措置入院について患者が退院した後の医療や地域福祉等の支援が不十分であるなどの課題が明らかになり、これに対応するために提出したものでございます。
○倉林明子君 私は、確かに立法事実の議論をした経過も踏まえて、誤解のないように改めて法律案の概要のペーパー書き直しをしたいということであるならば、きちんとそれに沿って説明のし直しをして、議論のし直しをしないと、お互い誤解の上に成り立った議論をしても本当に無駄だと思います。
まして、これは精神障害者の人権に関わる重大な法案なんですよ。そんな、立法、スタートのところをいじるような修正、変更というんやったら、私は、やっぱり丁寧にもう一回出し直しの議論ということをやるべきだと、そうでないと本当に議論にならないということを強く求めたいと思うんです。
これは理事会でも諮っていただいて、もう一度丁寧な立法事実及び改正趣旨についての説明のし直しを求めたいと思います。
○委員長(羽生田俊君) お答えありますか。
理事会で諮ります。
○倉林明子君 立法事実についての議論を踏まえた、こうした新たな概要の出し直しというような極めて異例なことが起こっています。
この精神保健福祉法に関しては、この法案が提出された、この概要がホームページにも掲載された、それから多くの当事者たちが本当に心配と不安を増幅させて、連日私どものところにも御意見、御要望が集中しているわけです。根幹のところでそういう修正をするという、もう一回、自分たちで振りまいた誤解なんですよ、言うておきますけど、これを振り払いたいのであれば、もう一回丁寧な説明を重ねて求めて、もうちょっと時間あるので、もう一回答弁を求めたいと思う。振りまいた責任はあなたたちの方にあるんだということを私は言いたい。どう思いますか。
○国務大臣(塩崎恭久君) 繰り返して恐縮でございますけれども、今回の法案の提案理由というのは別にしっかり出しておるわけでございまして、それこそが提案の理由でございます。
今回使われてきたものの資料について、追加的に配付をさせていただいたことに至ったことについてはおわびを申し上げるわけでございますが、中身については、法案の内容につきましては、私どもとしてはこれを変更するというものではないというふうに思っておりますので、今回の追加資料の趣旨は、あくまでも法改正の趣旨を法案の内容により即したものにすることで分かりやすくするためにしたものでございますので、御理解を賜りますようにお願いを申し上げたいというふうに思います。
○倉林明子君 とっても御理解できるレベルではないと思います。
そもそもこの法案提出に至った経過については、私、十一日の質疑でも指摘したとおりだと思うんですね。三年後の見直しということで準備してきた議論、ここが相模原事件で大きく、それ検討会での議論も変わったと田村さんもおっしゃっていましたよ。そういう経過たどった。その出発点は何だったかというと、事件直後に総理が、事件を徹底的に究明し、再発防止、安全確保に全力を尽くすと言って立ち上げられた、厚生労働省を事務局とする検証・検討チームだったわけですよ。
先ほど石橋さんからも指摘あったけれども、現行制度の下で何をしておけばこの事件を防ぎ得ていたのか。これ、再発防止の考え方ですよね。更に踏み込んで、現行制度に加え、いかなる新たな政策や制度が必要なのか等、今後の再発防止策として提案していくことが重要である、再発防止が目的でないと繰り返し言うんだけど、出発点の目的はそこにあった、そういうことじゃないでしょうか。指摘して、終わります。