障害者雇用促進法改正案 働き支える仕組みに 倉林氏が質問 参院審議入り(2019/5/29 本会議)
障害者雇用促進法改正案が29日の参院本会議で審議入りしました。日本共産党の倉林明子議員は、障害のある人もない人も分け隔てなく共に生きる社会を目指す障害者権利条約の観点を実現する立場で、障害のある人が働くことを支える仕組みを見直すよう強く求めました。
倉林氏は、官公庁で障害者雇用率の水増しが発覚した問題について、障害当事者を加えて徹底検証するよう主張。「虚偽報告の背景に何があったのか、その解明こそ、今後の障害者雇用の抜本的改革につながる」と述べました。
また、実効性ある再発防止策をとるために、「中央省庁の障害者雇用率の順守をはじめ、合理的配慮の提供を含めた障害のある労働者の待遇や、採用選考のプロセスについてチェックできる仕組みづくりが必要だ」として、行政機関から独立した監視機構の創設を検討するよう主張。国際水準からみても低い日本の法定雇用率の引き上げや、重度障害を1人雇用することと重度でない人を2人雇用することを同じとみなすダブルカウントは障害者の尊厳を損なうとして、見直すよう求めました。
さらに、倉林氏は現在の雇用義務制度が就労の困難さの実態を反映したものになっているかについて検証するよう主張。障害者手帳を保持していない難病、慢性疾患患者を法定雇用率の対象にするよう求めました。
根本匠厚労相は、法定雇用率の引き上げについて「まずは現行の雇用率を達成することが重要だ」としか答えませんでした。
○倉林明子君 日本共産党の倉林明子です。
私は、日本共産党を代表して、障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律案について、厚生労働大臣に質問します。
昨年、国の行政機関、立法機関、司法機関、地方公共団体等を含む多くの公務部門において、障害者雇用率が水増しされていたことが発覚しました。障害のある人や関係者は余りの事態に言葉を失い、こんな差別的な出来事に直面するとは思わなかったと、無念や怒りの声が上がりました。
政府の八割以上の機関が関与しており、自己申告や担当者の主観で判断した、亡くなった方や退職者を計上していたなど、誤った手法が長期にわたり各省庁で引き継がれてきたのです。この間、政府は、不適切計上と称していますが、政府全体で障害者雇用率を達成したかのように偽装するために虚偽の報告をしていた、これが事実ではありませんか。
参議院厚生労働委員会の参考人質疑で、精神障害のある人の働く場、生活の場で支援に従事する増田一世氏は、今回の障害者雇用水増し問題は、働きたい、働いて生計を立てたいと願う人たちの働く機会を四十年余りにわたって奪ってきたということなのですと批判しました。
大臣、本来ならば働く機会を得ていたはずの障害のある人が一体どれだけいたのか、顔が見えない被害者が確かに存在することを自覚していますか。
これだけ大規模に長期的に不正が続けられたにもかかわらず、検証結果は真相解明には程遠いものと言わざるを得ません。関心が薄いのはなぜか、意識が低いのはなぜか、恣意的だが意図的でないとなぜ言えるのか、今もって何一つ明らかにされていないのです。
長年偽装報告を放置し続けてきた当事者である厚生労働省自身が検証委員会の事務局を務めていたことが、徹底した解明を妨げているのではありませんか。
検証に当たり、多くの障害者団体は、障害のある人を検証委員会に含めることを強く求めてきましたが、一顧だにされませんでした。
厚労省は必要であればヒアリングすると言い逃れていますが、重要なのは、明らかにされた事実の分析、検討、決定に障害当事者が参加することなのです。何も明らかにしないまま幕引きにすることは許されません。障害当事者を加えて徹底検証を行うべきです。答弁を求めます。
虚偽報告の背景に何があったのか、その解明こそ、今後の障害者雇用の抜本的改革につながると考えます。
日本障害者協議会代表の藤井克徳氏は、障害のある人が職場にいると能率が下がる、障害のある人がいると働きづらくなる、できれば職場の中から障害者を探し出そう、そんな意識が長年引き継がれたのではないかと、その本質を厳しく指摘しています。
国の各機関において、外部から新たに障害者を雇用したくないという障害者排除の意識がなかったと明言できますか。
本来雇用されるべき障害者を排除していたという点において、障害者雇用促進法の差別禁止規定の趣旨に反し、差別解消法、権利条約に違反する重大な権利侵害であることは明らかではありませんか、答弁を求めます。
行政を挙げての障害者排除は、旧優生保護法による被害の問題と共通するものです。障害者権利条約第二条は、差別とは障害に基づくあらゆる区別、排除、制限であるとし、第八条は、あらゆる生活領域において障害者に関する固定観念、偏見、有害な慣行と闘うことを求めています。政府が、行政関係者が、そして立法府が、この実現を目指さなければなりません。
そこで、法案について質問します。
改正案では、一週間の所定労働時間が十時間以上二十時間未満の労働者を雇用する事業主に対して特例給付を支給するとしています。障害特性によって短時間なら働けるという方たちの雇用を拡大するため、障害当事者からも求められてきたことですが、なぜ雇用率、納付金、調整金の対象としなかったのですか。
今回の改正で、国及び地方公共団体の障害者雇用状況について、的確な把握等に関する措置がとられました。報告徴収、書類保存、勧告等ですが、民間企業にはある立入検査の規定は、国、地方公共団体には設けられておりません。これでは実効性ある再発防止策とはなり得ません。
障害当事者、関係者は、今回の事態を受けて、第三者性を備えた監視のための仕組みづくりを求めています。
中央省庁の障害者雇用率の遵守を始め、合理的配慮の提供を含めた障害のある労働者の待遇や採用選考のプロセスについて、チェックできる仕組みづくりが必要です。行政機関から独立した監視機構の創設を検討すべきではないですか。
雇用率の偽装により障害者政策に関わる基礎データの信用性がなくなり、誤ったデータにより国の障害者政策が論じられてきたことになります。雇用率の偽装というあるまじき事態を受けて、今求められるのは、これを機に障害者の労働政策の検証を行い、抜本的に見直すことです。
日本の法定雇用率は、公的部門二・五%、民間企業二・二%であり、ドイツ五パー、フランス六パーなど、国際水準から見ても低過ぎます。法定雇用率を引き上げることを求めるものです。
また、重度障害者を一人雇用することと重度でない人二人を雇用することが同じとみなすダブルカウントは見直すべきです。ダブルカウントは、事業者の経済合理性を優先した制度、論理であり、障害者の尊厳を損なうものです。
現在の雇用義務制度が就労の困難さの実態を反映されたものになっているかについても検証すべきです。雇用義務の対象となる障害者の範囲は、原則、障害者手帳の所持者と一致しますが、日本の障害認定基準は極めて厳しく、手帳所持者も著しく少ないのが現状です。
障害者権利条約批准後、法制度は医学モデルから社会モデルに転換しています。労働雇用政策における障害者の捉え方についても社会モデルに見直すべきです。答弁を求めます。
今回の法改正では、法定雇用率の対象拡大は見送られました。難病、慢性疾患患者の自立や社会参加にとって、就労は大きな課題です。障害者手帳を保持していない難病、慢性疾患患者を法定雇用率の対象にすべきではありませんか。
また、障害者雇用促進法は、国家公務員に関して、差別禁止規定、合理的配慮規定を適用除外としています。この見直しこそ必要ではありませんか、お答えください。
長年にわたり、採用試験において、自力で通勤できること、介助なしで勤務遂行できることなど条件が付けられ、実質的に障害者は排除されてきました。これらの条件は、今回の国家公務員採用試験では、関係団体の批判により外されることとなりました。しかし、合格したとしても、個別の支援、介助がなければ働くことは保障されません。
そもそも、現状では、民間企業も含め、障害者が働く際には、行動支援、移動支援、重度訪問介護などの福祉サービスは使えません。納付金による介助者への助成制度があるものの、原則十年までしか使えないのです。見直すべきではありませんか。
障害者雇用の先頭に立つべき行政機関の中にある根深い障害者排除の意識が社会障壁となって、障害のある人に合理的配慮や必要な支援を講じることを妨げ、障害者権利条約や関連法令を形骸化させているとの指摘を厳粛に受け止めるべきです。
最後に、障害のある人もない人も分け隔てなく共に生きる社会を目指す障害者権利条約の観点を実現する立場で、障害のある人が働くことを支える仕組み、見直すことを強く求めて、私の質問といたします。
○国務大臣(根本匠君) 倉林明子議員にお答えいたします。
今般の事案では虚偽の報告がなされていたのではないかとのお尋ねがありました。
各行政機関は、検証委員会の調査への対応を職務として命じられている中で、可能な限りの実態把握を行った上で、意図的に不適切な対応を行った例は把握していないとの回答を行い、その旨が検証委員会の報告書に記載されています。
今般の事案が極めてゆゆしき事態であることに変わりはなく、再発防止の徹底や障害者の活躍の場の拡大を政府一体となって推進してまいります。
本来ならば働く機会を得ていたはずの障害者数についてお尋ねがありました。
今般の事案を踏まえ、昨年、各府省の障害者の任用状況を再点検した結果、法定雇用率を達成するために本来雇用されるべき障害者として約四千人が不足していることが明らかとなりました。
これまでの不適切な計上によりこの不足数が明らかとなってこなかったものであり、今般の事態を重く受け止めています。
検証委員会の事務局の構成についてお尋ねがありました。
検証委員会の調査の方法や検証の議論は、委員会で主体的に行われたものです。
厚生労働省は、制度所管部局ではない大臣官房に臨時のチームを置いて、内閣官房と共に事務局を務め、検証委員会の方針の下で事務を行いました。検証委員会にはしっかりと検証いただいたものと考えています。
事案の再検証についてお尋ねがありました。
検証委員会では、事案の実態や原因を明らかにすることを目的に、弁護士や行政監察の有識者、障害者施策に造詣の深い有識者に専門的な知見で検証していただき、その役割を果たしていただきました。また、この検証結果等を踏まえ、障害当事者の方を含め様々な方の御意見を聞いた上で、今回の法案を提出したところです。
今般の事案の背景についてお尋ねがありました。
検証委員会の報告書においては、国の行政機関における障害者雇用の促進を実効あらしめようとする基本認識の欠如と法の理念に対する意識の低さが指摘されております。この指摘を重く受け止め、権利条約等の趣旨も踏まえ、これまでの対応を深く反省し、公務部門を含めて障害者雇用の推進を所管する責任を改めて自覚した上で、障害者の雇用を一層促進してまいります。
特例給付金の対象障害者に関する雇用率の適用等についてお尋ねがありました。
労働政策審議会の意見書において、雇用率制度の対象とする常用労働者については、職業的自立の目安である週所定労働時間二十時間以上の労働者とする枠組みを維持することが適当とされました。このため、週二十時間未満の労働者については、雇用率及び調整金の対象とせず、短時間であれば働ける障害者の就業機会の確保のため、新たに特例給付金の制度を設けることとしたものです。
独立した監査機構の創設についてお尋ねがありました。
国の行政機関における障害者雇用の適正かつ円滑な推進について、厚生労働大臣による報告徴収の規定等を今回の法案に盛り込んでいます。こうした規定に加え、関係閣僚会議や、公労使、障害者代表を構成員とする審議会において適切にフォローアップしながら、政府一体となって取り組むこととしており、新たな機構の創設は考えていません。
法定雇用率の引上げについてお尋ねがありました。
我が国の法定雇用率は、障害者にも一般の労働者と同様に雇用の機会を確保するという趣旨に基づき定めております。まずは、現行の雇用率を達成することが重要です。
なお、諸外国の法定雇用率が高い理由として様々な要因が考えられますが、対象障害者の範囲や社会状況などが異なるため、単純に我が国の法定雇用率と比較するのは適当でないと考えています。
雇用率のカウント方法についてお尋ねがありました。
重度障害者のダブルカウントは、就労の困難度の高い重度障害者の雇用を促進するため、事業主に対して職域の拡大の努力を促すとともに、施設設備の改善等に係る多くの負担を考慮し、雇用率制度の適用上、有利に取り扱っているものです。今後も、本制度の趣旨を踏まえ、適切に運用してまいります。
労働雇用施策における障害者の捉え方についてお尋ねがありました。
障害者雇用促進法における障害者は、手帳所持者に限っておらず、広く職業相談や職業紹介等の支援の対象としています。一方、障害者雇用率制度では、対象障害者を明確かつ容易に判定できるよう、対象障害者の条件を原則として障害者手帳等を所持しており、今後とも適切に対応してまいります。
難病患者等についてお尋ねがありました。
難病には様々な疾病があり、就労に当たっての困難性も多様であること等から、支援を強化し、企業における雇用のノウハウの蓄積を図っていくことが重要と考えています。
その上で、手帳の所持を原則とする雇用率制度の対象障害者の範囲については、本年二月に取りまとめられた労働政策審議会の意見書で引き続き検討することが適当とされていることを踏まえ、今後、適切に対応してまいります。
国家公務員に係る差別禁止規定等についてお尋ねがありました。
公務部門の障害者雇用における差別禁止及び合理的配慮については、公務員の勤務条件が法律で定められているなど独自の法体系が存在することから、国家公務員法などそれぞれの法制度の中で対応が図られているところです。今後も、それぞれの公務員法制において適切に対応されるものと考えています。
障害者に対する個別の支援、介助についてお尋ねがありました。
障害者の就労のための移動等の支援を障害福祉サービスの対象とすることは、様々な課題があり、慎重な対応が必要と考えております。
また、職場介助者の配置等に対する助成金については、障害者雇用納付金に基づく助成金の趣旨や、助成金の実績、効果なども勘案し、必要な対応を検討してまいります。