実態把握 調査不十分 倉林氏 長時間労働の指導問題視 (厚生労働委員会)
(資料があります)
日本共産党の倉林明子議員は17日の参院厚生労働委員会で、野村不動産への「特別指導」について、安倍政権の実績づくりのために長時間労働の実態把握が不十分なまま特別指導を行った疑いをただしました。
違法な長時間労働の企業名公表の基準では、残業時間を決めた「三六協定」に違反し、月80時間以上残業した労働者が1事業所で10人以上または4分の1以上に達することなどを要件としています。
倉林氏は、加藤勝信厚労相が野村不動産について公表基準に該当していないと答弁していることについて、「どの要件に該当しなかったのか。基準を超えても出さないなら長時間労働隠しの批判は免れない」と指摘しました。
加藤厚労相は、「ひとつひとつどこに当たるか、当たらないか申し上げていない」と述べ、答えませんでした。
野村不動産の事業所を各労働基準監督署が立ち入り調査したのは昨年11~12月と考えられ、特別指導は12月25日です。
倉林氏は、「裁量労働制の実労働時間の把握は困難だ。野村不動産の過労自殺の労災認定には半年以上かかっている。特別指導を12月25日に決め、違反実態を十分つかめないままだったのではないか」と問題視。「裁量労働制違法適用の指導実績がほしかったのは安倍首相だ」と追及すると、加藤厚労相は、官邸の関与を「まったくない」と否定しました。
倉林氏は、「労働行政のルールを踏みにじった。裁量労働制の乱用が過労死を生んだことを教訓とし、『働き方改革』一括法案は撤回すべきだ」と主張しました。
○倉林明子君 日本共産党の倉林明子です。
今回の特別指導については、あってはならない恣意的な運用ではなかったのかと、これは与野党問わず当委員会でも指摘が相次いでいる問題となっております。私は、この点での説明責任というのはいまだ果たされていないというふうに思っているわけです。
そこで、今日も質問させていただきたいと思いますが、衆議院での我が党高橋千鶴子議員が長時間労働を隠しているのではないかという指摘をさせていただきました。それに対して、企業名の公表基準、これについて大臣は、公表基準を超えたものを一般として出しているんだと、至っていないものは入っていない、そして本件についてということで、該当していない、こういう答弁されているんですね。つまり、公表基準に至っていなかったというのが本件だということをお認めになったと思うんですね。
じゃ、基準の一体どこに該当しなかったのか、その点は御説明いただけませんか。
○国務大臣(加藤勝信君) 今の答弁は、公表基準にのっとって公表した場合において、その事案を発表していますね。それについて……(発言する者あり)いやいや、ですから、発表しているということを申し上げたということであります。
本件は、先ほどから御説明しておりますように公表基準に該当していないということでございますので、それとは違う形で、今回特別指導という形をやらせていただき、そして、どういった問題があるかについては、東京労働局の発表資料の中において、こうした問題がある、要するに、全社的にやっているとか大半が本来適用されないものであるとか、こういったことを指摘をしたと、こういうことでございます。
○倉林明子君 そこ、大事なんですよね。
公表基準は、既に確立したものとして、ルールとしてあるんですよ。それに該当しないということであれば、どこがどう該当しないのかという説明をきちんと果たさないといけないというふうに思うんですよ。
口頭指導した東京労働局長、そして野村不動産、いずれも、三六協定違反の長時間労働が発生していたこと、そして賃金不払があったと、これについては一致しているんですね。それであるならば、違反件数が公表要件である一事業場で十人以上又は当該事業場の四分の一以上の労働者に達した、これが複数事業場にあるということが前提になって掛かっている要件ですよね。
じゃ、ここが満たしていなかったのかどうなのか、いかがでしょうか。
○国務大臣(加藤勝信君) 基本的に、公表事案においても、例えば公表した場合、どれに掛かったかということは必ずしも言っておりません。今言った長時間労働の問題があったということを申し上げているだけであります。
本件は該当していないわけですから、それについては、公表する場合においても一つ一つどれに該当しているかということは説明していない、そして、もちろんこれ公表対象じゃありませんから、当然どこに該当するかということについても公表していないと、こういうことになります。
○倉林明子君 そこが出ないから恣意的な運用性の疑いが晴れないんですよ。公表基準を超えているのに出さない、こういうことであれば長時間労働隠しだと、こういう批判は私、免れないと思う。
じゃ、一方で、公表基準に該当していないということである場合、何が該当していなかったのか、この点ははっきりさせる必要がある。恣意的な運用ではないと。じゃ特別指導の基準は何だったのかといったら、ばくっとした話しか出てこないと。これじゃ説明にならないと思うんですよ。どうです、大臣。
○国務大臣(加藤勝信君) ちょっと同じやり取りになってしまうんですけれども、今申し上げたように、該当した場合においてもどこに該当するかは説明をしていないわけでありますし、当然、該当していないわけですから、この基準以内のものの数字を公表するというのは……(発言する者あり)ですから、以内であればの話ですね、以内であれば、その数字を出すということには、これはそれぞれの企業のこともありますから、そういった対応にはなり得ないということで、一つ一つどこに当たるか当たらないかということについて申し上げていないというのが今の対応で、ただ、今回、特別指導したという理由は、先ほど申し上げておりますように、東京労働局の公表した資料の中にその理由はもうるる説明をしていると、こういうことであります。
○倉林明子君 いや、そのるるの説明の基準や根拠がはっきりしないということで、本来、定めたルールにのっとって、その公表基準に行っていないということであれば行っていないという説明を明確にされるべきだと思うんですよ。そこもちゃんとしないですよね。別の基準で判断したものだという説明には到底納得できない。長時間労働を隠していたものではないんだということであれば、私は、大臣報告にありました、労働時間の実態を調べたものがあるわけですから、それを出すのが何よりもの説明責任を果たすということにつながっていくと思うんです。今の説明では到底納得できません。
既に大臣報告にあります労働時間に関する調査結果についての開示は求めてきております。引き続き、提出していただくように重ねて求めておきたいと思います。
次行きます。
立入調査を各労基署が本格的にやったのは、いろいろやり取りを開示されたものを見ておりますと、十一月から十二月ということがうかがわれるわけですね。これ一般的に、山越局長にお伺いしますけれども、裁量労働制の違法適用の場合に、実労働時間の把握、これに要する時間というのはどの程度になりますか。
○政府参考人(山越敬一君) お答え申し上げます。
裁量労働制が法定要件を満たさない場合はみなしの効果が発生しないことになりますので、この場合は通常の労働時間制が適用されることになるものでございますけれども、この場合、労働時間の把握に必要な期間がどの程度かということにつきましては、この裁量労働制の対象労働者の数や範囲など様々な個別の事案の事情により異なるというふうに考えておりまして、一概にお答えすることは難しいというふうに思っております。
○倉林明子君 先ほどあったように、百三十事業場については裁量労働制の違法適用でやっているんでしょう、是正勧告。大体どのぐらい掛かったかというようなこと、言えませんか。
○政府参考人(山越敬一君) お答え申し上げます。
これについては一概にお答えすることは困難であるというふうに考えておりまして、ただ、一定の日時を要するケースも少なくないというふうに思っているところでございます。
○倉林明子君 野村不動産で裁量労働制が違法に適用された労働者、これは報道ベースで表に出たものですけれども、この長時間労働が行われて、長時間労働の末、この方は二〇一六年九月に過労自殺されたという報道です。二〇一七年春に労災申請がされたという報道を見れば、これ認定された時期って十二月二十六日ですよね。相当時間、実労働時間の確定に掛かっているんですよ。この事案で推測されるのは、半年以上という時間かと思うんです。
一般に、裁量労働制の実労働時間の把握というのは一般で労働時間管理されているところよりも困難だというのが現場の監督官の声というふうに伺っているわけですね。いいですか、調査期間を十分に取れば、公表基準を超えるような実態、これ把握できた可能性というのはあるんじゃないかと思うんです。つまり、本格的に調査に入って、何で十二月でこれ調査を終了したのか。いかがでしょう。
○政府参考人(山越敬一君) 今御質問の件でございますけれども、これは個別の事案に関することでございますので、また監督指導の円滑な実施に支障を来すおそれがあるものでございますので、回答は、恐縮でございますけれども、差し控えさせていただきたいと思います。
○倉林明子君 特別指導に関わることだから聞いているんですよ。一般の監督指導に、一般論で逃げたらこれ説明成り立たぬのですよ。そこをよく踏まえていただきたいと思う。
特別指導をやるという根拠になったのに、何でこれ十二月で早々に調査を打ち切ったのかと。認めておられないけれども、公表基準には至っていないということをおっしゃるから私はここ確認しているんですよ。もう一回、どうです。
○政府参考人(山越敬一君) 繰り返しの御答弁で恐縮でございますけれども、個別の事案でございますので回答は差し控えさせていただきたいと思います。
○倉林明子君 特別指導だからじゃないのかという疑念が湧いてくるわけですよ。だから、十二月二十六日というあの公表の時期と、特別指導した上で公表するという時期を決めていたからではないのかと、違反実態が十分つかめないまま、極めて異例の特別指導となったんじゃないかと、この疑惑にしっかり答えるべきだと私は思うわけですよ。
一般論に逃げ込まずにしっかり答えるべきだ。もう一回チャンスを与えよう。いかがでしょう。
○政府参考人(山越敬一君) 大変恐縮でございますけれども、個別事案でございますのでお答えを差し控えさせていただきたいと思います。
○倉林明子君 解明が必要だというふうに思っております。
更に確認したいと思うんですね。
今回の指導目的というのは、先ほど来繰り返されているように、悪質な裁量労働制の違法適用の是正なんだと、こういう説明ですよね。一般に、重大、悪質、こういう労働時間関係法令、この違反が認められる場合というのは、本社指導、これを行うという手続はもう定まっております。これ、一体誰がすることになるでしょうか。
○政府参考人(山越敬一君) 一般論としてお答えさせていただきたいと思いますけれども、労働基準監督官におきまして監督指導の結果、労働基準法の法違反、これが企業全体で生じていると考えられる場合におきましては、本社を管轄する労働局や労働基準監督署の監督官が本社に立入調査を行って指導するというのが一般的であるというふうに考えております。
○倉林明子君 つまり、これまでのルールでも、本件の場合、新宿労基署署長が指導すると、公開はしません、これがこれまでのルールの運用になろうかというふうに思うんです。
そこで、私不思議でしようがないと思っておりますのが野村不動産の公開情報なんですよ、公表情報。これ、資料で付けておきました、ホームページ。これ見ていただきたい。当社はということで、二〇一七年十二月二十五日付けで本社及び地方四事業場を管轄する労働基準監督署より、一部職員に適用している企画業務型裁量労働制に関する是正勧告・指導を受けた、こう書いているんですね。
特別指導を行ったはずですよね。ところが、特別指導を東京労働局長から受けたという記載がどこ見ても出てこないんですよ。署長指導よりも重いというはずの局長指導じゃなかったのかと私思っているんですけれども、この局長指導というあなたが行った特別指導についても一言もない、局長から指導を受けたというのも一言もない、これ、どういうことなのか、勝田さん、お答えください。
○参考人(勝田智明君) お答え申し上げます。
私の方からは社長に対して特別指導を行いましたが、それをどのように公表する、あるいは公表しないということは当該企業自体がお決めになったことですので、私からお答え申し上げることができないという状況でございます。
○倉林明子君 私は、口頭指導で、法的な根拠ということでも示せない、通達さえも示せない、指導書もその上ないわけですから、そういう事実を踏まえて野村はあえて書かなかったのではないかというふうに思ったんですね。そうでないと理由が分からないんですよ。
裁量労働制の違法適用企業に対する公表基準、これに該当しなかったから特別指導だったんだとおっしゃるんだけれども、まずやるべきは、裁量労働制の違法、悪質な、全社的な、今回指導を掛けたかった目的ですよね、それを公表するためには何をすべきだったのか。まずやるべきは、この公表基準を、指導できるよう、公表できるよう見直すことが先だったんじゃないかと。いかがでしょうか。
○国務大臣(加藤勝信君) この特別指導をなぜ行ったか、もう再三説明しておりますから、もうそれは省略をさせていただきたいと思います。
ただ、逆に公表基準、要するに、決めてから公表基準作っちゃうというのも、それ、どうなのかなと。要するに、じゃ、公表基準決めれば当然その後から適用するものがそれに当たらなきゃいけないわけですから、その事前に判断したものが、じゃ、それに適用されるかどうかと、非常に技術的な問題もあるのではないかと思います。
ただ、いずれにしても、これは私どもとして最終的には東京労働局長がこうした対応をすべきだと判断してやらせていただいた。そして、その理由はということでこれまでもさんざん説明をさせていただいた。ただ、ここで御指摘いただいておりますように、今後についてどういう場合に特別指導を行っていくのか、そのルール化についてやはりはっきり基準を設けるべきだ、こういう御指摘はいただいておりますので、その御指摘を踏まえて我々として特別指導のルール化については検討していきたいと、こう考えております。
○倉林明子君 それは駄目だと思いますよ。やっぱり基準。法令、基準、根拠、こういうものを積み上げてやってきたのが労働行政じゃないんですか。だからこそ企業にも受け止めてもらって、是正へと踏み出していけるわけですよ。後から基準作ったらええというようなことで運用していったら、恣意的な運用がまかり通るということになるんじゃないですか。私は、恣意的な運用があったのかなかったのかと、こういう点で特別指導というのが本当に問題になっているわけですよ。そのときに、後から作ればいいという発想は間違いだと思う、改めるべきだと思います。
その上で、なぜこういう異例の扱いがされたのかと、こういう特別指導がされたのかということで背景を見てみれば、どんな時期だったのかということなんです。安倍総理が議長である働き方改革実現会議、ここで働き方改革実行計画が決定したのは昨年の三月二十八日でした。九月十五日、この時点で、働き方改革法案要綱、これ、労政審でいろんな議論があったんだけれども、おおむね妥当ということで通したわけですよね。総選挙があった。そして、今年一月二十二日開会の通常国会を目前にして裁量労働制の違法適用を厳しく指導と、こういうことになってきたんじゃないかというふうに思わざるを得ないんですよ。特別指導ということで、裁量労働制を導入したい、そこに違法適用はやっぱり厳しく指導しているんだと、こういう実績が一番欲しかった、これ、安倍総理じゃないかと思うんです。
官邸の関与はこの件に関してなかったのかどうか、いかがですか。
○国務大臣(加藤勝信君) 全くありません。
○倉林明子君 労働行政が積み上げてきたルール、これ踏みにじるようなことを一体誰ができるんだろうかと。踏みにじっているという認識です。そういうことができるというのは、岩盤規制ということで打ち破るんだと豪語してきた安倍総理以外に私は考えられないというふうに思うわけです。
野村不動産で裁量労働制の濫用がこれ過労死を生んだんですよ。ここをしっかり踏まえた労働行政をしていくべきだ、そこを教訓とすべきだったんじゃないかというふうに思います。改めて働き方改革関連法案については撤回を強く求めまして、終わります。