倉林明子

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「働き方」法案 政省令90超、中身は白紙 倉林氏質問 残業上限も高止まり(2018/6/19 厚生労働委員会)

(資料があります)

 「働き方改革」一括法案をめぐり、日本共産党の倉林明子議員は19日、参院厚生労働委員会で、残業代ゼロ制度(高度プロフェッショナル制度)の具体的中身が政省令で定める事項ばかりで国会軽視もはなはだしいと批判。「過労死ライン」の残業上限も労働時間の高止まりの危険が現実のものになっていると追及しました。「20日に会期末となる。廃案にすべきだ」と迫りました。

 倉林氏は、高プロの労働者ヒアリングが法案要綱策定後のもので立法事実と言えず、労働時間データも2割削除後の再集計で数値が激変したことを指摘しました。

 加藤勝信厚労相は、「数字に変動があるのは指摘通り」と認め、安倍晋三首相の「変化はみられない」(4日)との答弁を修正しました。しかし、「法案の位置づけに大きく変わりはない」と強弁。倉林氏は、「立法の根拠はことごとく崩れた。やり直すしかない」と強調しました。

 倉林氏は、高プロの具体的な対象や、長時間労働を防ぐとされる「裁量」の保障などを質問。山越敬一労働基準局長は、どれも「省令で決める」としか答えられませんでした。

 倉林氏は、「法案に政省令で決めるものが90以上もある。白紙委任に等しい。中身がスカスカだ。こんな法案は断固認められない」と批判しました。

 残業の上限規制も、単月100時間、平均80時間、年720時間という「過労死ライン」を容認。倉林氏は、損保大手の三井住友海上で残業を決めた三六協定が、法案を踏まえ、従来の年350時間から540時間へ、190時間も延長されていると告発しました。

 加藤厚労相は、「法案はギリギリ実現可能なものとして労使が合意した」などと、「過労死ライン」の上限に固執。倉林氏は、週15時間、月45時間、年360時間の大臣告示基準の法定化を求め、「過労死促進などあってはならない」と強調しました。


新たな労働時間制度の創設


三六協定で結んでいる残業時間の上限


三井住友海上火災保険株式会社の36協定の見直し


議事録を読む

○倉林明子君 日本共産党の倉林明子です。
 大阪北部の地震がありました。同規模の余震の発生の指摘もございます。本当に万全を期して対応をお願いしておきたいというふうに思います。
 それでは、法案です。高プロ制度の立法事実というのは一体何だったのか、これ審議が進むほど分からなくなっていると、これ現状だと思うんですね。総理は、成果で評価される働き方をしたい方のために制度をつくると衆議院で答弁ありました。つまり、こういう働き方を望む労働者がいるという説明だったと思うんですね。
 ところが、参議院の参考人、公述人、これ意見を聞いてまいりましたけれども、誰が望んでいるのかさっぱり分からない、高プロ入れたいという企業はほとんどない、中小企業にはそんな人はいないという声も上がっておりました。ニーズとして紹介されました労働者に対するヒアリングも、これは法案要綱策定後だったということも明らかになりました。つまり、これニーズ調査じゃなかったということだと思うんですね。
 大臣は、産業競争力会議等々での議論があったというふうにも御答弁されております。そこで確認したいと思います。産業競争力会議で初めて高プロの提案がされたのはいつで、一体誰の提案だったのか、確認できますか。

○政府参考人(山越敬一君) 高度プロフェッショナル制度の創設につきましては、産業競争力会議において取りまとめられました日本再興戦略改訂二〇一四において、時間ではなく成果で評価される働き方を希望する働き手のニーズに応えるため、一定の年収要件を満たし、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者を対象として、健康確保や仕事と生活の調和を図りつつ、労働時間の長さと賃金のリンクを切り離した新たな労働時間を創設することとして、労働政策審議会で検討し、結論を得た上で、次期通常国会を目途に所要の法的措置を講ずるとされたものでございます。
 この産業競争力会議の場では、平成二十六年四月二十二日に民間議員から新たな労働時間制度の創設に関する資料が提出されたところでございます。

○倉林明子君 長々答弁いただいたんだけど、誰の提案かって説明抜けているんですよ。
 四月二十二日、第四回経済財政諮問会議・産業競争力会議の合同会議で提案がされました。この提案をしたのは誰だったか。産業競争力会議の雇用・人材分科会の主査、長谷川閑史氏であります。その資料を入れております。一枚目となっております。このBタイプのところを見ていただきたいと思うんだけれども、高度な職業能力を有し、自律的かつ創造的に働きたい社員、おおむね一千万円以上と。これは本人の希望選択に基づく決定ということですから、法案とほとんど骨格変わっていないんですよ、この提案と。長谷川氏は、当時、武田薬品工業株式会社の社長です。ここなら、研究開発業務など、Bに該当する社員が存在するのかもしれません。
 資料二、見ていただきたい。これは、当時の経団連役員企業など各社の残業時間の上限、いわゆる三六協定の特別条項の規定がどうなっているかというものを一覧にしたものです。真ん中辺りより下に武田薬品工業があります。経済同友会代表幹事、この時間で見れば、一か月百二十時間を上限に設定している会社なんですよ。結局こういうところが高プロを望んでいた。これ、はっきりしていると思うんですね。
 さらに、議論の出発点としてきた労働時間等総合実態調査、これは統計としてその正確性、信頼性、大きく損ねたままとなっております。大臣は、落ち度があったと認められた上で、謙虚に反省し、厚労省として説明責任を果たすと言われました。いまだその説明責任が果たされているとは思っておりません。実態調査が公的統計として法改正の出発点として使えるのかどうか、いつになったら説明していただけるのか、御答弁ください。

○国務大臣(加藤勝信君) 今の御指摘の、ちょっと前段の話はいいですね。
 それで、後段の総合実態調査の話でありますけれども、この調査については今回精査をさせていただきまして、一定の条件を設定し、異常値である蓋然性が高いものは無効回答として当該事業のデータ全体を削除した、そして、集計対象のデータについて、精査前よりも信頼性の高いものになったと考えておりますし、また、精査後もなお九千を超えるサンプル数があって、標準誤差についてもおおむね精度は十分確保されているということ、また、精査前と比べて集計結果に大きな傾向の変化が見られないということ、そうしたことを踏まえて、今回の罰則付きの長時間規制、あるいは中小企業における割増し賃金の猶予の廃止、そういったことの必要性というのは依然変わっていないというふうに思っております。
 それからまた、公的統計ということでありますけれども、公的統計について、たしか前も議論がありました。統計調査とこれに該当しない業務統計等があって、今回私たちの集計したデータは業務統計ということで、総務大臣の承認が必要な統計調査には該当しないということでございます。したがって、厚生労働省としての責任として行うべきものであるというふうに考えております。

○倉林明子君 改めてあのときの議事録もよく読んでほしいと思うぐらいで、あくまでも業務統計は公的統計だと、これは総務省がはっきり答弁もいただいたとおりなんですよ。だから、公的統計としての信頼性を品質保証のガイドラインで指摘したんですよ。全く今答弁が進展していないというのは驚きです。
 使うとしているデータについて大きな変更はないということをおっしゃるんだけれども、違うんですよ。修正して九千になったサンプルというのは乖離が出ているんですよ。年間千時間超えの三六協定、ここで実際に三六協定超えて残業していた、これは修正前は三・九%。ところが、修正したら、これは四八・五%に跳ね上がっているんです。大事なところですよ。研究開発業務で大臣告示を超えた事業所というのは、修正前三割、修正したら五割に跳ね上がっているんですよ。いずれもこの法案と関わりのある重要な変更点だと、修正になっているんですよ。
 大臣、労政審の提出資料、これとの大きな乖離があるということはお認めになりますね。

○国務大臣(加藤勝信君) 御指摘のあった数字については、精査前と精査後において変動があるということは御指摘のとおりであります。ただ、ここで言われている、例えば特別延長時間が長ければ平均時間が長くなっていく、こういった関係というのは否定されるものではないということで、先ほど申し上げた罰則付きの時間外労働の上限規制の必要性というのは引き続き高いものと認識をしております。
 それから、新技術、新商品の研究開発の業務に関する資料、これも、最長の時間外労働の実績について、上限規制の一般則である月四十五時間、年三百六十時間の範囲に収まる事業所が当初七割でありました。ただ、このときは、一般労働者については九割を超えているということで、それに比べて低いということでありますので、今回のやつでは五割ということで更に低い水準になっているということでありますので、その辺の位置付けというものには大きく変わりがないのではないかというふうに認識をしております。

○倉林明子君 いや、データの大きな乖離はあったんですよ。それでも使うという。
 労政審に提出したデータというのは、間違いがあったというだけにとどまらず、やっぱり論点となる部分で重大な乖離、誤認をさせているという、そのぐらいの認識を持たないと駄目だというふうに思います。労政審を欺くようなことをしているんだということですよ、指摘したいのは。
 その上で、さらに、労政審に提出した資料である就労条件総合調査、これについても指摘をいたしました。一般の労働者に管理監督者を含めていたこの事実について、大臣は、正確性に欠けていた、反省すると答弁されました。しかし、管理監督者の実態把握はいつになるか分からない、調べるけれどね。ここでも、労政審に対し労働時間の原則適用者をより過大に見せていたということになるわけですよ。データの捏造に重ねて恣意的なデータを提供した、この批判は免れないと思う。
 大臣、認識どうですか。

○国務大臣(加藤勝信君) 今御指摘の点、通常の労働時間制との表記、これは弾力的な労働時間制度以外のものを指すという意図ではあったわけでありますけれども、厳密に週四十時間制のみを指すものではなく記載が正確性に欠けるというふうな御指摘は受け止めていかなければならないというふうに思っております。
 今後とも、こうした資料の作成等に当たっては、これまでの一連の問題の指摘も踏まえて、反省の上に適切に対応させていただきたいと考えております。
 また、管理監督者についてはその実態を明らかにすべきという御指摘、また衆議院の厚生労働委員会の附帯決議もございますので、その把握にしっかりと取り組みさせていただきたいと思います。

○倉林明子君 私、やっぱり立法の根拠にもなるのがデータであり資料であり、それに基づいて労政審というのが判断してきたんですよ。そういう意味からも、労働者自身の中にも要求としてこんな働き方したいという人はいないと、立法の根拠が私はことごとく崩れていると指摘したいと思うんです。
 間違いを認めるのであれば、やり直すしかないんですよ。このまま強行するというようなことをすれば、私は、行政に対する国民の信頼、東京労働局だけにとどまらない、厚生労働省全体に対して大きなやっぱり信頼を失うことにつながりかねない。断じて強行など認められないということをまず申し上げたい。
 次に、審議が進むにつれて、中身や規定の詳細、これが分からなくなっているのが高プロですよ。この段階において与党からも確認しないと分からないという状況になっているわけですから、事は深刻なんですよ。
 改めて高プロについて私も確認したいと思います。具体的な対象業務が明らかになる、これはいつのことでしょうか。

○政府参考人(山越敬一君) 高度プロフェッショナル制度の具体的な対象業務でございますけれども、これにつきましては、平成二十七年二月の労働政策審議会の建議におきまして、金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリストの業務、コンサルタントの業務、研究開発業務等を念頭に、法案成立後、改めて審議会で検討の上、省令で適切に規定することが適当であるとされております。
 したがいまして、対象業務を定める時期を具体的に申し上げるのは難しい状況でございますけれども、法案が成立した場合には、速やかに労働政策審議会で御議論をいただきまして、省令案を諮問したいと考えております。

○倉林明子君 大体、どんな業務が対象になるのか、これ法律が成立してからでないと分からないと。省令改正でしょう。これ、どこまでも拡大、法で縛らないわけですから、いろいろ言うているけれども拡大の可能性というのは極めて高いと言わないといけないと思うんですよ。
 さらに、法案には高プロの労働者の裁量権の規定がないんです。自ら働く時間と休憩を決める権利、そして出退勤の自由、そして休む自由、これ何によって保障されるのか、明確に、簡潔にお答えください。

○政府参考人(山越敬一君) 高度プロフェッショナル制度の対象となる業務でございますけれども、これは法案において、その性質上従事した時間と従事して得た成果の関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務についてのみ認められることが明記されております。この法律の要件に沿って、具体の対象業務を省令で定める際には、働く時間帯の選択や時間配分について使用者が具体的に指示するものは対象業務としないことを明記する方向で検討します。

○倉林明子君 大臣は、高プロ制度運用について、労働者の裁量を奪うような業務の指示は、その具体的な中身によって個々に判断していくことになると思う、こう答弁したんですよ。で、裁量を奪う指示について、たまたまこういう会議がありますよということを通知したことが当たるのかと答弁しているんですね。つまり、会議の通知なら裁量を奪う指示にはならないと、そういうことですか。

○国務大臣(加藤勝信君) 先ほどの、この法律、それにのっとった省令改正をしたということを前提に答弁させていただきますと、使用者から特定の日時を指定して会議への出席を義務付ける、これは労働者の時間配分等の裁量を奪うような指示ということでありますので、高プロの制度について申し上げれば、法令の要件を満たさず、制度の適用は認められないと、こういうことになるわけであります。
 ただ、他方、こうした会議がありますよという一つの情報提供というような場合、あるいは、いずれにしても、高プロで働いている方もミーティングしたり会議することは当然あり得るわけでありますから、使用者とあらかじめ御本人が合意をしたという範囲の中で行うもの、そういった会議、そしてそれに出席をしていくということ、これは別にそれに該当しないのではないかというふうに考えます。

○倉林明子君 使用者は通知しただけだと、こういうふうに説明したら幾らでも必要な指示ができるということになりませんか。私、既にこれは大穴が空いていると思うんですよ。何の歯止めにもならないと。これ、強く指摘しておきたい。
 さらに、年収要件です。今日、石橋委員からも指摘がありました。フルタイムの労働者の平均の三倍ではなかったこと、通勤手当なども入ること。月額二十万円程度でも対象になり得ると、これ吉良議員の指摘がありました。
 健康管理時間についても疑問だらけですよ。高プロに該当しない要件も判然といたしません。該当しなくなった場合に一般原則が適用される労働者へ戻すと言うんだけれども、これ、実労働時間の管理は義務付けられておりません。賃金も、そして労働時間も、こういう働く者にとって肝腎な規定の多くを政省令、省令等に委ねるというふうにしているわけですよね。高プロとして契約した労働者の長時間労働、そして過労死を防ぐ保障というのは一体この法律のどこにあるのかと、確認したい。

○政府参考人(山越敬一君) 健康管理時間でございますけれども、これは事業場内にいた時間と事業場外において労働した時間との合計の時間を健康管理時間とするものでございます。これを客観的に把握することを制度導入のための前提といたしますとともに、これを基に使用者が健康を確保するための措置を講じていただくことになるものです。この健康管理時間でございますけれども、実労働時間数を全て必ず含んだ上で、高度プロフェッショナル制度対象の方の健康確保のための措置を的確に講ずるための基礎となる時間として把握するものでございます。
 その上で、この健康確保措置でございますけれども、昨年七月に連合から総理宛てに要請いただいた内容を踏まえまして、年百四日かつ四週四日の休日取得を義務付けますし、それからインターバル規制及び深夜業の回数制限といった法律に規定する選択的な健康確保措置も実施することにしております。

○倉林明子君 あのね、法文での規定もないのに防げるわけがないんですよ。実労働時間の把握義務をなくしたら、労災申請も過労死の認定もされないということになるんですよ。
 そもそもこの働き方改革関連法案で、政令、省令、指針、通達、本当に決めるということが多いわけですよね。これ、それぞれ何件あるのか説明できますか。端的に。数字だけやで。

○政府参考人(山越敬一君) 政令はこの法律の施行に伴い必要な経過措置を定めます。省令は約六十項目程度になると考えております。指針についてでございますけど、これは八項目程度になると考えております。

○倉林明子君 我々も法文から拾ってみて勘定したんですね、そうしたら合計九十になったんですよ。さらに、幾つかの通達もあるということになるわけで、驚くべき数字だというふうに思います。労働基準法だけでも私たち数えたら三十八ありました。これでは法案の白紙委任、これを我々に求めているということになるんじゃないかと思うんですよ。国会軽視も甚だしいと言わざるを得ません。高プロの立法の根拠というのは、私は完全に失っていると思います。その上、法案の中身はすかすかです。歯止めなく働かせることが可能になる、こんな法案を立法府として認めるわけには私いかないというふうに思います。
 高プロだけではありません。労働時間の上限規制も、過労死を防ぐどころか更なる長時間労働を招く危険があります。本法案の成立を見込んで三六協定の改定がされております。
 それが三枚目の資料となっておりますが、三井住友海上でございます。この例を紹介いたします。
 法制化動向を踏まえた見直しだということで、三六協定の特別条項の年間限度時間を、見ていただいたら分かりますとおり、それまでは三百五十時間だったんですよ。ところが、それが五百四十時間ということで、年間百九十時間引き上げるということになっているんですよ。長時間労働の縮減どころか、拡大になっているんです。
 聞きます。一般的に本法案で特別条項の引上げを防止できますか。

○政府参考人(山越敬一君) この上限時間の設定でございますけれども、昨年三月の労使合意におきまして、上限時間、その水準までの協定を安易に締結するのではなく、月四十五時間、年三百六十時間の原則的上限に近づける努力が重要であるということが合意をされておりまして、上限水準までの協定を安易に締結することを認める趣旨ではございません。可能な限り労働時間の延長を短くするため、労働基準法に根拠規定を設けまして、新たに定める指針に関しまして、使用者及び労働組合等に対して必要な助言、指導を行うことといたしまして、長時間労働の削減に向けた労使の取組を促してまいります。

○倉林明子君 促していくと言うんだけど、法改正前からこんな動きがあるんですよ。防げないんですよ。
 経済同友会は、既に二〇一七年の二月に、働き方改革に関する主要論点に係る意見を公表しております。その中で、上限の設定について触れております。法定労働時間の意義を弱め、上限までの時間外労働が許容されるという誤った認識につながり、労働時間の高止まりを招くと言うているんですよ。経済同友会が言うているんですよ。
 この指摘どおりのことがやっぱり起こっているんですよ。結果として、過労死ラインの働かせ方というものを合法化するという危険は極めて高いと思います。
 罰則付きの上限規制は条件付に賛成だと表明された棗参考人、それでも今回の上限時間は引き下げるべきだという意見の表明ありました。さらに、使用者の安全配慮義務、これを定めた労契法五条、これは免脱されないことを明確にすべきだと。御指摘、そのとおりだというふうに思いました。
 どう担保されるのか、簡潔に御説明ください。

○政府参考人(山越敬一君) 上限規制が決まりますと、その安全配慮義務違反に問えなくなるのではないかという御指摘についてでございますけれども、これは最終的には個別具体的な事案に即しまして司法において判断されますが、一般論として申し上げれば、労働契約法第五条に基づく安全配慮義務違反による損害賠償請求をめぐる司法上の判断に当たりましては、過去の裁判例を見ますと、労働時間の長さだけではなく、業務の質や量などが総合的に考慮をされておりまして、労働基準法の規定を当てはめて安全配慮義務違反になるといった関係にあるわけではないと考えております。
 したがいまして、法案で定められております労働時間の上限規制の範囲内で働いていた方が労働災害に遭った場合の民事上の責任についても、様々な要素を総合的に考慮した上で、司法において安全配慮義務違反の有無が判断されることとなると考えられるものです。

○倉林明子君 司法が判断するということになるわけでしょう。裁判で使用者が、月百時間未満、平均八十時間を超えなければ労基法違反にならないと、こういう主張が可能になってくるわけですよ。免脱されないと言いましたけれども、使用者の民事上の責任、損害賠償義務、これ、ないという司法判断につながりかねないと、そういう懸念があるという棗参考人の指摘だったということを重ねて申し上げておきたいと思います。
 上限規制は労使合意なんだと繰り返し御説明ありました。じゃ、労使合意があれば三六協定で過労死ラインの残業が可能になってくる。つまり、改めて大事、過労死をなくすということでいえば、週十五時間、月四十五時間、年間三百六十時間、ここを法定化する、これが必要なことだと思う。改めて大臣の答弁を求めたい。

○国務大臣(加藤勝信君) 先ほど安全配慮義務の話がありましたけれども、現行法においても、これは大臣告示とのパッケージでありますけれども、一応合法とされている中において、要するに労使協定の範囲ということでありますね、においても、こうした労災等、あるいは損害賠償請求、こうした司法事案があるわけでありますから、したがって、今回の事案を入れるからといって直ちに安全配慮義務等が問えなくなるというものではないということであります。
 それから、時間外労働の上限規制、これはあくまで、先ほどもちょっと答弁いたしましたが、原則は月四十五時間、年三百六十時間、その前に、基本、労基法三十二条の当然週四十時間というのがあるわけでありますけれども、その上で臨時的な特別な事情がある場合に該当すると労使が合意しても、上限は七百二十時間、その範囲において八十時間、百時間未満等々の規定を設けさせて、違反する場合には罰則を科すということにしているわけでありますが、これもやっぱり労使が、それぞれこれまでも議論をずっとしながらなかなかこの合意に至らなかった。今回、ぎりぎりの実現可能なものとして労使が合意をしたという内容でありますので、私どももそれに沿って法定化をさせていただいたということでありますし、先ほどから何回も申し上げておりますけれども、これ上限ということでありまして、そこまで安易に上げていいということを言っているわけではなくて、可能な限り労働時間の延長を短くするため、今回、助言、指導を行うような根拠規定も設けさせていただいているということであります。

○倉林明子君 いや、だから紹介したように、特別条項で既に働き方改革を受けた格好で見直した中身というのが、これ三井住友海上の例でも、百九十時間も労働時間を上限引き上げるというようなこと、もう始まっているわけですよ。
 実際に、確かにその過労死、月百時間未満と平均八十時間という数字で労使合意したということで画期的だとおっしゃるんだけれども、これが法定化されるということになったら、裁判の判断はどう変わっていくのかということで、その点では、私、極めて危険性高いと。そこに張り付いていくという指摘、経済同友会の指摘で、そこに労働時間の上限を決めて、そういう働き方が起こりかねないということを改めて指摘をしたいと思うんです。
 過労死家族の会の寺西さんがこの参議院でも参考人として来ていただいて、お話もいただきました。私たちは、労働行政を進めるに当たって、やっぱり改めて過労死をどうやってなくしていくのかということを考えないといけないし、それが具体的に守れる法改正にしていく必要があるわけですよ。
 改めて、会長の言葉を紹介したいと思います。
 高プロは、労働時間も使用者に把握義務がなくなるので、過労死しても過労死の労災認定はほとんど無理になり、賠償も無理になる。実際に過労死は増えても労災申請も労災認定もされないことは、泣き寝入りする人が増え、数字の上では過労死は減ったという最悪の現象になりかねません。
 この指摘は重いと思います。高プロで過労死促進など絶対にあってはならない。あしたは会期末となります。すなわち廃案にすべきだ、強く申し上げて終わります。