倉林明子

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年金カット法案に懸念 参考人質疑(厚生労働委員会)

 「年金カット法案」の参考人質疑が9日の参院厚生労働委員会で開かれました。年金支給額を抑制するマクロ経済スライドは必要とする参考人からも「基礎年金が削られすぎる」と懸念の声が出るなど、課題が浮き彫りになりました。

 日本総合研究所の西沢和彦主席研究員は、年金カットはやむを得ないとしながら「2050年まで延々とスライドが続くと購買力がどんどん低下する。マクロ経済スライドは基礎年金を痛めてしまう」と述べました。

 大妻女子短大の玉木伸介教授は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の、インハウス運用(自家運用)について「相当慎重に対処すべきだ」と指摘。「巨大な機関投資家が政府機関として存在すること自体、立ち止まって考えるべきだ」と根本的な疑義を呈しました。

 全日本年金者組合の茶谷寛信中央執行副委員長は、法案について「将来の年金水準が不明確。制度の維持より生活の維持を」と批判。「年金は所得再配分であるべきだ。労使が拠出する保険料と租税を通じて再配分が応能負担で行われるべきだ」と主張しました。

 日本共産党の倉林明子議員は、株式運用で損失が発生した場合はどうなるのか質問。西沢氏は「損失はマクロ経済スライドの長期化を通じて解消するしかない。30年、40年後につけが回ってくる」「今の制度は長期運用に対応していない」と述べました。
 倉林氏は「マクロ経済スライドで基礎年金が傷む」として対策を質問。神奈川県立保健福祉大学の山崎泰彦名誉教授は「1200万人に厚生年金を適用拡大する、拠出期間を65歳まで伸ばす、などすればマクロ経済スライドはいらなくなる」と答えました。


議事録を読む(参考人意見陳述)
○委員長(羽生田俊君) 公的年金制度の持続可能性の向上を図るための国民年金法等の一部を改正する法律案を議題といたします。
 本日は、本案の審査のため、四名の参考人から御意見を伺います。
 御出席いただいております参考人は、神奈川県立保健福祉大学名誉教授山崎泰彦君、株式会社日本総合研究所調査部主席研究員西沢和彦君、大妻女子大学短期大学部教授玉木伸介君及び全日本年金者組合副中央執行委員長茶谷寛信君でございます。
 この際、参考人の皆様方に一言御挨拶を申し上げます。
 本日は、御多忙中のところ当委員会に御出席いただき、誠にありがとうございます。
 参考人の皆様から忌憚のない御意見をお述べいただきまして、本案の審査の参考にさせていただきたいと存じますので、よろしくお願い申し上げます。
 次に、議事の進め方でございますが、まず、参考人の皆様からお一人十五分以内で順次御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑にお答えいただきたいと存じます。
 なお、参考人、質疑者共に発言は着席のままで結構でございます。
 それでは、まず山崎参考人にお願いいたします。山崎参考人。

○参考人(山崎泰彦君) この度は、国民年金法等の改正につきまして意見陳述をする機会を与えていただき、ありがとうございます。

○委員長(羽生田俊君) 済みません、マイクを少しお口に近づけていただけますか。

○参考人(山崎泰彦君) 最初に経緯について申し上げますと、平成二十四年八月に三党合意による年金機能強化法が制定されました。そして、翌年八月に三党合意によって設立されました社会保障制度改革国民会議が報告書を取りまとめます。そして、その国民会議の報告書を受けて、そこで掲げられました課題をそのまま社会保障制度改革プログラム法に位置付けております。そして、翌年に五年に一度の財政検証結果が取りまとめられまして、そして、併せてオプション試算というものが発表されたわけでございます。こういった流れの中で、社会保障審議会の年金部会の議論の整理が平成二十七年一月に取りまとめられております。
 ここで重要な役割を果たしているのは財政検証でございます。これをどう見るかということでございます。財政検証は経済前提八つ置いておりまして、五つが何とか所得代替率五〇%を確保できる、あと三つが非常に厳しい、確保できないという結果でございますが、いずれにしましても、あえて言いますと、所得代替率五〇%を辛うじて確保できるケースと非常に厳しいケースの二つに集約されると思います。たとえ前者であっても、基礎年金については、その機能が将来的に著しく損なわれるということが明らかになりました。そして、そうしたことからしますと、我々は、将来に向けた非常に厳しい見通しでございますが、そういった危機感を共有し、改革を急がなければならないという一点の結論に集約されるのではないかというふうに見ております。
 今回の改正法案は、五点ありますが、このうち保障機能に係る制度改正三点について申し述べたいと思います。
 この三点は、オプション試算で示唆された方向性に照らすと、物足りない、踏み込み不足というのが実感でございます。ただし、様々な制約がある中で、当面の実現可能性を追求すれば、現状ではこうならざるを得ないということも承知しております。そうすると、持続可能性を高め、かつ給付の十分性を確保するには、スピード感を持った更なる改革が必要だということになると思います。
 さて、まず第一点でございますが、五百人以下の企業も、労使の合意に基づき、企業単位で短時間労働者への適用拡大を可能とするものでございます。
 平成二十四年の年金機能強化法附則では、平成二十八年十月からの五百人以上の企業での適用拡大の施行後三年以内に検討を加え、その結果に基づき必要な措置を講ずるという検討規定を置いております。
 今回の法案は、この検討規定を一部前倒しして実施するものとして、一定の評価をいたします。特に、国、地方公共団体、実際には市町村ということになりますが、について職員数に関係なく全面的に適用することについては、適用拡大が進まない中で公務が先導的役割を果たすものとして高く評価いたします。今後、附則の検討規定に従って、五百人以下の企業への本格的な適用拡大に向けて検討を急ぐべきだというふうに考えております。
 第二点は、国民年金第一号被保険者の産前産後期間の保険料免除と、これに伴う保険料の引上げでございます。
 社会保険制度の枠内での次世代育成支援は、雇用労働者に対する支援が先行し、自営業者等については長い間全く手付かずでありました。育児休業、産前産後休業が雇用労働者を対象にした制度であって、自営業者等にあっては、法制的な位置付けがないことや保険料引上げの負担感が非常に強いということもありまして、非常に困難な事情がありました。
 平成二十四年の年金機能強化法附則では、国民年金第一号被保険者に対する産前六週間、産後八週間の保険料免除措置について検討するよう検討規定を置きました。改正法案はこれを受けたものでありまして、次世代育成支援という観点からこの懸案事項にけりを付けるものであります。また、平成十六年改正により設定された保険料上限を更に百円引き上げるという財政規律を維持するものであることも評価いたしたいと思います。
 第三点は、年金額の改定、スライドルールの見直しでございます。
 平成十六年改正は、保険料上限設定とマクロ経済スライドにより年金財政の持続可能性の確保を目指すものでありましたが、年金額の特例加算の解消が遅れたことや、デフレ基調が続いたこともあって、マクロ経済スライドが発動したのはやっと平成二十七年度のことでありました。
 その影響をもろに受けたのが基礎年金であります。現在の高齢世代の所得代替率が一割程度上昇する一方、将来の所得代替率は当初の想定以上に低下いたします。基礎年金の調整期間は、平成十六年当時の想定では約二十年であったものが、平成二十六年の財政検証では、今後約三十年掛かり、所得代替率も約一割下がり、基礎年金としての機能が著しく低下することになります。
 現行制度は、保険料の上限が設定された限られた財源を現在と将来の高齢世代の間で分かち合う仕組みであります。現在の高齢世代の水準調整が遅れた場合、マクロ経済スライドの調整期間を延長し、調整の遅れにより財政が悪化した分は将来の高齢世代の水準をより引き下げることによって取り戻さざるを得ません。
 具体的には、今回の法案では、マクロ経済スライドにつきまして、年金の名目額が前年度を下回らない措置を維持しつつ、賃金、物価上昇の範囲内で前年度までの未調整分を含めて調整するというのが一点でございます。もう一点は、賃金変動が物価変動を下回る場合に、賃金変動に合わせて年金額を改定する考え方を徹底するものでございます。前者は、現在の高齢世代に配慮しつつできるだけ早期に調整する観点から、また、後者は、賃金・物価スライドについて、支え手である現役世代の負担能力に応じた給付とする観点から提案されているものであります。
 専門家の間では、景気後退期で賃金、物価の伸びが小さい場合や賃金、物価の伸びがマイナスの場合にもマクロ経済スライドによる調整を徹底すべきだという声が少なくない中では、国民合意を得る上でのぎりぎりの選択をされたものと思います。
 さて、国民会議報告書は、年金制度の長期的な持続可能性を強固にし、セーフティーネット機能を強化する改革に向けて、四つの課題を掲げていました。マクロ経済スライドの見直し、短時間労働者に対する適用拡大、高齢期の就労と年金受給の在り方の検討、高所得者の年金給付の見直しでございます。
 平成二十六年財政検証に関しては、単に法律で規定しております財政の現況と見通しを示すだけでなく、報告書に提示された年金制度の課題の検討に資するような検証作業、俗にオプション試算を行うべきとしたわけでございます。そして、平成二十五年十二月の社会保障制度改革プログラム法においても、国民会議報告書が掲げた課題を検討事項として列挙いたしました。
 オプション試算三つありますけれども、いずれも所得代替率の改善に効果があることが確認されております。八つの経済前提のうち、労働参加率が高まる高成長ケースのうち、最終的な所得代替率が五〇・六%で最も低くなるケースについて見ましても、被用者年金適用拡大千二百万人のケースでは五七・五%、基礎年金四十五年拠出六十五歳受給のケースでは五七・一%、退職年齢と受給開始年齢六十七歳のケースでは六八・二%、それぞれ単独の改善効果であります。これらを合わせて並行して推進するとすれば、現在の所得代替率程度の水準を維持することは言うまでもなく、上回ることも決して不可能ではありません。
 今回の法案では、こうした将来に向けて引き続き検討するように求めております。その検討に当たって特に考えていただきたい点を幾つか申し上げたいというふうに思います。
 第一点は、厚生年金の適用拡大は急務だということであります。
 本来は厚生年金の適用対象でありながら、適用漏れにより第一号被保険者となっている者が二百万人と推計されます。この二百万人の被扶養者になっている第一号被保険者を含めると、二百万人を相当上回る人が本来は二号グループあるいはその被扶養者として三号グループに移動するはずでございます。また、適用対象外である事業所への適用拡大も課題でございます。これらの事業所で働く被用者は、フルタイムに限定しても約六百万人にもなります。
 次に、短時間労働者の本格的な適用拡大は急務でございますが、実は極めて難易度の高い課題でございます。何度も挑戦してなかなか進んでこなかったわけでございますが、やはり経済界の理解を得ることが決定的な条件になります。もはや政府レベルの取組では限界があると思います。政治のリーダーシップが求められている分野だと思います。
 基礎年金拠出期間の延長による給付増の二分の一は国庫負担増になります。現在六十歳までの四十年間、これを六十五歳までの四十五年間を基礎年金の期間にいたしますと、それがそのまま二分の一が国庫負担増になります。約一兆円と言われております。社会保障の公費負担は消費税で賄うという原則からすれば、消費税率の更なる一〇%を超える引上げとセットで議論する必要がございます。基礎年金の水準低下に対しては、福祉的措置である年金生活者支援給付金による支援の強化も検討課題になるかと思います。
 総じて、低所得者対策に当たっては、年金だけでなく、医療や介護における保険料や利用者負担、年金税制の見直し等も併せて検討する総合的な検討が必要かと思います。
 以上で意見陳述を終えます。

○委員長(羽生田俊君) 山崎参考人、ありがとうございました。
 次に、西沢参考人にお願いいたします。西沢参考人。

○参考人(西沢和彦君) 日本総合研究所の西沢です。本日は、このような機会をいただきまして、ありがとうございます。
 私は手元資料はありませんので、口頭でお話ししたいと思います。
 大きく三つ申し上げまして、一つはマクロ経済スライドについてです。
 私、こういう研究者の生活を二十年近くやっていますけれども、非常にがっかりしたことが去年の二月にありまして、それは、与党の社会保障特命委員会の年金PTに厚労省から名目下限措置を維持するというペーパーが出たんですよね、マクロ経済スライドに関して。それまでは、厚労省も我々研究者も、名目下限措置を廃止した方がマクロ経済スライドがより早期に終わって将来世代の負担が軽くなる、将来世代のことを思えば、足下の年金受給者の方には苦しいけれども、名目下限措置を外しておいて早くマクロ経済スライドを終わらせようというのが、厚労省の方も恐らく、私たち研究者の多くもかな、と思っていたんですね。ところが、二〇一五年二月の年金PTのペーパーには名目下限措置を維持するというふうに明記してありまして、非常にがっかりした記憶があります。これで年金もつのかなと。
 で、今回の法案のキャリーオーバーという形に至ったわけですけれども、考えてみますと、確かに何にもしないよりいい。ですから、私は十分ではないけれども必要だと思っています。
 次の改革も必要だと思っています。十分ではない。例えば、キャリーオーバーを考えますと、賃金や物価が上がったときにそれまでたまってきたスライド調整率をどんと引こうといったときに、例えば三%、四%物価が上がって、しかもその原因が輸入価格の上昇であったり消費税引上げだったりしたときに、物価が上がって年金据置きですよと、なぜならこれキャリーオーバーですからといったときに、例えば地元の高齢者の方が、キャリーオーバーって何、となりますよね。生活も大きなダメージを受けるわけです。
 とすると、本当は将来世代のためには年金を抑制しなくちゃいけないけれども、じゃ、ちょっとこれ上げておかないとな、選挙も近いし、となって上げてしまうと、今度は年金財政が傷んで将来世代が痛みを伴ってしまうわけであって、それよりも、毎年こつこつと少しずつ嫌でも給付水準を抑制して、名目下限措置を外しておいて給付水準を抑制して早く終わらせた方がいいに決まっているんですよね。でも、それがなぜかキャリーオーバーになってしまっているわけであって、ここは本当はよくよくそれでいいのかといったことを見ておきませんと、本当に将来世代にとって禍根を私、残すと思っています。
 ですから、今回、キャリーオーバーの法案、私は必要だと思います、十分ではないけれども。ですから、十分にするためには、もう財政検証、次、すぐ迫ってきていますので、そこで、キャリーオーバーでよかったのかじゃなくて、名目下限措置を外した方が本当はよかったよねという、名目下限措置を外すという選択肢を次に残すことが必要だと思います。
 今回の法案のルールの変更の二つ目で、賃金と物価を丈比べして、今、既裁定年金は物価でスライドしますけど、賃金はもっと下がっているときがありますので、丈比べして賃金が下がっていればそれに合わせるというのは、私、年金数理上やむを得ないと思うんですね。ですから、これは年金カット法案と呼ぶべきでは、まあ実際カットなんですけれども、年金カット法案と呼んでそこから表面的な理解、誤解を得るべきではないですよね。
 数理上必要、数理上。でも、今申し上げたマクロ経済スライドやこの丈比べの案って、政府からしてみると、あるいは年金財政からしてみますと、年金財政健全化のためにはやむを得ない。確かに支払を減らせば年金財政は楽になりますけれども、支払を減らすということは、その支払額を年金受給者の数で割りますと一人一人の年金は減っていくことになりますよね。これは生活者の立場からしてみると非常に困ることになるわけです。
 ですから、山崎先生がもう理論的に全部理路整然と御説明されていましたけど、十分性とこの財政の持続可能性のせめぎ合いの中で我々悩まないといけないわけであって、年金生活者の生活、これで大丈夫なのかなという検討が、今回この結論は非常に重要だと、受け入れるべきだと思いますけれども、プロセスについては、この賃金と物価の丈比べについて財政検証で検証も行われていませんし、非常にテクニカルでありながら十分な説明をなされていないという、ここに至るプロセスはやはりちょっと問題があったかなと私思います。
 以上申し上げたことと今度相反するようですけれども、やっぱり今回年金を削減すべきだと、スピード感を持って削減すべきだと私申し上げましたが、他方で、年金を一階と二階に分けたときに、一階の方が財政検証では削られ過ぎるんですね、一階の基礎年金が。今、満額で六万四、五千円だと思いますけれども、財政検証では厚生年金のマクロ経済スライド適用はもう二〇二〇年前には終わってしまうと。ところが、基礎年金の方は二〇四〇年、五〇年まで掛かって延々と続いていくわけです。ですから、新規裁定年金の給付水準も下がっていきますし、既裁定の方も、この間、物価スライドが全く保障されないわけですから、購買力がどんどんどんどん低下していくわけです。
 基礎年金には、山崎先生からお話ありましたように、本来被用者でありながら国民年金にしか加入していない、できていなかった人たちも入っているわけですから、ここは非常に深刻な問題であって、マクロ経済スライドが良くないのは、特に基礎年金を傷めてしまうというところだと思います、生活者から見てみますと。ですから、基礎年金の底上げが本来必要であり、今回の財政検証に至る過程の中においても、厚労省の年金部会の中では加入期間を延長してより多くの基礎年金をもらえるようにしようではないかといった案が出ていましたり、いろいろしたんですけれども、それも結局結実せずにここに至ってしまいました。
 ですので、この基礎年金の劣化、低下をどうするかというところを本当はもっと議論しないといけないわけでありますし、また、丈比べの案についていいますと、結局、元々は、丈比べというよりも、二〇〇四年の年金改正でマクロ経済スライドを入れたことによって既裁定の年金の物価スライドが保障されなくなりましたから、年金の金科玉条であった購買力維持がもうそれで残念ながら捨て去られてしまったんですよね。年金って、購買力を維持しますよというのが公的年金のすばらしさだったわけですけれども、やはり少子高齢化が進む中でマクロ経済スライドを適用しなければいけないということで、物価スライドをそこで捨ててしまったわけです。
 やっぱり、当時の二〇〇四年の中の議論では、既裁定については物価スライドを維持してもいいんじゃないのかなと、ここはマクロ経済スライドしては駄目かなというせめぎ合いもあったように聞いています。そういったせめぎ合いが本来ずっと議論されるべきですし、今回丈比べの案が出ましたけれども、丈比べはそれを更にもっと強化するものですから、そういった議論があってしかるべきかなと。
 基礎年金って、御案内のとおり、基礎年金法という法律がありませんで、国民年金法の改正で基礎年金があるかのようになっていますけれども、本当は、基礎年金ってどうあるべき、新規裁定の水準はどうあるべき、既裁定は、購買力は維持されなくていいのかというところを今後課題として残しているのかなと思います。
 これが非常に私、一番申し上げたかったことで、二番目は今回の法案の中の一つのGPIFですね。
 GPIFのガバナンスを強化するということは私は重要だと思います。基本ポートフォリオに関しての私の見解は、多分お手元に私の見方を配っていただいていると思いますけれども、究極のガバナンスというのは、私が一つ思いますのは、運用している人間が、保険料を払っている人がどんな思いで保険料を払っているか、そして、保険料を集める年金機構の人がどんな苦労をして保険料を集めているかというのを肌身で知っていることだと思うんですよね。そういうふうに肌身で知っていますと、いや、ちょっと五兆円損しちゃったなみたいな、長期で見ましょうよという言葉が口から出てこないんじゃないかと思うんですよね。
 翻ってみますと、GPIFって虎ノ門ヒルズのきれいなビルに居を構えているわけです。年金機構は高井戸にあって、もうぺこぺこぺこぺこ頭をみんな下げて、年金受給者の方や被保険者の人から文句言われるわけですよね。ですから、受給者の方や被保険者から文句を言われることが非常に重要で、そういった声が背中にあれば、また運用スタンスも変わってくると思うんですよね。
 ですから、年金を運用している人たちに重要なのは、確かに投資理論も必要なんですけれども、そういう座学でなくて、保険料を払っている人たちがどんな思いで年金機構の職員と免除の手続しているかということや、年金局の方がどんな思いで保険料を集めて納付率を向上しようとしているかという意識であって、私は、だから、独立した組織としてGPIFを虎ノ門ヒルズに置くのではなくて、年金機構の中に例えば置いて、運用担当理事を一人置いて、そこと、徴収担当理事がいて、あるいは、お客様相談センターみたいな窓口がありますから、コールセンターがあって、そこに日々受給者の方、年金被保険者の方からいろんな声が届きますから、その人たちと一体になって、年金受給者、被保険者の声を背中に感じながら運用する、その声を感じながらステートメントを出すということが非常に重要であって、今の体制は、あたかも百四十兆円というお金が天から降ってきたかのように、私は高度な投資理論を備えていますという形で運用していますけど、そうではないと思いますので、そういった形で今後議論を進めていただければいいと思います。
 今回の法案にはその思想の一部が入っていると思います。労使の代表を一名ずつ入れるというふうになっていますが、私、ちょっと足りないと思うんですね。やはり、もっと被保険者、受給者の声を、皆さんも多分地元でも年金受給者の方や被保険者の方から大丈夫なのという声を聞かれると思うんですけれども、それがダイレクトに届くような組織体制で運用する、そこに先端の投資理論があればなお好ましいということかなと私は思います。
 最後に、適用拡大についてですが、これも先生がおっしゃっていたように、私、進めるべきだと思うんですね。ただ、それももっと根本的に、今の年金法といいますのは、今回の法案も例えば五百人未満でも労使の合意があればというふうになっていますけれども、例えば五百人未満の企業、あるいは大企業でも、労働者側にそういう強い交渉力が経営者に対してあるのかなという疑念が私、あります。経営者に駄目だよと言われてしまうと入れないわけですよね。いや、そうではなくて、使用者の義務として、給与を払う以上、あなたを使う、労働力をもらう以上、その給与に応じて、有無を言わさずそれは厚生年金適用すべきであると私は思います。
 そうしますと、今の厚生年金の仕組みですと、例えば私を厚生年金の被保険者とするためには、私の勤務先が私に関して被用者届、被保険者届を出してくれないと私は被保険者になれないわけです。それは、事業主が私を常用的な雇用とみなして初めて被保険者届を出してくれるわけですけれども、そうすると、事業者のさじ加減に非常に懸かってしまっていますし、でも、働き方改革と言われている中で、いろんなところで働いてみたり給与をもらったりしてくる中で、必ずしも常用的な雇用関係を一社と結んでいなくても、複数社と結んでいたり期間限定で働いてみたりというふうに働き方が多様化する中で、今の仕組みではそういった働き方に対応できないと思うんですね。
 ですから、企業があなたを常用雇用関係にありますよとみなして初めて被保険者になれるのではなくて、私が企業に労働力を提供していれば必ず被保険者になれるような仕組みにこれはやっぱり改めていくべきかなと思います。
 そのほか、今回の法案の中での国民年金の保険料免除は私も非常に賛成していますし、日本年金機構が今規律正しく回復期に向かっている中で、遊休不動産があればそれを国庫返納するというのも非常にいいことだと思いますので、そのほか詳しく申し上げませんでしたけれども、法案も私は非常に賛成しております。
 以上です。

○委員長(羽生田俊君) 西沢参考人、ありがとうございました。
 次に、玉木参考人にお願いいたします。玉木参考人。

○参考人(玉木伸介君) 大妻女子大学短期大学部の玉木でございます。本日は、意見を述べる機会をいただき、誠にありがとうございます。
 御審議中の法案につきましては、私としては賛成でございます。本日は大変貴重な時間をいただいておりますので、法案の多岐にわたる内容のうち、短時間労働者への適用拡大と年金額の改定ルールの見直しについて簡単に申し上げた上で、GPIFの組織及び業務運営の在り方に関する私の考えるところを御説明いたしたく存じます。
 まず、適用拡大ですが、公的年金は国民年金、厚生年金のいずれも保険であり、セーフティーネットであるというところから出発をいたしましょう。
 保険というからには、火災保険における火災、自動車保険における交通事故のような保険事故、保険金支払の原因になる出来事があるはずでございます。公的年金保険は何が保険事故かといえば、障害年金における障害や遺族年金における家族の死亡ももちろん重要ですが、最も多くの国民に関わってくるのは長生きです。公的年金保険は、主に長生きリスク、長生きによって貧困に陥ってしまうリスクに対する保険です。
 長生きした人は生活費が多く要ります。自助努力で平均寿命までは生活は大丈夫と言えるだけの貯蓄をしたとしても、二分の一の確率でそれ以上に長生きしますから、二人に一人は貯蓄が不足します。五人に一人、十人に一人の長生きの可能性を考えたら、どんなに自助努力をしても安心は得られません。だからこそ、保険の出番となります。
 こういう保険を誰が最も必要とするでしょうか。二百歳まで生きても生活には絶対に困らない億万長者には必要ありません。このようなごく一握りの人を除き、誰もがリスクに備える必要があるのではないでしょうか。老後、貯蓄を十分に行うだけの余裕の乏しい人、具体的には賃金、収入の少ない人は非正規の短時間労働者において特に多いでしょう。この方々こそ、なるべく幅広く二階部分の給付を受けられる二号被保険者になって、より多くの安心を手にしていただきたいと思います。
 また、企業においては、非正規だから保険料負担をしなくていいというのはおかしな話です。五百人以下の企業において、なるべく多くのところで労使の合意が成立して、より多くの労働者が先ほど申し上げたようなより多くの安心を手にすることが望ましいと考えます。
 続いて、年金額の改定ルールの見直しの件でございます。
 今回の法案には、例えば物価が下がって、それ以上に賃金が下がるときに、賃金を基準に年金額を改定する、つまり下げるという高齢者にも現役世代と同様に我慢していただくという考え方が盛り込まれています。
 今、我が国は少子高齢化もあって、経済成長の基調的な力が落ちています。これを高めるべく様々な取組がなされています。こうした取組が功を奏するならば、近年のような湿っぽい経済から脱却できます。そうすれば、年金財政にも、年金で支えられる高齢者の生活にも良い影響が及びます。これこそ我々が目指すべきものです。
 しかし、非常に長期にわたって運営される年金制度では、自然災害も含め、日本経済に及ぶ様々なショックのリスクに備えておく必要があります。つまり、全天候型のルールを用意しておく必要があるということです。
 私は短大の教員ですから、これから二十歳になって被保険者になる学生と日常的に接しています。彼女らは間もなく勤労し、保険料を払うようになり、かなり遠い将来に高齢者になる将来世代です。今日の午後か来週の授業では、一年生、すなわち十八歳か十九歳の学生に対して、社会保険の仕組みを説明しようと思っているのですが、特に年金につきましては、彼女らが給付を受けるのは半世紀先のことでございますので、説明を丁寧にしなければと思っております。
 先ほど将来世代という言葉を私は使いましたけれども、学生たちに説明するに当たっては、私のような間もなく支給開始年齢に到達する者の視点ばかりでなく、これから勤労して私たちの世代の引退後の生活を支えてくれる学生たち、将来世代に属する若者たちの視点も意識しなければと思います。
 彼女らは二十歳で働き始め、額面十七万円、十八万円の月給から奨学金を返済しつつ、一万円以上の厚生年金保険料を払うことになります。大変な金額です。このお金の持つ意味、公的年金保険制度の意味について、私から、これは世代間の助け合いなんだよ、日本経済がどんどん成長すれば君たちの給料も上がるし高齢者の給付も増える、他方、万が一日本経済が堅調でない場合には、高齢者を含めて全ての世代でひとしく受け止める、そういう仕組みなんだよと言えるのであれば、学生も納得しやすいでしょう。社会全体で、いいことも悪いこともフェアに受け止める仕組みであって初めて、若者たちの公的年金保険制度への信認、それも素朴な信認を確保できるのではないでしょうか。
 全ての世代が豊かに暮らすには、労働生産性の向上や引退年齢の引上げなど、基調的な成長率、すなわち潜在成長率の上昇につながる変革が不可欠です。そのための努力を従来にも増して推し進めねばなりません。この点はあえて繰り返します。
 この努力と並行して、万一に備えて世代間で分かち合う、そういう仕組みがあらかじめ整っている方が若者の公的年金保険制度への信頼が高まり、ひいては高齢者の命綱である公的年金の持続可能性も高まるのではないでしょうか。
 マクロ経済スライドは、賦課方式の制度の持続可能性を高める機能を有しています。この法案の成立によって、キャリーオーバー分の調整を実施し、マクロ経済スライドの機能発揮の場をなるべく広くしていただくとともに、名目賃金が下がって、実質賃金も下がっている局面では賃金変動に合わせて年金額を改定することとして、将来世代の年金水準を確保していただきたいと思います。
 学生たちに接していて私が思いますことは、世の中の仕組みには参加する意思がある人たちが多いということでございます。こういう若者たちに世代間の連帯の輪の中にきちんと納得して入ってもらえるような仕組みを構築することが間もなく支給開始年齢に達する私のような世代の者の責務ではないかと思います。
 次いで、GPIFの組織等の見直しについて意見を述べます。
 第二次安倍内閣になって以降、GPIFについては株式運用のウエートを高めたことに注目が集まりがちですが、組織的な面でも改革が進んでいます。さらに、今回の経営委員会を導入する等の改革が進めば器の整備が一段と進むと思います。
 今の理事長による独任制は、年金福祉事業団からGPIFが生まれた後、特殊法人改革の流れの中で独立行政法人という組織形態を選択したからそうなっているのであって、GPIFの業務の特徴に最も適合しているのが独任制であるからそうなっているということでは必ずしもないだろうと思います。今の運用委員会は諮問機関ですが、経営委員会が合議による決定機関として機能するというのはごく自然な道と言えましょう。
 その上での話ですが、GPIFによる積立金運用が国民の信認を得るには幾つかの留意点がございます。その最たるものは、国民にGPIFの運用が長期的な運用であることをよく御理解いただくこと、そのために、あらゆる機会を捉えて国民に繰り返ししつこいくらいに訴えていくこと、そういうことではないかと思います。
 GPIFが四半期ごとに運用状況を公表すると、メディアは大きく取り上げます。損失が出たときは特にそうです。しかし、数十年後の年金給付原資の確保の観点からは、四半期ベースのリターンの変動はほぼ無意味です。より大事なことは、十年単位あるいはそれ以上の長期の平均的なリターンの確保です。今年度は、第一・四半期がマイナス五・二兆円、第二・四半期がプラス二・四兆円です。第三・四半期は株価上昇と円安で第二・四半期以上のプラスになってもおかしくありません。
 このように大きく振れてはいますが、第一・四半期のGPIFが怠け者であったりスキルが低かったりしたからマイナスになったのではなく、第二・四半期のGPIFが立派であったからプラスになったのでもありません。
 GPIFは、最近、四半期の運用状況の公表資料において、当該四半期の数字のほかに長期の数字、例えば二〇〇一年の市場運用開始以降の累積の収益額、こういったものでございますが、これらを並べて出しております。そうやって国民の理解を求めているわけでございますが、こうしたものは小さなアクションではありますけれども、積み重ねとして大変大事ではないかと思います。
 もう一つ、株式のインハウス運用が一時話題になりました。今GPIFは、株式運用は全て外部の運用機関に委託しています。自分では銘柄選択をしませんし、株式の議決権も行使しません。議決権を行使するのは、投資顧問会社等の運用機関です。こういう現在の仕組みに対し、自分で銘柄を選び、株主にもなるインハウス運用をやるべきではないかという意見もあると思います。そのような意見の源は、GPIF自らが株式の取引をすることによって、市場の情報が格段に多く入ってくる、株式運用に関する自らの力量も向上するという認識です。この認識には共感できます。
 実は、私、かつて日本銀行に勤務しておりまして、その仕事の一環として為替の介入実務をやったことがございます。ふだんの日は介入はしませんので、市場の動向は金融機関から間接的に聞くだけでございます。でも、介入した日には自らのアクションに対する市場のリアクションに直接接することとなりますので、市場の動きをよりビビッドにつかむことができました。そういう経験をGPIFが日常的に積んでいくことで運用者としての力量が上がっていくことは容易に想像できることでございます。
 また、株価の変動でリターンが上下することについては、インハウス運用であろうと今までの外部委託運用であろうと同じです。インハウス運用だからといって問題が広がるわけではありません。
 では、株式のインハウス運用をやったらいいのでしょうか。結論から申し上げると、私は相当慎重に対処すべきと思います。インハウス運用をすると、必ず株式の議決権が付いてきてしまいます。株主として企業統治に直接向き合わねばならないのです。例えば、各企業の取締役の人選に直接関与することになります。こういう大変生々しいことに公的年金積立金が関わることについて国民がどう思うのか、経済に関してこの国の形としてどうなのか、こういう点に関して年金制度あるいは社会保障制度の枠を超えた幅広い議論があってしかるべきであります。
 そこで、浮かび上がってくる非常に大きな問題は、株式の議決権は資本主義社会における最も強力なパワーの源でありますので、そのようなパワーを公的機関に持たせるとすれば、パワーが変な使い方をされないよう厳重に管理しなければならないということです。GPIFは運用益の獲得を目的とする巨大な機関投資家でございます。これが政府機関、公的機関として存在しているということ自体、立ち止まってよく考えるべき事柄なのです。
 政府は、様々な規制等に関する権限を持ち、市場経済においてレフェリーあるいはルールメーカーとして機能する、そういう存在です。しかし、機関投資家であるということは、政府機関であるGPIFがプレーヤーであるということでもあります。政府と企業社会との間に何か根本的な不整合は生じないのでしょうか。
 今の日本の制度は、外部の運用機関に議決権行使の判断を含め委託することで、今申し上げました何やら哲学的な問題を回避しています。これはこれでなかなかうまい方法でございます。
 外国ではどうでしょうか。カナダは、GPIFに相当する組織を徹底的に中央政府から独立させて、あたかも民間主体であるかのようにしてしまうという選択をしています。これは一つのソリューションとして国際的な評価も高いところです。
 我が国の独立行政法人という組織形態は、主務大臣が強い権限を持つものであり、政府から独立させるという思想がそもそもありません。では、独立行政法人ではない、政府から遠く離れたカナダのような仕組みは可能でしょうか。カナダでは、独立性を、実は権限を中央の連邦政府と各州の政府に分散することで確保しています。国のつくりが高度に分権的なカナダならではのやり方でございます。このやり方は日本では難しいと思います。
 この辺りの議論は、日本ではまだまだ生煮えです。今回の法案提出に先立つ社会保障審議会年金部会の議論でも、議論し切っていないポイントがあるという認識が共有されていたのではないでしょうか。この法案の附則には三年後の見直し規定がございます。この見直しに向けた議論は、結論はどうあれ、是非幅広い観点から精力的に行っていただきたいと思います。
 最後に、今後のGPIFに関する私の希望を一つ申し上げます。それは、GPIFには、是非、高度な調査研究を踏まえて公的年金積立金にふさわしい運用を実現してほしいということです。
 GPIFが取り組んでいる長期的な観点からの運用の手法は、常時変化、進化しつつあります。ということは、出来合いの正解はない、常に国際的にも最先端の調査研究を突き詰め、実務に落とし込む試行錯誤を繰り返さねばならないということです。
 GPIFに求められる調査研究とは、決して今年度末の株価や為替相場を当てるためのものではありません。金融をめぐる様々な技術、例えばフィンテックは、細かく見ていけば日々進化しています。リーマン・ショックの直後で、金融機関に対する規制、監督の実際の在り方、あるいはその基本思想は様変わりです。GPIFが追い求めるべき長期的な観点からの安全かつ確実な運用の具体像は変化していきます。各国の年金相当の機関投資家、特に長期的な運用を責務とする機関投資家は同じような課題に直面しています。この問題の克服に向けて膨大な知的エネルギーが注がれています。この流れにGPIFが取り残される姿は見たくありません。
 GPIFが国民の期待に応えるためには十分な人材がGPIFの中に確保されることが必要でありますが、それだけでは不十分です。組織の文化として実務を見据えつつ高度な調査研究を蓄積していく、そういう努力を大事にしてほしいと思います。
 以上、私の意見と希望を申し上げました。
 御清聴、誠にありがとうございました。

○委員長(羽生田俊君) 玉木参考人、ありがとうございました。
 次に、茶谷参考人にお願いいたします。茶谷参考人。

○参考人(茶谷寛信君) 今日はお招きいただきましてありがとうございます。
 私は、全日本年金者組合中央執行委員会副委員長の茶谷寛信と申します。昭和十一年二月生まれですので、小学生時代には予科練に憧れました。中学校時代は、今度はがらりと変わりまして野球の選手に憧れたものであります。そういう世代であります。もう八十歳ですから平均寿命にほぼ達しておりまして、これからどれだけと思っておりますけれども。
 現在、年金者組合が中心になって行っております年金引下げ違憲訴訟の原告の一人としても参加しております。原告になったおかげで政府のかなり詳しい回答もいただけましたし、基礎年金の在り方についても、具体的に六万五千円の内容は何を指しているかということも分かりました。一例を申し上げますと、この中には医療費とか教養娯楽費、交通費は入っておりません。ですから、私は、基礎年金は本当に基礎的な部分を保障するだけで、不十分だというふうに考えております。
 続きまして、全日本年金者組合については、既に前回、加納参考人が申し上げましたけれども、独りぼっちの高齢者をなくす、支え合って生きがいを求めるということと、憲法二十五条に保障された文化的で最低限度の生活ができる社会保障、わけても最低保障年金制度の確立を求めて自主的に活動している団体でございます。
 私たちは、現在出されている公的年金制度の持続可能性の向上を図るための国民年金法の一部改正する法律案に強い懸念を持っています。厚生労働省の説明文書である、三、年金改定ルールの見直し、(1)がキャリーオーバー制度の導入ということですが、(2)、物価変動より賃金動向を優先する制度について特に申し上げたいと思いますし、この点については反対の立場でございます。
 理由を申し上げます。
 まず第一は、将来の年金水準が全く不明確で、制度を維持するということは強調されておりますけれども、私は、制度を維持することも大事であるけれども、生活の維持が可能であるかどうかの方がより重要なことだと思います。制度が維持されても、本当に少ない年金になってしまって生活の維持ができないのであれば、制度の持つ意味が非常に薄くなるわけであります。そういう意味で、生活の維持を中心に御審議をお願いしたいと思います。
 内容を検討しますと、マクロ経済スライドを早く実施したいという制度だけが明らかになっているだけで、この制度が実施されて、若い人も高齢者も安心の年金制度とは到底考えられません。持続可能性が高められると説明されていますが、むしろ憲法第二十五条に言う文化的な最低限度の生活から懸け離れた制度になっていくことが目に見えていると思います。
 今でさえ、若い人が懸念しています。僕たちの世代には年金がもらえるの、もらえないのではないかという不信を私は増幅することになり、年金不信は高まるばかりではないでしょうか。
 次が、実質的価値の維持。先ほども言及ありましたけれども、最低の憲法上の私は要請だと思います。
 平成十六年の年金改定でマクロ経済スライドが導入された後、年金制度をはじめとする社会保障制度改革に関する両院合同会議が設置されております。その第一回、平成十七年四月十四日の会議で、一番初めに自由民主党の丹羽雄哉議員は、現に年金を受給している高齢者の方についても、今後とも現在の年金給付額が下がることはありませんが、若年者の負担増を抑えるために今後は緩やかな伸び率に抑えていくことになりますと述べられております。
 高齢者の生活は苦しい、景気が悪くなるとして国会で全会一致で議決された一・七%の特例水準は、このときには既にありました。丹羽議員の発言は、これらを含めて、年金を下げるときには引上げが行われるときに抑制するという最低の保障を述べたものと理解できます。
 しかし、現実は、平成十六年改定により現職労働者の保険料は予定どおり値上げされていますけれども、受給者の年金受給額は国民年金だけでも月額六万六千八円から六万五千八円に引き下げられております。理由は、平成二十四年法、閣法二十六号でありますが、実質的価値の維持、名目下限措置と言ってもいいと思いますが、破って引き下げられたことによります。
 今回の法案もこの措置を維持すると説明されていましたけれども、過日の審議でこれが不可能なことが明らかにされています。最低のルールを守るべく、もっと実質的で合理的な具体的な議論をして、国民の誰もが納得するまで議論を希望したいと思います。
 次に、公的年金制度のスライド制の問題でありますが、私は公的年金制度にはスライド制が命だと考えております。
 公的年金制度の信頼性について意見を述べますと、それは物価スライド制があることであると思います。なぜ物価スライド制が維持できるのか。それは、賦課方式を基本としていることとともに、財源確保に被保険者の保険料、私は拠出金と呼ぶといいと思いますが、及び企業が負担する保険料、これは出資金と言った方がいいと思います、と賃金、勤労所得、利潤に課せられた租税、これは所得の再配分のためにあるわけですが、この三つが組み合わさっているからだと思います。この方式を過去、現在、将来にわたって審議していただきたいと思います。
 貧困と格差が異常に進んでいる実態は、若い人も高齢者も同様です。十年ほど前には日本は低負担と低福祉と言われて、それはヨーロッパ諸国に比べて消費税が低いからだと言われました。しかし、今ではそういう声はだんだん聞かれなくなっております。それは、社会保障財源に占める消費税の率が今や世界一になっているからではないでしょうか。年間税収も、現在では消費税が所得税や法人税を超えてトップになっております。
 そこで、現在では、現職や若い人の負担が重くなるということが強調されています。年金は仕送りであるという議論、これは裁判でも、政府の回答に載っております。世代を三つに分けて、世代ごとに人口を比較して、働いている世代数とその上に乗っている高齢者数を映し出して、こんなに働いている人たちは大変なんだというのは余りにも一方的で単純な議論だと思います。公的年金制度が持っている社会的、経済的な重要な意味をもっと重層的に議論していただきたいと思います。
 私は、年金は所得の再配分であるべきと思います。労使が拠出する保険料を通じての再配分と租税を通じての再配分が応能負担で行われるべきであると思います。社会の状況が変われば、この三つの組合せも再検討されてしかるべきと思います。
 その一つとして、保険料についての再配分の強化については、二〇一四年、ちょっと西暦が来てしまいましたけれども、十月十五日の第二十六回社会保障審議会年金部会で厚生労働省年金課長が、保険料賦課に関しては上限は必ずしも必要ない、イギリスやフランス、スウェーデンに関しては青天井である、給付をある程度調整する手法が国際的にはございますと発言されております。これは要約でありますけれども、保険料を通じての再配分が国際的に見て不十分との指摘であると思います。
 次に、基礎年金の国庫負担分を全受給者に支給してほしいという対案をお話ししたいと思います。
 十一月二十九日の衆議院で採決された年金法案に対して、マスコミ各紙は、世論は法案の成立に反対が賛成を大きく上回っているとしながらも、対案が不十分との指摘をしています。同時に、税による最低保障を考える時期に来ているのではないかという指摘もあります。私ども年金者組合は、現在、八万円の一般財源による最低保障年金制度を創設し、拠出制年金制度との二つの制度を組み合わせて、老後の安心の年金制度を提案しております。今回の最低保障年金の議論も必要ではないかとする一部マスコミの指摘には賛成であり、今後、最低保障年金制度の提案が各界、各政党から出されることを期待したいと思います。
 年金者組合の提案は、最低保障年金制度を創設するときに、初めから八万円が、月額ですね、望ましいものとするものの、当初は現在の国民年金、以下基礎年金と申し上げますが、の二分の一である三万三千円、実はこの問題を提起したときは六万六千円でありましたので、国庫負担が三万三千円というわけでありますが、高齢者に保障する案です。
 今国会で、受給資格者、保険料納付期間が二十五年から十年に短縮されました。これに伴い、十年の受給資格者は来年九月分から約一万六千円が支給されます。これに満額の一般財源を加えると、先ほど提案したのを加えると約四万一千円になります。受給資格のない人は三万三千円になりますから、受給資格のある人は四万一千円ということが最低保障ということになります。無償労働者が担う割合が多い女性は、低年金も多くいます。したがって、女性により多くの年金額の底上げが行われることになります。また、実施されていませんが、年金生活者支援給付金の支給に関する法律の内容より金額も多く、高齢者個人が平等に利益を得ることになります。財源も約三兆円もあれば可能と思われます。
 現在、年金の支給を隔月から毎月とすることが検討されていると聞いておりますが、この早期実施と、三万三千円を全ての高齢者に支給することを検討していただきたいと思います。
 本院で審議中の国民年金法等一部改正案を撤回し、私どもの提案する最低保障年金制度を実現する案に切り替えていただきたいことを重ねてお願いして、発言を終わりたいと思います。
 どうも御清聴ありがとうございました。


議事録を読む(参考人質疑)
○倉林明子君 日本共産党の倉林明子でございます。
 今日は、四人の参考人の皆さんに貴重な御意見聞かせていただきまして、ありがとうございます。
 最初に、茶谷参考人にお聞きしたいと思うんです。
 年金が減らされ続けているということに抗議して、全日本年金者組合の皆さんが年金引下げの取消しを求めて提訴されている、たくさんの方が提訴されているというふうに伺っているわけですが、暮らしも本当に大変だという中で提訴に至るというのは大変な思いがあった、実態があったと思うわけですね。その実態を是非伝えていただきたい、御紹介いただきたいとまず思います。

○参考人(茶谷寛信君) 私どものこの裁判に至った経過は、一・七%の特例水準、これが二・五になっていたわけですけれども、十年以上たってからこれを突然、年金が上がるときに少なくともこれを解消していくということになっていたにもかかわらず、強引にこれを引き下げると、こういうことが分かってきましたので、これはもう我慢がならないということで不服審査請求を始めたんですね。
 なかなか年金者組合、十一万人いますけれども、いろいろな方がいますから、不服審査請求にそろって参加することはできませんけれども、やってみたら年金者組合以外の方もどんどん参加されて、十二万人を超える人が不服審査に応じていただきました。
 だから、その結果、結局、審査会は何の回答もなく、不服審査に不適当だということで簡単に却下されたものですから、これはいけないということで、やはり裁判にこの際訴えようと。裁判には大変お金掛かります、正直言って、日本の裁判は。それで、大変だと思いましたけれども、やっぱり代表でやると、今四千五百人がこれに応じていただきまして、この中にはもちろん組合員でない方も入ってみえますけれども、そういう順序があるわけでございます。ですから、私どもは、その十二万人を超える不服審査の方とともに現在裁判を闘っております。
 この苦労は並大抵ではありませんで、不服審査のときには、訴えに回った滋賀県の年金者組合の書記長は、雪の中で行き倒れになって命を失うという事件も起きました。
 そういう苦労を重ねた上の裁判でございまして、どうか皆様方には、この裁判の始まった理由も、この結果にも注視をしていただきたいし、現在答弁書が政府から出ていますので、これは誰でも見ることできますから、是非この内容も御理解いただきたいと思います。
 以上でございます。

○倉林明子君 ありがとうございます。
 生活者が本当に立ち上がらざるを得なかったという年金引下げの実態があったかというふうに思います。
 もう一点は、GPIFに関わって、玉木参考人の方から、インハウス運用についていかに慎重であるべきかというところで分かりやすく御所見をお聞かせいただいたなということで、是非参考にさせていただきたいと思うんですが、質問は西沢参考人にお願いしたいと思いまして、株式運用について、ポートフォリオの見直しで拡大したということに対していろんな国民的な不安が広がっているということはあると思うんです。ただ、西沢参考人にお聞きしたいなと思うのは、積立金の運用で損失が出た場合について、制度設計必要じゃないかという指摘がされているところを読ませていただいたんですね。今日、御意見の中では御紹介がなかったので、そこを補足的に是非教えていただきたいと思います。

○参考人(西沢和彦君) 積立金の運用で損失が発生した場合に、今の年金の仕組みですとマクロ経済スライドの長期化を通じて解消するしかないんですね。それは結局、三十年後、四十年後の将来世代に今の損失のツケが回ることになります。
 ですから、今の年金財政の財政検証ですと、例えば四・数%の名目運用利回りを想定していますので、そこに到達しなかった年度についてはその分を早期に解消していく。例えば、カナダのように保険料率を少し上げる、給付を下げるといった形で、今の投資の意思決定をしている世代で下げるという仕組みを入れた下で長期運用するべきであると思うんですけど、今の仕組みはそうなっていなくて、長期運用に対応性がないということだというふうに思っています。

○倉林明子君 長期運用で損失が出るリスクもあるんだけれども、それにどう対応していくかという仕組みが現状ではないということの指摘は大変重要な点だなというふうに改めて思いました。
 そこで、最後、山崎参考人にお伺いしたいと思うんですね。マクロ経済スライドというこのルールを運用していくと、やっぱり基礎年金が傷んでいくんだ、このルールの見直しでもそこが大きな論点として議論になったということはよく分かりました。この基礎年金をどうやって底上げしていくかというのは、一つ年金だけで解決していく、今の制度の枠内で解決していくということにはもう相当限界になっているんだろうという認識は共有していると思うんです。
 お聞きしたいと思うのは、今回、その基礎年金部分の傷みが大きいということで、福祉的な考え方で、福祉的給付金ということで年額六万円を入れるという措置をとることとなっているわけで、後になりますけれども入れるということになっています。この福祉的な給付金、底上げの部分なんだけれども、実はもう年金の保険料納付期間に応じた、ここにも差が出てくるということに対して、やっぱり底上げという場合には定額での底上げ必要だったんじゃないかという思いも持っているんですが、それについてはどのようにお考えでしょうか。

○参考人(山崎泰彦君) 二点あったかと思うんです。
 要するに、今の枠組みでは解決できないということについて、私は解決できると思っております。昔、昭和二十五年の社会保障制度審議会の勧告がバイブルのように学者の間ではなっているんですが、大内兵衛先生が冒頭で、時代はそれぞれ問題を持つけれども、同時に解決策があるんだということを言っておられるんです。ですから、今の制度の枠組みの中で解決策を探るとすれば、まさにオプション試算で示したような方向でございます。
 つまり、例えば千二百万人、厚生年金の適用拡大をするだとか、あるいは拠出期間を六十五歳まで延ばすだとかということを同時にすれば、マクロ経済スライドは要らなくなるんです。ですから、それが建設的な議論だというふうに思います。いかがでしょうか。まさにそれは、でも政治がやってくれなければいけないんです。政治ということであれば、かつて三党合意で進めたような、一定の痛みは求めつつも、将来に向かって財源も確保できる手だてを講じたわけですから、同じような政治体制を実現してほしいというふうに私は思っております。
 それから、今の年金生活者支援給付金の問題について指摘されたわけですが、私は、社会保険という仕組みを基本にする以上、やはり拠出した人と、国民年金の場合は免除の機会もあるわけですから、そうでない人、滞納した人との間はやはり厳然と差を設けないと拠出意欲を確保できないというふうに思います。厳しい意見ですが、そのように思っております。

○倉林明子君 いろいろ御意見をいただきまして、ありがとうございました。積極的に対案も示しながら論戦に臨んでいきたいと思います。
 ありがとうございます。



~12:18 山崎参考人陳述 / ~26:28 西沢参考人陳述 / ~41:11 玉木参考人陳述 / ~53:04 茶谷参考人陳述