水道法改定案参考人質疑 “民間運営”に反対次々(2018/11/29 厚生労働委員会)
自治体が担う水道事業の民営化や広域化を狙う水道法改定案について、参院厚生労働委員会は29日、参考人質疑を行いました。参考人の研究者や労働者は、同法案が推進する、水道事業の運営権を民間企業に売却する「コンセッション方式」の危険性を指摘し、反対を表明しました。
水ジャーナリスト・橋本淳司氏は、海外では民営化した水道事業を、企業の業務内容と金の流れが不明瞭であることを理由に再公営化する動きが広がっていることを紹介しました。「コンセッション方式」では管理監督責任は自治体に残るものの、職員減などで自治体はその責任を果たす能力が乏しいとも強調し、法案から同方式を除くよう求めました。
全日本水道労働組合の二階堂健男委員長は、同方式での災害対応の責任について「(政府から)明確な説明がなされていない」と指摘。同方式では雇用環境が悪化し、安全性を揺るがす事態を招きかねないと強い危惧を示しました。
日本共産党の倉林明子議員は、フランス・パリ市が再公営化後に水道料金の8%値下げを実現したことにふれて、その理由を質問。橋本氏は、組織最適化の実施や株主配当・役員報酬の支払いが不要になったことを理由にあげて、「民営化だからコストダウンをはかれるということではなく、公のままでもやる気さえあればできる」と語りました。
○倉林明子君 日本共産党の倉林明子でございます。
今日は参考人の皆さんの御意見、本当にありがとうございます。
そこで、私の方からは、まず二階堂参考人にお伺いしたいと思います。住民の命と、命の水を現場で支えていただいている職員の皆さんに、まず感謝申し上げたいというふうに思います。
今年も、大阪府の北部地震、御紹介もあった七月の豪雨ということで、非常に災害も大規模な断水ということでも発生いたしました。大阪府北部地震の際はあれだけ大規模だったんだけれども、二日間で復旧したというのは本当にすごいことだったなというふうにも思っておりまして、先ほど来、少しお話も出ていましたけれども、こういう大規模災害時の復旧支援体制、水道協会を軸にした復旧体制、支援体制の組み方というか、リアルにちょっと御紹介をいただければなと思いますのと、これがコンセッション方式になった場合に、どんな懸念、課題が出てくるのかというところを具体的に御紹介いただけますでしょうか。
○参考人(二階堂健男君) 一つは、支援対策ということでの委員からの御質問でございました。
先ほど石井先生からも触れられましたけれども、厚生労働省、そして所管をする日本水道協会が全国横断的に支部を構えていまして、その支部を中心にいわゆる災害支援体制が組まれております。したがいまして、大きな災害ではなく小規模な災害であればその地方支部の中で互いに融通し合いながら支援体制を確立をすると。ただし、東日本大震災あるいは熊本地震などにおいては、到底その地域、地方支部だけでは復旧体制整いませんから、したがいまして大規模都市を中心に支援に当たると、そんなようなことで、基本的には水道協会がその窓口になっているというのが事実でございます。
その上で、二つ目の、いわゆるコンセッションで何が問題なのかと、あるいは、私が申し上げたいのは、公共がなぜ災害に関わったときに強いのかと、こういう視点でお話をさせていただきますけれども、先ほども意見の陳述の中で申し上げましたけれども、実は、災害というと、給水車で水を給水するだけが災害支援ではございません。日本の水道技術は災害時においても、例えば水道管が破裂をしました、水道管を直します、その直し方や、私たちは水張りという、水運用という言い方をしますけれども、その水運用の仕方一つを取っても、これはシステムじゃどうにもなりません。
現行のシステムでは、大規模ではもう既に日本の水道事業は外国に負けないだけのシステムを構築しています。一例を挙げますと、一つのパソコンの画面にどこどこ町のどこで破裂をしましたというふうに入れます。すると、瞬時にその近隣のバルブが、どこを締めればいいかというふうに表示されます。しかし、それでも、そのバルブを締めればその断水工事やあるいは漏水修理が終わるわけではございません。そこには、現場に働く労働者の知識やあるいは経験によって、水は必ずしも左から右に流れるわけではございません。圧力の高いところから低いところ、あるいは水系が違う、県から用水供給を受けている、自前の水源を持っているところ、それぞれが非常に極めて複雑に絡み合った給水システムをつくっているわけでございます。
したがいまして、そういった経験を基に災害復旧に当たる、極めて効率的で、なおかつ一日も早い、一時間も早い復旧が成り立っているという意味で、コンセッションではできないというふうに申し上げたいと思います。
○倉林明子君 ありがとうございます。
職員が大幅に削減される中でのそういうシステムをしっかり維持しているということでいうと、かなり厳しい実態もあるんだということでお聞きをしておりましたので、公の役割ということで強調していただきまして、ありがとうございます。
さらに、二階堂参考人にもう一点だけ簡潔に教えていただきたいんですが、十月に出された決議の中でも触れておられた、コンセッションで外資が参入すると。これに対して、ISDS条項が問題も出てくるという指摘があるわけですが、どんな問題を懸念されているか。どうでしょう。
○参考人(二階堂健男君) まず、基本的に一つ言えることは、コンセッションで本当に効率化できるのか、そこの一番大きな問題は料金なんですね。料金なんです。その料金のシステムは、先日の委員会の中でも水道法十四条の二項追加になったということで議論になっておりましたけれども、水道法における総括原価主義については企業の利益は入っていません。そうしたことがコンセッションの中に盛り込まれていくということは、これは市民にツケが回ると、こういうことだというふうに思っています。
○倉林明子君 橋本参考人にお伺いしたいと思います。
海外での民営化ということでいろいろ御紹介があるんだけれども、一旦民営化した場合、再公営化、戻すのは物すごく大変だというお話を伺っているんですが、具体的な事例を含めて、なぜ難しいのかという辺りを御教示願いたいと思います。
○参考人(橋本淳司君) まずは、厳密な契約に基づいてコンセッション契約がなされているということですね。
海外で、例えばベルリンのケースがありますけれども、ベルリンは水道料金が上がるということに直面したときに、ベルリン市側は上げないでほしいということを企業に要望しました。しかし、企業は、今の水道事業をやっていくには上げざるを得ないということを言っておったわけですね。それで、それならば公に戻すということを決めたわけですけれども、実際には契約の期間というものがありますから、そこで契約を打ち切るということになりますよね。それで、当然ながらというか、違約金というものが発生しまして、その金額は日本円にすると十六億円程度というふうに言われております。
また、この違約金の支払というものがあるために、再公営化したくてもできないというケースもたくさんあります。例えばブルガリアのソフィアです。ソフィアでも再公営化の決議が行われたんですけれども、そのためには違約金を支払わなくてはいけないということで、現在でも民営化された、まあコンセッションなんですけど、コンセッションのままが継続されているということです。
以上です。
○倉林明子君 パリの話は大変有名なんですけれども、このパリ市で既に再公営化されたことで利益が上がって八%の料金値下げが実現できたんだという御紹介もされております。それはなぜそういうことが可能になったのか、お願いします。
○参考人(橋本淳司君) やっぱり民営化か公営化かというよりも、実は、公営であっても水道事業のリストラというか再構築みたいなことはできたというケースだと思います。
実際に、今委員が御指摘のとおり、二〇一〇年に再公営化されまして二〇一一年に水道料金が下がっている、八%下がっているということなんですけれども、その理由としては、まず組織の簡略化と最適化が実行できたということと、それから株主配当や役員報酬の支払が不要になったこと、そして、収益の、親会社への還元する必要がなくなったこと、この後ろ二つはコンセッションではなくて自前でできたということなんですけれども、前は組織の簡略化、最適化ということで、実際にはIT技術などを駆使して組織を、コストダウンを図っていったわけですね。
つまり、民営化するからコストダウンが図れるよということではなくて、公のままでもやる気さえあればというか、頑張ればそういう持続可能な水道事業というものはできるんだということだと思います。
○倉林明子君 勇気の出る御助言ありがとうございました。
ちょっと時間があれば聞きたかったんですけれども、橋本参考人から御紹介がありましたエネルギー使用量の問題で、効率化の手法として小水源を使っていくという考え方については参考になりましたということでお伝えして、終わりたいと思います。