水道法改定案が可決 倉林議員が反対討論(2018/12/5 本会議)
地方自治体の水道事業の広域化や運営権の民間企業への売却(コンセッション方式)を推進する水道法改定案が5日の参院本会議で、自民、公明、維新などの賛成多数で可決され、衆院に送られました。
日本共産党、立憲民主党、国民民主党、参院会派「希望の会(自由・社民)」が反対。共産党の倉林明子議員が反対討論に立ちました。
倉林氏は、コンセッション方式は民営化にほかならないとして、水道民営化の失敗と再公営化が進む世界の動きから教訓を学ぶべきだと主張しました。
厚労省が検討した海外の事例はわずか10件にとどまり、内容も10年前のもので、調査当時民営化を進めていた事業も再公営化が進んでいます。倉林氏は「再公営化の事態をまともに検証していない」と批判しました。
さらに、地方自治体が再公営化を決断しても、多額の違約金や訴訟リスクがのしかかるとして、ドイツ・ベルリン市では民間企業が水道料金値上げ中止の要請に応じないため再公営化し多額の違約金が生じた事例などを紹介し、「民営化で担保されるのは企業の利益だ。公共インフラの民間開放ありきでコンセッション方式を導入するなど到底認められない」と強調しました。
倉林氏は、広域水道の押し付け、簡易水道など各地の自己水源の廃止につながる危険を指摘。老朽化対策や耐震化、人材不足の解決のため、過大な需要を見込んだダム開発の中止と人員確保、必要な財政支援を求めました。
○倉林明子君 日本共産党の倉林明子です。
私は、日本共産党を代表して、水道法改正案に反対の討論を行います。
水道事業は、日本国憲法が保障する生存権を具現化するものとして、地方公営企業法と相まって、公共の福祉の増進が目的とされてきました。
しかし、国策による過剰な水需要を見込んだダム建設など、過大な投資が水道事業の経営を大きく圧迫しています。赤字であっても、独立採算制により、一般会計からの繰入れも原則できません。必要な老朽管の更新や耐震化も進まない実態が全国で広がりました。
本法案は、こうした深刻な水道事業の現状を解決するどころか、清浄にして豊富低廉な水の供給を図り、もって公衆衛生の向上と生活環境の改善に寄与すると定めた水道法第一条の目的を損なう危険が極めて高い内容となっています。
反対する第一の理由は、水道事業に関し、施設の所有権を自治体に残しながらも、運営権を民間に移すコンセッション方式を導入しようとしている点です。これは水道の民営化にほかなりません。
世界では、水道民営化の失敗から、再公営化の動きが加速しています。ところが、法案提出に当たって厚労省が検証した海外の事例は僅か十件にとどまり、その内容も十年も前の古い資料の調査結果であることが明らかになりました。
当時の再公営化水道事業者は全体の四分の一になっているにもかかわらず、そこから導き出された結論は、官民連携が単純に失敗と判断を下すことはできないというものでした。
直近、二〇〇〇年から十五年間を見ますと、水道事業を再公営化した水道事業は、三十七か国、二百三十五事業にも上っています。
調査時点で民営化事業が少なくなかったイギリスでは、現在、水道の再公営化の方針が国民に支持され、PFI法による新規事業は行わないことを決めています。
調査時点では民営化の方針を決めていたインドネシアでは、民営化したジャカルタ水道で料金の高騰、水質の悪化などが問題になる中、市民が提訴し、二〇一七年には最高裁で勝訴が確定しています。インドネシア最高裁は、水道の民営化は住民の水に対する人権を守ることに失敗したと断じたのです。
これらの事例を見れば、法案提出に当たって、直近の再公営化の事態をまともに検証していなかったことは明らかです。
政府は、水道施設の所有は自治体であり、厚生労働大臣が実施方針や契約を確認するため、監視は可能だと繰り返し答弁しました。しかし、海外の事例では、企業秘密が情報公開の壁となり、利益や株主配当など経営の詳細を公的機関がつかめなかったことも民営化破綻の要因となっているのです。
コンセッション方式では、民間企業との長期契約を結ぶことになり、契約途中で地方自治体が再び公営に戻す決断をしたとしても、多額の違約金や訴訟リスクが地方自治体に重くのしかかります。実際に、ドイツ・ベルリン市では、民営化した後、料金値上げという事態に直面し、民間企業に料金値上げをやめるよう要請したものの、民間企業が要請に応じなかったために再公営化を決めました。しかし、契約途中の打切りということで、多額の違約金が発生し、再公営化の大きな障害となりました。ブルガリア・ソフィア市では、再公営化の動きがあったものの、多額の違約金の支払が障害となり、コンセッション契約を続けざるを得ない状況に追い込まれています。
民営化を継続しているところでも、再公営化に戻したくても戻せない実態も見るべきです。民営化で担保されるのは企業の利益であることは余りにも明白ではありませんか。
再公営化したパリ市では、利益を施設整備や水道料金の引下げに還元し、八%もの水道料金引下げを実現しています。
政府は、こうした世界の最前線で起こっている水道民営化の失敗と再公営化から教訓を学ぶべきです。
厚労省は、官民連携の選択肢を広げるものであり、あくまでも導入の可否は自治体が決めると説明してきましたが、要望書を提出した自治体は僅か一件のみで、自治体首長にトップセールスで売り込んでいたのが厚労省だったことも明らかになりました。公共インフラの民間開放ありきでコンセッション方式を導入するなど、到底認められません。
第二の理由は、広域化を推進強化することで、広域水道の押し付け、簡易水道など自己水源の廃止につながる危険があるからです。それはまた、災害対応にも有効な地域分散型水道の否定にもつながります。
これまでも、都道府県が主導して広域化を進め、簡易水道は統合が推進されてきました。基盤が脆弱な簡易水道に対する補助金の期限を切って縮小、廃止するなど、国は簡易水道の統合、廃止を促進してきたのです。
これまで広域化された水道事業では、大都市でも広域水道への依存度が高まり、災害に対する脆弱性が高まっていることが大阪府北部地震の調査を行った土木学会からも指摘されています。地域の自己水源だった簡易水道も統合で廃止される中、過疎地や離島でも、地震や豪雨など、災害時の断水が長期に及んでいる事態が少なくありません。
そもそも、工業団地の造成や人口増加を前提として、過剰な水需要を見込んだダムなどの大規模水源を建設推進してきた政府の責任が問われるものです。自己水源を廃止してまでダム水や工業用水の利用を押し付けることになったのが広域化の大きな問題でした。
さらに、広域化の推進によって深刻な人材不足の問題が解消されるものではありません。水道事業者の六割を超える給水人口五万人未満の事業者では、技術職が一人というところも少なくありません。この最大の要因は、政府が進めてきた行政改革によって自治体が職員削減に追い込まれた結果ではありませんか。新規採用を抑制した結果、退職者が出ても補充されず、人材育成や技術の継承が行えなくなっているのが実態です。全国の水道事業者の人材不足が政府の政策によってつくられてきたことに対する真摯な反省と総括は全くありません。
本法案では、これまで市町村が主体という原則をなくし、経営基盤の強化のために、国及び都道府県が主体となって広域化を含む基盤強化を推進することとしています。
都道府県が設置する広域的連携等推進協議会に参加する市町村は、協議会の協議結果を尊重しなければならなくなり、簡易水道や貴重な自己水源の放棄を更に加速させることになりかねません。良質で安定的な自己水源を確保することは、災害対応にも極めて有効です。自己水源を生かした地域分散型の水道事業への転換を求めるものです。
世界の水道事業の民営化の失敗は、水は人権、自治が基本だということを教えています。国民の貴重な財産である水道インフラは、市町村主体で健全な運営が可能となる道こそ目指すべきです。
現在の水道事業が抱える問題の解決のためには、過大な需要を見込んだダム開発はきっぱり中止し、人員確保、必要な財政支援を行うことこそ必要である、このことを申し上げまして、私の反対討論といたします。