雇用保険法改定案 抜本的な見直しを (2022/3/18 本会議)
日本共産党の倉林明子議員は18日の参院本会議で、雇用保険法改定案について、コロナ禍を踏まえ、雇用保険をセーフティーネットとして機能させるための抜本的な見直しを求めました。
倉林氏は、規制緩和による非正規雇用の増加と「多様な働き方」の広がりにふれた上で、コロナ禍で雇用保険未加入のため給付を受け取れないなど「多くの労働者がセーフティーネットからこぼれおちている」とただしました。
また、現在の国庫負担率「4分の1(25%)」原則を2・5%と大幅に後退させることに対し、「国庫負担は失業が政府の経済政策や雇用政策と密接に関わっており、政府もその責任を果たすべきだ」と追及。後藤茂之厚生労働相はまともに答弁しませんでした。
倉林氏は、労使の保険料負担を引き上げることについて、政府の賃上げ政策に逆行するものだと批判しました。
さらに、職業安定法案について、「インターネットを通じた新しい雇用仲介サービスを規制するものとなっているが不十分だ」と指摘。「求職者が安心して求職活動を行えるようにするためにも、ハローワークの体制強化に取り組むべきだ」と求めました。
雇用保険法等改定案への質問(要旨)は次の通りです。
長引くコロナ禍で多くの労働者が影響を受けています。雇用調整助成金の拡充などで雇用保険の対象にならない労働者も救済されましたが、取り残される労働者も少なくありません。シングルマザーからは「家に食料がない」など悲鳴が上がっています。
雇用保険法は、失業した場合などでの生活・雇用の安定、労働者の福祉増進が目的です。労働法制の規制緩和により、非正規雇用の増加、多様な働き方の促進で低賃金の不安定な働き方が広がっています。雇用保険に加入していないため失業給付を受け取れない、制度の対象にならないなど多くの労働者がこぼれ落ちています。雇用保険をセーフティーネットとして機能させるためにも、抜本的見直しが求められます。
法案は、現在の国庫負担率「4分の1(25%)」原則を見直し、暫定措置2・5%を原則に位置づけ、雇用情勢、雇用保険財政が悪化した場合のみ25%にするものです。国庫負担は、失業が政府の経済・雇用政策と密接にかかわっており、政府もその責任を果たすべきだとの考え方に基づき、国の責任を明確にするものです。雇用情勢などで負担割合を変える必要はありません。
25%適用の基準は、受給者実人員70万人以上などです。過去70万人超はリーマン・ショック時で、完全失業率が5%を超えました。この水準まで25%にならないのではありませんか。
コロナ禍で、雇用調整助成金などの特例実施により、完全失業率が2・6%程度抑制されたと推計されています。雇用維持対策を行えば、「70万人以上」の基準は将来も適用されず、実質的に2・5%に据え置かれます。
労使負担を0・3%へ引き上げます。労働者は月収20万円の場合400円引き上げ、企業には雇用保険2事業の負担もあり500円増額です。コロナ禍で労働者や中小企業に追い打ちをかけるものです。経済低迷の中で保険料を上げるべきではありません。
2003年改正で、基本手当日額が再就職賃金を上回る現象の解消を理由に、日額上限額が引き下げられました。大臣は20年の予算委で上限額引き上げを求めていますが、改めて認識を聞きます。
職業安定法案について聞きます。民間の雇用仲介サービスでのトラブルが相次いでいます。法案はネットを通じた雇用仲介を規制しますが、十分とは言えません。ハローワーク中心に求職者と求人者を支えることが求められており、体制強化に取り組むべきです。
○倉林明子君 日本共産党の倉林明子です。
私は、日本共産党を代表し、雇用保険法等の一部を改正する法律案について厚生労働大臣に質問します。
長引くコロナ禍で非正規雇用を中心に多くの労働者が影響を受けています。雇用調整助成金の拡充や休業支援金の創設などによって、雇用保険の対象にならない労働者も広く救済されました。が、その一方で、救済されずに取り残されている労働者も少なくありません。シングルマザーからは、仕事に行けないことにより収入がなくなり、来月暮らせるかどうかも分からない、家に食料がないなど、悲鳴のような声が上がっています。
雇用保険法の前身である失業保険法では、戦後の激しいインフレにより大量の失業者が出る中で、失業中の生活保障を目的に創設されました。現在の雇用保険法も、労働者が失業した場合などに生活及び雇用の安定を図るとともに、労働者の福祉の増進を図ることを目的としています。しかし、コロナ禍で雇用保険がセーフティーネットとして機能をしていない実態が明らかになりました。
相次ぐ労働法制の規制緩和により、非正規雇用が増加し、多様な働き方の促進によって低賃金の不安定な働き方が広がっています。コロナ禍ではこうした不安定な働き方の労働者が大きな影響を受けていますが、雇用保険に加入していないために失業給付を受け取れなかったり、そもそも制度の対象にならないなど、多くの労働者がセーフティーネットからこぼれ落ちています。大臣にその認識はありますか。
雇用保険をセーフティーネットとして機能させるためにも、コロナ禍を踏まえて、抜本的な見直しが求められています。
本法案は、求職者給付の国庫負担率について、暫定措置である四十分の一、二・五%を原則に位置付けようとしています。現在、国庫負担率は求職者給付に要する費用の四分の一、二五%が原則ですが、この原則そのものを見直し、雇用情勢及び雇用保険財政が悪化した場合のみ二五%、それ以外は二・五%にするものです。そもそも国庫負担は、失業が政府の経済政策や雇用政策と密接に関わっており、政府もその責任を果たすべきという考え方に基づいているのです。国の責任の所在を明確にするもので、時々の状況によって大きくなったり小さくなったりするものではありません。
大臣は、衆議院の議論の中で、負担割合にかかわらず、機動的に国庫からの繰入れを可能とする仕組みを常設化することによって、雇用政策に係る国の責任を果たしていくと答弁しています。そうであるならば、雇用情勢などによって負担割合を変える必要はありません。二・五%を本則に位置付ける理由をお示しください。
二五%が適用される雇用情勢及び雇用保険財政が悪化した場合の基準については、受給者実人員が七十万人以上、かつ弾力倍率が一未満とされています。受給者実人員が七十万人以上というのはどういう水準か。
過去に受給者実人員が七十万人を超えたのは二〇〇九年から二〇一〇年のリーマン・ショック時であり、完全失業率が五%を超える深刻な事態でした。この水準になるまで国庫負担は二五%にならないということではありませんか。お答えください。
また、法案では、負担割合とは別に、国庫から機動的に繰り入れられる規定を新たに創設します。コロナ禍では、一般財源を用いた雇用調整助成金などの特例実施により、完全失業率が二・六%程度抑制されたと推計されています。この規定を用いて雇用維持対策を行えば、受給者実人員七十万人以上という基準は将来にわたって適用されることはなく、実質的に国庫負担率は二・五%に据え置かれることとなります。国の負担は変わらず、労使の保険料だけを上げるということになるのではありませんか。
一方、雇用保険料率の暫定措置を見直し、失業給付の労使負担をそれぞれ〇・一%から〇・三%へ引き上げます。労働者は、育児休業給付の保険料率と合わせて〇・五%の負担となるため、月収二十万の場合、六百円から千円へ四百円の引上げとなります。現在、春闘が行われていますが、賃上げ分が保険料に消えてしまう可能性も否定できないではありませんか。政府の賃上げ政策に逆行するものではないでしょうか。
また、企業にはこれらの負担に加えて雇用保険二事業の保険料負担もあるため、合計で〇・八五%となり、同じく月収二十万円の場合、千二百円から千七百円へ五百円の増額になります。労働者だけでなく、コロナ禍で大きな打撃を受けている中小企業にとっても大きな負担増となります。長引くコロナ禍で何とか耐えてきた労働者や中小企業に追い打ちを掛けるものにほかなりません。経済が低迷する中で、保険料を今上げるべきではありません。いかがですか。
この間、雇用保険財政の安定を理由に国庫負担が引き下げられてきましたが、その背景には給付水準の引下げがあります。
二〇〇三年の法改正で、基本手当日額が再就職した際の賃金を上回る現象を解消することを理由に、基本手当の給付率及び日額上限額が引き下げられ、日額上限も一万円を下回る水準となりました。二〇二一年の基本手当の日額上限は八千二百六十五円で、雇用調整助成金も当初はこの上限に合わせた補償でした。しかし、この金額では生活できないという声に押されて、国際的な動向に合わせて一万五千円に上限が引き上げられました。大臣は、二〇二〇年五月十一日の予算委員会で安倍元総理に対し、生活安定に配慮した水準の休業手当を支給するインセンティブとしては、八千三百三十円では十分でないとして上限額の引上げを求めていますが、そのとおりだと思います。基本手当の日額上限額の引上げについて、改めて大臣の認識をお聞きします。あわせて、給付期間の延長、給付制限期間の短縮を求めるものです。
次に、職業安定法についてお聞きします。
就職の条件として高額な講座を受講させたり、強制労働まがいの仕事をさせられる事例もあります。民間の雇用仲介サービスでのトラブルが相次いでいる下で、公的役割の強化が必要です。
本法案は、インターネットを通じた新しい雇用仲介サービスを規制するものとなっていますが、十分とは言えません。国の機関であるハローワークが中心となって求職者と求人者を支えていくことが求められています。ハローワークでは、求人内容が労働基準法などに違反していないかをチェックし、指導、助言を行います。また、求人、求職の申込みのうち、悪質な労働法令違反を行った企業の求人は受付を拒否することができるなど、信頼性の高い情報を提供しています。求職者が安心して求職活動を行えるようにするためにも、ハローワークの体制強化に取り組むべきです。お答えください。
日本も批准しているILO第百八十一号条約では、民間職業仲介事業所について、許可又は認可の制度により、民間職業仲介事業所の運営を規律する条件を決定するとされています。日本国内においても、職業紹介事業者は許可制とされています。今回新たに法的に位置付けられる募集情報等提供事業者についても許可制にすべきではありませんか。
コロナ禍の出口ははっきり見えたと言える状況にはありません。完全失業率は二・八%と高止まりしており、失業期間が一年を超える長期失業も増加しています。失業者が生活の心配なく安心して次の職を探せる環境を整えるためにも、国の責任を果たすよう強く求めて、質問といたします。(拍手)
〔国務大臣後藤茂之君登壇、拍手〕
○国務大臣(後藤茂之君) 倉林明子議員の御質問にお答えいたします。
雇用保険のセーフティーネット機能についてお尋ねがありました。
雇用保険制度は、週所定労働時間二十時間以上の方を対象としております。その趣旨は、本制度が、自らの労働による賃金で生計を維持している方が失業した場合に、失業中の生活の安定と再就職の促進を図ることを目的とした社会保険の枠組みであることによるものです。
一方、雇用保険の給付を受けられない方についても、無料の職業訓練と月十万円を支給する求職者支援制度など、重層的なセーフティーネットにより、安定した雇用につなげるための支援策を講じています。
加えて、コロナ禍においては、求職者支援制度を利用しやすくする特例措置を設けたほか、雇用保険の被保険者以外の方も含めた雇用調整助成金の特例措置や休業支援金等を実施するなど柔軟に対応してきたところであり、様々な仕組みの活用を図りつつ、引き続き、雇用を守るとの立場に立って、必要な支援に取り組んでまいります。
国庫負担の本則についてお尋ねがありました。
今般の失業等給付に係る国庫負担の見直しに際しては、コロナ禍において多額の財政支出が生じたこともあり、国庫負担割合を一律に四分の一としたとしても対応できないほど急激な財政悪化が生じ、雇用保険臨時特例法において、定率負担とは別の一般会計による国庫繰入れ規定を創設し、今年度の補正予算において約二・二兆円の繰入れを実施したところであります。
こうした経緯を踏まえ、今般の法律、法案においては、雇用情勢及び雇用保険財政の状況に応じて国庫負担割合を四分の一又は四十分の一とした上で、こうした定率の負担とは別枠で機動的な国庫繰入れができる仕組みの常設化をすることとしており、これら全体を雇用保険法の本則とし、雇用保険財政の安定的な運営を目指すものであります。
国庫負担割合が四分の一となる状況についてお尋ねがありました。
今般の失業等給付に係る国庫負担の見直しにおいては、雇用情勢や雇用保険の財政状況に応じた仕組みとすることとしていますが、この中で、定率負担の国庫負担率が四分の一となる基準の一つである受給者実人員の七十万人という水準は、雇用情勢が相当程度悪化した状態として、原則の雇用保険料率を設定するに当たっての基本想定としている六十万人と、近年で最も高い水準である八十五万人の中間程度の水準をもって設定しているものです。
受給者実人員は、今般のコロナ禍においても、雇用調整助成金の特例などの効果もあって大きく増加しておりませんが、過去には、リーマン・ショック時の平成二十一年度に加え、アジア通貨危機、ITバブル崩壊など長期的な不況にあった平成十年度前後の時期においてこの七十万人という水準を超えており、今後も想定され得るものであると考えております。
雇用調整助成金等の雇用維持対策と雇用保険の国庫負担などとの関係についてお尋ねがありました。
コロナ禍に伴う失業の増大を防ぐため、雇用調整助成金についてこれまでに例のない特例措置を講じ、令和三年度補正予算においては、当面の雇用調整助成金等の財源確保及び雇用保険財政の安定を図るため、一般会計から約二・二兆円の繰入れを行ったところです。
今般の法案では、こうした経緯も踏まえ、雇用保険制度において雇用情勢等に応じた機動的な財政運営ができる枠組みを新たに設けることとしており、その適切な運用などを通じて国の雇用政策に係る責任を果たし、雇用保険財政の安定的な運営を確保してまいります。
保険料の引上げについてお尋ねがありました。
雇用保険財政が極めて厳しい状況にある中、保険料率の見直しに当たっては、実際の費用負担者である労使も参画した労働政策審議会の報告書も踏まえて、令和四年度における激変緩和措置を講じています。
一方で、雇用保険制度は、労使から広く御負担いただいた保険料を元に、雇用を失った方への失業給付や業況が苦しい企業への雇用調整助成金の支給といった再分配を担う機能を有しており、単純に負担増の観点からのみ論じられるべきものではないと考えています。
したがって、単に負担増の観点からのみ議論するのではなく、雇用保険のセーフティーネット機能を十分に発揮できるよう、今般の保険料及び国庫負担の見直しにより、雇用保険財政の安定を図ってまいりたいと考えております。
基本手当の日額上限の引上げ等についてお尋ねがありました。
労働者が失業した際に支給される基本手当は、失業中の労働者の生活保障と併せ、その早期の再就職を促進することを目的としており、その水準は、受給者の再就職促進に及ぼす影響も考慮し、慎重に設定する必要があります。
今般の改正に当たり、労働政策審議会においては、基本手当の支給状況や受給者の再就職状況等の指標に大きな変化が見られないこと等を確認した上で、現時点ではその水準を見直さないこととしています。一方で、新型コロナウイルス感染症等の影響により離職を余儀なくされた方については、給付日数を六十日延長する特例を設けているところです。
今後の雇用保険制度における具体的な給付水準等については、その時々の雇用情勢等を踏まえ、労働政策審議会における議論も経た上で検討する必要があると考えております。
今後とも、雇用保険制度のセーフティーネット機能が十分に果たされるよう適切に対応してまいります。
ハローワークの体制強化についてお尋ねがありました。
ハローワークは、我が国の労働市場において、全国ネットワークの下、無料の職業紹介サービスを行う重要な機関であると認識しています。
このため、厚生労働省としては、今後とも、ハローワークが雇用のセーフティーネットとしての役割をしっかりと果たせるよう、必要な執行体制の確保に努めてまいります。
募集情報等提供事業を許可制にすべきではないかとのお尋ねがありました。
募集情報等提供事業は、近年、求職者情報を収集し、求職者に対し積極的な情報発信を行っている実態も見られます。
今回の改正案においては、募集情報の的確表示などに関して問題が起きた場合、より迅速な対応が可能となるよう、あらかじめ事業実態を把握するために届出制を設けることといたしております。既に広く行われている事業であることも踏まえると、新たな法的規制の程度としては届出制が適当であると考えています。