石炭火力輸出を加速 地球温暖化対策に逆行 貿易保険法改定(経済産業委員会 政府質疑・反対討論)
2015/07/09
(ページ下部に資料があります)
倉林明子議員は7月9日の参院経済産業委員会で、貿易保険法改定案について、巨大企業・商社による石炭火力発電所の輸出を加速させ、地球温暖化対策に逆行するものだと批判しました。
今回の法改定は、貿易保険業務を担う独立行政法人・日本貿易保険(NEXI)を特殊会社にし、「履行担保制度」導入するもの。巨大企業などへの多額の保険金支払いが生じNEXIの資金調達が困難になった場合、国民の税金で際限なく穴埋めされる恐れがあります。
倉林議員は「限度額や返済の規定がなく、歯止めは明らかに後退し、国民負担のリスクは拡大する」と指摘しました。
NEXIが引き受ける事業で問題になるのが巨大企業が推進する石炭火力発電事業。国際的な環境保護団体の調査によると、貿易保険をはじめ石炭火力への日本の公的支援額は2007年から14年までの8年間で約2兆円にのぼり、世界最大の「石炭支援国」です。
倉林議員は「(地球規模で)二酸化炭素削減が喫緊の課題になっており、世界銀行など(国際機関)も石炭支援に制限を加えているときに、海外で石炭火力発電の建設を促進する逆行は即刻やめるべき」だと主張。宮沢洋一経済産業相は「石炭火力を受け入れる国は多くあり、そこに日本の高効率(石炭火力)技術を入れることは大事」と強弁しました。
〇委員長(吉川沙織君) 貿易保険法及び特別会計に関する法律の一部を改正する法律案を議題といたします。
本案の趣旨説明は既に聴取しておりますので、これより質疑に入ります。
質疑のある方は順次御発言願います。
〇委員長(吉川沙織君) 休憩前に引き続き、貿易保険法及び特別会計に関する法律の一部を改正する法律案を議題とし、質疑を行います。
質疑のある方は順次御発言願います。
〇倉林明子君 日本共産党の倉林明子です。
今回の貿易保険法改正、一体誰のための何のための改正なのかということが問われると思っているんですね。
そこで、今日、資料を用意させていただきました。これ、経済産業省からいただいたものをうちの事務所で加工したものとなっております。これ、資本金別で保険金の利用実績を過去五年で示したものです。この過去五年間のデータの平均で見ると、総保険金額に占める割合、これが資本金別、三億円以上が何社で何%になっているか、また一千億円以上の企業が何社で何%になっているか、まずお答えください。
〇政府参考人(黒澤利武君) お答えいたします。
二〇〇九年から二〇一三年までの平均ということでお答えいたしますが、資本金三億円以上の企業は二十九社でございまして、総保険金額の八二%を占めております。また、資本金一千億円以上の企業は十六社でございまして、総保険金額の五九・七%となっております。
〇倉林明子君 利用件数では中小企業も半分ぐらい使っているんだというお話あったわけだけれども、この総保険金額ということで見ますと、圧倒的な部分を占めているというのが大企業だということは見て取れると思います。しかも、資本金一千億円以上が今五年間平均でいうと約六〇%ということで、一兆円を超える巨大企業見てみれば三から五社含まれているということになっていようかと思います。
そこで、先進国との比較で見てみると日本の貿易保険というのはどうなっているかということを確認したいと思います。
一つは、貿易全体に占める保険分の割合がどうなっているか。保険料率はどうなっているか。アメリカ、イギリス、フランス、ドイツと比べてどうかということで、直近のデータをお示しいただきたいと思います。
〇政府参考人(黒澤利武君) 二つ御質問をいただきました。
一つ目ですが、二〇一三年度の数字でお答えいたします。保険のカバー率ということでございますけれども、日本につきましては一〇・三%でございますが、アメリカは〇・三五%、イギリス〇・五六%、フランス二・三五%、ドイツ二・五五%でございます。
二つ目、保険料率の比較ということですが、これも二〇一三年度の数字でお答えいたしますが、日本が〇・三八%であるのに対し、米国〇・八七%、英国五・二八%、フランス三・九九%、ドイツ二・三四%ということでございます。
なお、各国ごとに大きくばらつきがございますが、これは、各国における保険の対象がおのずから異なっておりますし、また各企業の経営判断の違いによるものと考えております。
〇倉林明子君 各国事情の違いがあるということなんだけれども、この数字見ますと、公的保険のカバー率が桁違いで高いというのが日本だし、保険料率で見ると破格の安値になっている。これ、日本の特徴だと見て取れると思うわけです。
そこで、今回の法改正で、NEXIを履行担保制度を持つ特殊会社とするということになるわけですが、戦争、テロなどで大規模な給付事案が生じると資金調達が困難になる場合も想定されるわけですが、これまで特別会計で限度額が定められていたものが、限度額を超える税金投入も可能とするものになるんじゃないかと思うわけです。一時借入金の限度額もなくなると国民負担のリスクというものが拡大するんじゃないかと考えるんですけれども、大臣、いかがでしょうか。
〇国務大臣(宮沢洋一君) 今の現行制度におきましては、NEXIが保険を引き受けたものを国が全て再保険をするということでありますので、NEXIの保険引受けによりまして特別会計の負担が増加する仕組みであったために、引受けに一定の上限を予算書上で設けております。
ただ、上限といいましても、二十一年度から二十五年度まででいいますと大体六十兆弱、五十三兆から五十九兆ぐらいの上限額に対しまして、引受実績は十二兆前後でございまして、上限額といっても実はそれほど機能をしていた上限額ではございません。
今回の改正によりましてまさに特別会計が廃止されまして、NEXIの引受けにより国の負担が自動的に増加することにはならないため、引受限度額は定めておりませんし、株式会社にする、また効率的な運営、また柔軟な運営といった意味からも限度額といったものは引き受けておりません。
ただし、一方で、国民負担の増大ということにつきましては、それは我々としても気を付けていかなければいけないと思っておりまして、例えばNEXIにつきまして最低責任準備金を設けるといったようなことをきっちり積み立てた上で、一般会計から、引受限度額は定めておりませんけれども、必要に応じて予算で議決して補填をすることができると、このようにしております。
ただ一方で、交付をした場合でありましても、それにつきましてはその後のNEXIの運用益から返済していくという形になるので、国民負担に中長期的にはならないと、こういうことでございます。
しかも、それを担保するために、役員や事業計画の認可、引受基準の策定や意見陳述、事業運営に関する報告徴収、検査といったものが制度として制度化されておりまして、しっかりとNEXIの事業運営や引受状況を監督していく考えでございます。
〇倉林明子君 いろいろ説明はあったんだけれども、この法上で限度額もなくなるし、一時借入金の限度額もなくなると。今、貸し付けた場合の返済については担保していくということだけれども、これ法文上の担保規定はないということになるわけで、私は、歯止めということでいうと明らかに後退することになるんじゃないかと、これは指摘をしたいと思うんです。
独法だからこれまで公開された情報、あるいは行革法で定員、予算に掛けられていた縛り、こういうのもなくなっていくわけです。増えるのは国民負担のリスクということになる危険があるということは重ねて指摘をしておきたいと思います。
そこで、NEXIが引き受けてきた事案について、その中身を見てみたいと思うわけです。それが二枚目の資料に付けております。これも経産省からいただいた資料で加工したものです。
石炭火力発電事業について見ていただきたいと思うわけです。二〇〇三年度から二〇一四年度までの実績となっております。これ、公表ベースのみということになりますけれども、合計何件これまで引き受けてきたか、保険金総額は幾らになっているでしょうか。
〇政府参考人(黒澤利武君) お答えいたします。
二〇〇三年から二〇一四年までの間にNEXIが引き受けた石炭火力発電案件の合計は、件数にいたしまして十一件、保険金額では三千八百九十九億円でございます。
〇倉林明子君 石炭火力への公的支援ということでいいますと、NEXIも含めてでございますが、非公開情報ということもありまして、全容がなかなか分からないという実態にあったものです。
これ、最近発表された調査結果ありまして、WWFなど国際的な環境保護三団体が実態を調査しまして、今年六月二日に「隠された石炭支援」ということで報告書を取りまとめられました。ここで初めて明らかになったデータがあります。
それによりますと、二〇〇七年から二〇一四年度の八年間で公的支援は七百三十億ドルと、約八兆円に上っている。そのうち日本の公的支援は二百四億ドル、約二兆円ということで、この三団体の調査結果によりますと世界最大の石炭支援国になっているというものでありました。その中心が国際協力銀行、JBICと日本貿易保険、NEXIということになるわけです。これが資料の三にデータを付けております。参考までに御覧ください。
この報告書によりますと、二〇〇七年から二〇一四年度の八年間の石炭支援による二酸化炭素排出量、これ何とイタリア一国の排出量に匹敵する年間四億トンに上るというわけです。
地球規模で二酸化炭素の排出削減、これ喫緊の課題となっていること、言うまでもありません。海外で石炭火力発電の建設を推進する、これは明らかな逆行になるのではないかと、私、即刻改めるべきだと考えますけれども、大臣、いかがでしょうか。
〇国務大臣(宮沢洋一君) まず、このいただいた資料につきましては、中身が正直言ってよく分からないものですから、なかなかコメントしようがないわけでありますけれども。
まず石炭火力の話につきましては、この委員会でも倉林委員と何度かお話をしてきたと思っております。
そして、日本のまさに石炭火力発電所というのは世界で最も進んだ石炭火力発電所でありますし、さらに現在、液化とかさらに燃料電池を使うといった新しい技術についても、私の地元の広島県で実証実験を始めようとしているといったものであります。
そして、まず、国内の話はもう申し上げませんけれども、海外との関係で申し上げますと、やはり開発途上国の中には経済的な理由等々におきまして石炭火力を選択している国というのは多々ございます。そして、そういう国に対しまして、日本の最も世界で進んだ技術、CO2排出量の少ない石炭火力発電所を輸出していくということは、私はこれは大変大事なことだろうというふうに思っております。
もしも日本がやめた場合には、もっと非効率なものが恐らく出回って世界中のCO2の排出量が増えると、こういうことになろうかと思います。
〇倉林明子君 世界の動きがどうかということを紹介したいと思うんですね。
今、石炭支援の制限に向かっているという流れは明らかになってきていると思うんです。二〇一三年、アメリカ、イギリス、フランス、オランダ、北欧諸国、世界銀行や欧州投資銀行、こうした国際機関でも石炭支援に制限を加え、例外として認めているのは最貧国、石炭以外に代替エネルギー源がない場合など、大変限られたものになってきております。
NEXIの石炭支援先は最貧国とは言えないものばかりとなっております。国際水準に立って高効率で新設するからいいんだという議論なんだけれども、新設すればLNGの二倍の二酸化炭素を排出する、絶対量を増やすということをしっかり見ないと駄目だと思います。
石炭火力発電へのこうした支援について制限を掛けるべきだと私思います。どうでしょうか。
〇国務大臣(宮沢洋一君) 委員がおっしゃるような世界水準というものがあるとは私は承知をしておりません。もちろん、今OECDの場で石炭火力発電に対する公的信用を制限するかどうかという議論は行われております。ただ、やはり一番熱心な米国というものは、状況ががらっとこの二、三年変わってきておりまして、かつてはまさに石炭火力というのは大変大きな国内の発電の電源でありましたけれども、現在オイル価格が下がってきている、そしてシェールオイル、シェールガスが出てきているということで、恐らくアメリカをめぐる経済的状況の大きな変化といったものが、そういう国際機関の場でそういう議論が始まっている一番の要因ではないかと思っております。
一方で、ヨーロッパにおきましても、ドイツなどはやはり石炭火力といったものはしっかりと高効率なものを輸出しなければいけないという立場でありますし、また、最貧国だけではなくて、ASEANといったところを見ましても、ASEAN全体としてやはり高効率の石炭火力に対する公的信用は大変大事なものだという意見でございます。
先週もベトナムの大臣が来られまして、あそこは石炭の多い国でありますけれども、石炭火力のまさに効率化といったものの重要性について述べられていたのを記憶をしております。
〇倉林明子君 二酸化炭素を世界的にどうやって排出削減していくのかということが迫られているということを重ねて指摘をしたいと思うわけです。
今年六月に改訂したインフラシステム輸出戦略、先ほど来議論もありました、JBIC、NEXIの公的支援を強化し、リスクテークの強化を図るということで、原発、石炭火力発電の一層の推進、位置付けている。私、この戦略自身に問題があるというふうに思っております。石炭火力を世界で一番支援する、先進国として私は今や恥ずべきことだというふうに思います。世界の批判は免れないということを改めて指摘しまして、終わります。
反対する第一の理由は、新設される履行担保制度により、利用した多国籍企業等で多額の保険金支払が生じ、NEXIの資金調達が困難になった場合は国民の税金で際限なく穴埋めされるおそれがあるからです。
現行の貿易保険法第五十八条は、あらかじめ国会の議決を経た金額での再保険の契約締結義務を課しており、その金額を超えての再保険はできないとされ、また、一時借入金の限度額という歯止めがあります。本法案では、予算で定める金額の範囲内と規定するのみで、明確な歯止めがなくなるものです。
第二は、国会の監視機能、国民への情報公開が後退するからです。
これまでは、独立行政法人として、中期目標、中期計画で業務の内容や人件費を含む予算等、国民への公表が義務付けられていました。本法案で公表が義務付けられているのは、第十五条の引受基準、再保険基準のみとなります。最終的に国民に負担を求める仕組みである以上、国民への情報公開の後退は認められません。
第三は、巨大企業や商社が原発や石炭火力発電所などのインフラシステム輸出を一層加速させるものだからです。
原発の再稼働や海外への輸出について国民の同意は到底得られず、石炭火力発電所の海外での建設促進は深刻化する地球温暖化の対策に逆行するものにほかなりません。我が国の貿易保険は、資本金一兆円以上の巨大企業を始め、ユーザー企業上位三十社の大企業が保険引受額の約八割を占めています。主要国に比べ公的保険のカバー率が格段に広い上、保険料は格安となっており、余りにも行き過ぎた巨大企業優遇と言えるものです。
本法律案は、NEXIの経営の自由度を高め、リスクテーク機能を強化した特殊会社とするもので、多国籍企業が強化されたNEXIの保険を利用して海外事業の展開とインフラシステム輸出を推し進めるならば、国内産業の空洞化を加速させることにもなり、国民経済の発展には決してつながらないことを指摘して、反対討論といたします。
- 日時
- 2024/11/22(金)
- 場所
- 内容