物価高超す年金額を 参院本会議で法案審議入り(2025/6/4 参議院本会議)
年金を物価や賃金の伸びよりも低く抑える「マクロ経済スライド」を温存する年金改革法案(国民年金法改定案)が4日、参院本会議で審議入りしました。日本共産党の倉林明子議員は代表質問で「物価高に負けない年金の引き上げは待ったなしだ」と石破茂首相に迫りました。(質問要旨)
倉林氏は、国民年金法第4条は国民の生活水準に著しい変動が生じた場合、速やかに改定の措置を講じなければならないと規定しているとし、「40年ぶりの異常な物価高は著しい変動にほかならない」と指摘。物価高を上回る年金額の再改定を速やかに行うよう求めました。
石破首相は「近年も年金額を改定してきている」などと拒否しました。
法案は自民、立憲民主、公明の3党合意で修正され、年金額の「底上げ」措置は2029年の財政検証を踏まえて判断すると先送りされています。倉林氏は「マクロ経済スライドは今後10年以上継続し、年金水準の引き下げは続くことになる」と指摘。ただちにマクロ経済スライドを停止するよう迫りました。
石破首相は「(マクロ経済スライドは)将来世代の年金の給付水準を確保するために今後とも必要な措置だ」と強弁しました。
倉林氏は、▽巨額の年金積立金を年金の引き上げに活用▽厚生年金保険料の上限を医療保険並みの年収2000万円まで引き上げ▽短時間労働者の被用者保険のさらなる適用拡大―などを提案し、年金の引き上げは可能だと主張しました。
さらに倉林氏は、深刻な女性の低年金は男女の雇用差別、賃金差別、非正規の拡大など「政治が招いた結果だ」と指摘。就職氷河期世代を含め低年金・無年金者をなくすために最低保障年金制度をつくるよう求めました。
会派を代表して、ただいま議題となりました社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案について質問をいたします。
異常な物価高騰が国民生活を直撃し、とりわけ年金で暮らす人たちの暮らしを追い詰めています。年金額は目減りし続け、節約では追い付かず、食費、光熱費、医療費、被服費など、健康、命に関わるところまで削らざるを得ないという悲鳴が上がっています。
この間、介護保険料、国保料は値上がりを続け、高齢者の実質的な可処分所得は更に減少しています。障害基礎年金と少ない工賃で暮らす障害者からは、食料品など今まで買えていたものが買えなくなった、グループホームの費用が払えないなど、深刻な声が寄せられています。総理はどう認識されているでしょうか。
総理は、誰も取り残さない社会の実現、全ての人が幸せを実感できる、人を財産として尊重する人財尊重社会を築いていくと決意を述べられています。
総理、全ての人の中に、高齢者や障害のある人など、年金で生計を立てる人たちは入っていますか。誰も取り残さないというのであれば、そのための具体的手だてが必要です。苦境に立つ人たちに、今すぐ物価高を超える年金額の引上げを実行すべきではないでしょうか。
国民年金法第四条には、国民の生活水準に著しい変動が生じた場合、速やかに改定の措置が講ぜられなければならないと規定しております。四十年ぶりの異常な物価高は著しい変動にほかなりません。物価を上回る年金額の再改定を速やかに行うべきです。総理の答弁を求めます。
法案は衆議院で修正されたものの、年金額の底上げ措置は二九年の財政検証を踏まえて判断すると先送りされています。年金生活者の苦境の元凶となっているマクロ経済スライドは、早期終了の措置を講じたとしても今後十年以上継続し、年金水準の引下げは続くことになります。年金削減の影響は、基礎年金のみ、低年金の方ほど大きくなることは明らかです。
我が党は、衆議院でマクロ経済スライドを速やかに停止する修正案を提出しました。長引く物価高の中で年金生活者の暮らしを守るとともに、現役世代の大幅減額を避けるために、今こそマクロ経済スライドを直ちに停止すべきではありませんか。
現在二百九十兆円、給付の五年分もため込んでいる巨額の年金積立金を年金の引上げに今こそ活用すること、現在年収一千万円で頭打ちとなる厚生年金保険料の上限を医療保険並みに年収二千万円まで引き上げること、現役労働者の賃上げ、短時間労働者の更なる適用拡大を進め、保険料収入と加入者を増やす、こうすれば年金の引上げは可能だと考えますが、いかがですか。
以上、総理の答弁を求めます。
とりわけ女性の低年金は深刻です。十万円以下が八三%、五万円以下が二三%も占めています。厚労省公表の相対的貧困率は二〇一二年をピークに低下していますが、唯一例外が高齢女性です。貧困率は上昇を続け、高齢男性との差は拡大し、単身高齢女性の貧困率は四四%に上っています。十代から働き続けたが、介護保険料など引かれ、年金五万円は家賃に消えてしまうという女性、夫と死別し年金が激減し生活が行き詰まる、こうした女性の声です。
子育て、介護、家族ケアを担い、女性差別が公然と行われる職場で、社会で生きてきた多くの女性たちが、公的年金だけでは暮らせず、貧困に陥っています。
女性の低年金の原因は、男女の雇用・賃金差別、非正規の拡大、無償のケア労働に依存した社会保障、第三号被保険者制度による被用者保険未加入への誘導など、政治が招いた結果です。総理にその認識はありますか。
高齢女性だけの問題ではありません。現役世代の未婚女性の貧困率が上がっています。就職氷河期世代を含め、現在と将来の低年金・無年金者をなくすために、最低保障年金制度をつくることが必要ではありませんか。お答えください。
低年金、低所得で暮らす人には社会保障制度全体で必要な支援をしていくとの答弁が繰り返されています。言われるまでもなく、年金だけでは暮らせず生活保護を利用する高齢者は増加し、生活保護利用者の五割を超えました。
しかし、最後のとりでである生活保護の実態はどうか。洋服も靴も知人のお下がり、冬でも暖房は付けず、友人との交流も、葬儀にも出られない、食事は一日一食、風呂は週に一回しか入らない、毎日お金のことばかり考えている、生かさず殺さず、それが生きている限り続く、これが、いのちのとりで生活保護裁判の原告の言葉です。これが生存権を保障するにふさわしい支援と言えるでしょうか。
二〇一三年から三年間、自公政権が強行した生活保護費削減を緊急に復元し、物価高に見合った水準に引き上げるべきです。総理の答弁を求めます。
法案は、百六万の壁の解消等被用者保険の適用拡大を行いますが、同時に必要なのは中小企業への直接支援です。今、社保倒産に追い込まれる企業が急増し、中小企業の社会保険料を含む税金滞納倒産が過去最多を記録しています。法案による事業所への支援は三年間の時限措置であり、極めて限定的です。
総理、最低賃金の引上げが求められる中、中小企業の社会保険料の事業者負担の軽減に本格的に踏み出すべきではありませんか。
以下、厚労大臣に質問します。
年金事務所による強権的徴収、差押えが横行しています。本来使えるはずの猶予措置も無視して一括納入を迫る、納付協議中に差し押さえるなどの事態がいまだに続いています。社会保険料の取立てにより中小企業を破綻させるなど、あってはなりません。猶予措置を徹底し、厳正な実行を求めます。いかがですか。
障害年金について、今回も見直しが先送りされ、当事者、関係者からは政府の無策に批判の声が上がっています。障害年金には早急に見直すべき多くの課題があります。
障害年金の不支給が昨年倍増したと報道されました。恣意的判断で本来受給できる人が排除されたとすれば、重大です。徹底した調査、公表とともに、必要な再判定が実施されるべきです。答弁を求めます。
障害年金は、障害を持つ人が生きていく上で基盤となる基本的権利であるにもかかわらず、年金を受給できている人は少数です。無年金者が大量に放置されている現状をどう認識されているでしょうか。
必要な人が年金を受給できない要因は、現状と乖離した認定基準にあります。医学モデルの認定基準が必要な障害者への支給を制限、排除しています。社会モデル、人権モデルへの転換が必要です。答弁を求めます。
障害者権利条約の総括所見では、市民の平均所得に比べ、障害年金が著しく低額であると懸念が示されました。障害基礎年金の額は四十年間据え置かれたままです。社会的に自立した生活ができるよう、大幅に引き上げるべきではありませんか。
大量の無年金、低年金の障害者をつくり出している状況をこれ以上放置することは許されません。制度上、運用上の喫緊の課題を解決し、制度を抜本的に見直すため、当事者、専門家の参加する集中した議論を今すぐ開始すべきではありませんか。
物価高に負けない年金の引上げは待ったなしです。十年以上年金を引き下げるなど、到底容認できるものではありません。直ちに底上げ、引上げを重ねて強く求めて、質問といたします。(拍手)
〔内閣総理大臣石破茂君登壇、拍手〕
○内閣総理大臣(石破茂君) 倉林明子議員の御質問にお答えいたします。
物価高騰と年金額の改定についてでございます。
御指摘の国民年金法の規定は、現行の年金額の改定ルールでは対応できないような国民の生活その他の諸事情の著しい変動が生じた場合に年金額を改定する旨を定めたものですが、既に物価等の変動に応じて年金額を改定する現行の仕組みに基づいて近年も年金額を改定してきており、御指摘のような改定を行う状況にはないと考えております。
その上で、所得や年金額の低い高齢者の方々には、年金生活者支援給付金制度を設けており、こうした施策等により、高齢者の方々の暮らしが安定するよう、引き続き支援をいたしてまいります。
マクロ経済スライドの停止と年金水準の引上げについてでございます。
公的年金制度では、マクロ経済スライドの仕組みにより、現役世代の負担が過重なものとならないよう保険料の上限を固定し、積立金も計画的に活用しつつ、その範囲内で給付を行うことで将来世代の給付水準を確保いたしております。将来世代の年金の給付水準を確保するために、今後とも必要な措置と考えております。
その上で、年金の給付水準は今後の経済状況によって変わり得るものであり、政府として、賃上げと投資が牽引する成長型経済への移行を目指しつつ、被用者保険の適用拡大など今回の法案に盛り込んだ事項を着実に実行すること等を通じて、年金給付水準の確保に努めてまいります。
女性の低年金の原因と最低保障年金制度の創設についてのお尋ねです。
公的年金制度におきましては、基本的に制度上の給付の男女差はなく、年金額は現役時代の収入に基づく保険料の納付実績に応じて決まるものでございます。
政府といたしましては、男女雇用機会均等法の遵守徹底や男女間賃金格差の是正を図るほか、希望をされる方の正社員への転換支援などに取り組んできており、今回の法案でも、より手厚い年金が受けられますよう、被用者保険の適用拡大に取り組むことといたしております。
いわゆる最低保障年金の創設につきましては、多額の税財源が必要となること、これまで保険料を払ってこられた方々と払ってこられなかった方々との間の公平性をどのように確保するのかといった難しい課題があり、低所得の年金受給者に対する年金生活者支援給付金の支給などを通じて、高齢期の所得保障に取り組んでまいります。
第三号被保険者制度につきましては、今回の附則の検討規定に基づき、その実態も精緻に分析しながら、在り方の議論を進めてまいります。
生活保護費の水準についてでございます。
二〇一三年から三年間掛けて実施した生活保護費の改定につきましては、訴訟が提起されており、判決が確定していないなどの事情から、対応についてお答えは差し控えさせていただきますが、生活保護基準につきましては、最低限度の生活を保障するため、一般国民生活における消費水準との比較において設定するという考え方の下、一般低所得世帯の消費動向や社会経済情勢等を総合的に勘案して改定を行っておるものでございます。
中小企業の社会保険料についてでございます。
中小企業に対して社会保険料の事業主負担を軽減すべしとの御提案につきましては、社会保険料が医療や年金の給付に充てられ、労働者を支えるための事業主の責任であることなどから、慎重な検討が必要であると考えております。
また、中小企業に対しましては、非正規雇用労働者を正社員に転換した事業主に対するキャリアアップ助成金などによる支援など、政策目的に応じて助成金による支援を行っております。
政府といたしましては、賃上げと投資が牽引する成長型経済の実現を目指し、中小企業や、失礼、中小企業に利益を上げていただくための適切な価格転嫁や生産性向上を支援しながら、社会保険につきましては、年齢にかかわらず、適切に支え合うことを目指す改革を着実に進めてまいります。
残余の御質問につきましては、関係大臣から答弁を申し上げます。(拍手)
〔国務大臣福岡資麿君登壇、拍手〕
○国務大臣(福岡資麿君) 倉林明子議員の御質問にお答えします。
社会保険料の徴収についてお尋ねがありました。
社会保険料の納付が困難な事業所については、日本年金機構に対し、事業所の経営状況や将来の見通しなどを丁寧に伺いながら猶予や分割納付の相談等に応じることや、納付計画どおりに納付がされない場合であっても、直ちに猶予を取り消し、財産を差し押さえるのではなく、やむを得ない理由があると認められる場合には猶予を取り消さないことができることなどの対応を求めています。
年金事務所において、関係法令等に基づき、事業所の状況に応じた対応が行われるよう、引き続き日本年金機構に対して指導してまいります。
障害年金の報道についてお尋ねがありました。
御指摘の報道については、年金行政への信頼に関わる問題であり、しっかり対応していく必要があることを十分認識しております。
このため、令和六年度における障害年金の認定状況について、その実態把握のための調査をすることとしており、この中で個別の事例について適正に審査されているか等を速やかに確認することとしています。調査の結果については、六月中旬を目途に公表すべく作業を進めており、その結果を踏まえて必要な対応を行ってまいります。
障害年金の無年金者についてお尋ねがありました。
障害年金を給付されるべき方に必要な給付が行われることは重要であると考えております。
障害年金の審査に当たっては、障害認定基準やガイドラインに基づき、診断書等を基に、障害の状況や日常生活への影響等について、障害認定医の意見も踏まえ個別に判断を行っているところです。また、今回の法案においても、障害年金について直近一年間に未納期間がない場合には受給要件を満たすこととする特例を延長することとしており、生活困窮者自立支援制度などと併せ、社会保障全体での総合的な対応に引き続き取り組んでまいります。
障害年金の認定基準についてお尋ねがありました。
障害年金については、個人の心身の機能障害に着目する医学モデルか、社会における障壁に着目する社会モデルや人権モデルかという二者択一ではなく、主治医の診断書に加えて、本人や家族が記載する書類により、機能障害のみならず、日常生活の状況等について詳細を把握した上で障害等級の認定を行っています。具体的な障害認定基準については、今後も様々な御意見を伺いながら、不断の見直しを行ってまいります。
障害年金の引上げについてお尋ねがありました。
障害年金の給付水準は、通常は加齢に伴って起こる稼得能力の喪失が現役期に障害状態となって早期に到来することに対応するものとして、老齢年金と同水準であることを基本としつつ、障害等級一級の方はその一・二五倍と配慮するなど、適切なものであると考えております。その上で、障害をお持ちの方に対しましては、社会保障制度全体で総合的に支援していく観点から、障害年金生活者支援給付金の支給など支援措置を実施しており、引き続きしっかりと取り組んでまいります。
障害年金制度の会議体の設置についてお尋ねがありました。
社会保障審議会年金部会では障害年金に関する広範な事項について議論しましたが、いずれの事項も、障害年金の目的や認定基準の在り方、他の障害者施策との関係整理などについて更なる議論が必要とされたところです。このため、まずはどのような論点について議論を深めるべきかを整理した上で、その結果も踏まえ、どのような場で議論するかも含め検討したいと考えております。(拍手)