なし崩しの規制緩和反対 「産業競争力強化法案」審議入り(本会議)
2013/11/20
規制緩和などを通じて「世界で一番企業が活動しやすい国」づくりを目指す「産業競争力強化法案」と、高校授業料無償制をやめて所得制限を導入する「高校無償化廃止法案」の趣旨説明と質疑が11月20日の参院本会議で行われ、審議に入りました。日本共産党の倉林明子議員が「産業競争力強化法案」について質問に立ちました。
倉林議員は、企業単位で規制緩和を認める「企業実証特例制度」と、新規事業の規制適用の有無を事前に確認できる「グレーゾーン解消制度」の創設によって「なし崩しに規制緩和が進められる」と主張。茂木敏充経産相は「規制改革を推進することが前提となる」と述べ、規制緩和による労働者のリストラと不安定雇用増加に無反省な姿勢を示しました。
倉林議員は、法案と関連して検討されている法人税の軽減措置について言及し、税構造をゆがめ国民負担を招く法人税の「引き下げ競争」をやめるよう要求。また、国立大学法人がベンチャーファンド(成長企業への投資基金)に出資や援助ができる規定が盛り込まれていることについて、「損失が出た場合、誰が責任を負うのか」とただしました。
下村博文文科相は「適切に対応する」としか答えませんでした。
倉林議員は「賃上げによる内需拡大と中小企業支援で地域経済を再生させることこそ、国民生活の向上につながる」と強調しました。
議長(山崎正昭君) 倉林明子君。
〔倉林明子君登壇、拍手〕
○倉林明子君 日本共産党の倉林明子です。
私は、日本共産党を代表し、産業競争力強化法案について質問します。
本法案は、本年六月に閣議決定された日本再興戦略を具体化したもので、世界で一番企業が活動しやすい国を目指すとしています。
政府は、更なる規制緩和によって、企業の競争力を強化し、日本経済を再生させるとしていますが、本法案が目的で掲げているように、国民生 活の向上及び国民経済の健全な発展に寄与するものとなるでしょうか。
茂木大臣は、衆議院での質疑で、企業の収益性が高まれば、従業員の賃金上昇や雇用の拡大を生み、国民経済の発展につながると答弁されてい ます。政府は、大企業を応援し、大企業がもうけを上げれば、いずれは雇用、賃金、家計に回ってくると言い続けてきましたが、実態はどうで しょうか。大企業は利益を上げても内部留保としてため込むだけで、労働者の賃金は下がり続けたのがこの十五年間ではありませんか。
また、デフレで国民所得と産業競争力が奪われてきたとしていますが、デフレ経済の悪循環はなぜ起こったのでしょうか。大企業が、株主の利 益最優先で、国際競争力強化のため、コスト削減競争に走り、非正規雇用の拡大など賃金引下げ政策を推し進め、内需を犠牲にしてきたからで はありませんか。大企業ばかり支援しても景気は良くならなかったという教訓こそ酌み取るべきです。
今、アベノミクスで上場企業の収益は回復傾向を見せています。史上最高益を上げた富士重工業のお膝元、群馬県太田市では、地元信金の取引 先の調査によれば、賃金を引き上げる予定があるとした企業は僅か三・四%であり、据え置くとした企業は七六%となっています。
大企業の利益が上がっても下請企業にも労働者の賃金にも回っていかないという実態こそ直視すべきです。経済産業大臣及び経済再生担当大臣 に答弁を求めます。
次に、法案の内容について質問します。
第一に、企業実証特例制度とグレーゾーン解消制度についてです。
企業実証特例制度は、新たに企業単位で特例的に規制緩和を認めるもので、企業が新しい事業を行う場合、自らが規制の代替措置を提案すれば 規制緩和を可能とするものです。その特例の事業の対象となる分野は、医療、農業、環境、労働なども含め、例外はないということですか。
グレーゾーン解消制度は、企業の新事業における規制について、白か黒かを明確にするものだとしています。黒の場合は、代替措置を用意し、 企業実証特例制度への持込みが可能となります。提案された代替措置に対して規制官庁が認めない場合でも、日本経済再生本部など、最終的に 安倍首相に判断が委ねられることになります。結局、なし崩しに規制緩和が進められることになるのではありませんか。
第二に、産業活力再生法との関係です。
本法案には、産活法からの移行条文が百か条と、全体の三分の二を占めています。リストラ計画に政府がお墨付きを与えて推進する産活法と併 せて実施された労働者派遣法や労働基準法などを改悪した結果、OECD加盟国の中で日本は首切りしやすい国の五位に位置しております。本 法案には、労働者のリストラと不安定雇用が増加した教訓は全く反映されておりません。
政府は、個別事例での雇用者数の減少があるとしたものの、全体として雇用確保に貢献してきたとの認識を示しました。これは、大量のリスト ラと大量の非正規雇用への置き換えを認めるということではありませんか。これでは、更に賃金全体を押し下げ、内需は低迷し、景気悪化を招 くのではありませんか。
以上、経済産業大臣に答弁を求めます。
二〇一三年九月のG20宣言では、質の高い雇用を通じた成長を課題に掲げ、生産的でより質の高い雇用創出をすることは、強固で持続可 能な均衡ある成長、貧困削減及び社会的一体性の向上を目指す各国の政策の核であると述べ、非正規雇用を減少させるための効果的な対策を呼 びかけています。不安定雇用を一層拡大する規制緩和は、この呼びかけに真っ向から挑戦するものです。見解を厚生労働大臣にお聞きいたしま す。
第三に、法人税の問題です。
この法案とセットで様々な法人税の軽減措置が検討されています。国際競争力を高めるとしていますが、世界が目指している方向はどうでしょ うか。各国による法人税引下げ競争は、それぞれの税構造をゆがめ、所得、消費への課税強化など、国民の負担増を招いています。
OECDは、法人税の引下げ競争は有害な税の競争と警鐘を鳴らし、二〇一〇年のG20で是正の必要性を提起しました。今年のG20で も、多国籍企業が低税率の国・地域に利益を人為的に移転することによって支払う税の総額を削減することを国際的な及び自国の課税ルールが 許容又は奨励しないようにすることを要請するとしています。法人税の引下げ競争はやめようというこの要請に対し、政府が閣議決定した日本 再興戦略は逆行するものではありませんか。
今、日本政府がなすべきことは、国際協調を進め、税の引下げ競争をやめようと世界各国に呼びかけることではありませんか。財務大臣に答弁 を求めます。
また、本法案では、ベンチャー企業への投資を促進するとして、国立大学法人が特定成果活用支援事業を実施するベンチャーファンドに出資や 援助ができるという規定が盛り込まれています。国立大学法人の予算の原資は税金と学生の授業料などによるものであり、損失が出た場合、一 体誰が責任を負うことになるのでしょうか。文部科学大臣に明確にお答えをいただきたい。
今、政府が目指すべきは、大企業の内部留保を労働者の賃上げに回して内需を拡大すること、事業所の九九・七%を占め、雇用の七割を支える 中小企業全体の底上げを支援して地域経済を再生させること、国民生活の向上につなげていくことこそ必要だと指摘を申し上げまして、質問を 終わります。(拍手)
〔国務大臣茂木敏充君登壇、拍手〕
○国務大臣(茂木敏充君) 締めの質問に立たれた倉林議員にしっかりお答えをいたします。
最初に、大企業の利益拡大と国民生活の向上についてでありますが、これまで、企業収益が上がってもそれがなかなか設備投資や賃金上昇につ ながらなかったのは、日本経済全体が先の見えないデフレ状況にあったことが最も大きな要因であったと考えます。
政権交代後、経済成長はマイナスからプラスに転換しつつあります。今こそ、企業収益の向上を賃金上昇や雇用の拡大につなげ、消費の拡大を 通じて更なる投資の拡大につなげる経済の好循環を実現する時期が来ております。
このため、本法案においても、企業の新市場の開拓や設備投資を後押しするため、規制改革の推進や産業の新陳代謝の促進に向けた新たな制度 を盛り込んだところであります。また、経済界に対して、賃上げや関連中小企業との取引条件の改善を始め、前向きな行動の働きかけを行って おり、経済界からも大変前向きな発言をいただいております。
こうした取組に加え、十二月上旬をめどに新たな経済対策を策定することとしており、これらの総合的な施策によって経済の好循環を実現し、 全国津々浦々まで、地域の中小企業・小規模事業者まで景気回復の実感を届けるとともに、国民生活の向上、国民経済の健全な発展につなげて まいりたいと考えております。
次に、企業実証特例の対象分野でありますが、本制度は、特定の分野を対象外とする仕組みとはしておらず、御指摘のあった分野を含め、企業 が新事業の実施のために必要であると判断すれば規制の特例措置を提案していただくことが可能であります。法案の成立、施行後、仮にそうし た分野の案件について企業から企業実証特例制度を活用した具体的な提案があった場合には、事業所管省庁がその内容、必要性、代替措置など を精査した上で規制所管省庁と協議、調整を行っていくこととなります。
企業実証特例制度において、なし崩しに規制緩和が進められることになるのではないかとのお尋ねでありますが、そんなことはありません。
この制度では、事業所管大臣と規制所管大臣が協議を重ねても意見が一致しない場合には、必要に応じて内閣官房が意見調整を行うことで解決 を目指し、最終的にはこの調整プロセスの中で総理大臣がリーダーシップを発揮して結論を出すことを想定をいたしております。
このプロセスでは、産業競争力の強化という法案の趣旨を踏まえ、規制改革を推進することが前提となる一方で、規制が求める安全性等の確保 の観点からも、企業の新事業提案においてしっかりとした代替措置が講じられるかどうかについて客観的な検討が行われ、最終的な結論が導か れるものと考えております。
最後に、産活法の教訓と雇用に対する影響についてでありますが、産活法の認定事業者の中で雇用者数を減らした例もありますが、仮に思い 切った事業再編を先延ばしすれば更に大きな雇用を失っていた可能性や取引先の雇用に悪影響を及ぼした可能性もあります。事業再編に早く取 り組むことにより、その後雇用を増加させるなど、個別の事例でも雇用の維持拡大につながった事例があることはもちろん、全体的に見れば雇 用の確保に資してきたものと考えております。
また、本法案による事業再編の促進に併せ、政府としては、失業なき労働移動の実現のため、労働移動支援助成金の抜本的拡充等を日本再興戦 略においても明確に位置付けているところであります。
引き続き、厚生労働省とも連携しつつ、適切に対処してまいります。
以上です。(拍手)
〔国務大臣甘利明君登壇、拍手〕
○国務大臣(甘利明君) 大企業の利益と労働者の賃金の関係についてのお尋ねでありま す。
これまで企業収益の増加が賃金につながらなかったのは、先の見えないデフレ状況下で企業が自己防衛に走ったことが最も大きな原因であった と考えます。次元の異なる三本の矢の政策を一体的に進める中で、デフレ状況ではなくなりつつある今こそ、企業収益の向上が賃金上昇や雇用 の拡大につながり、消費を押し上げることを通じて更なる企業収益につながっていく好循環を実現する絶好のチャンスであるというふうに考え ております。
このため、経済政策パッケージに、大胆な投資減税や賃上げを促進する税制、さらには足下の経済成長を賃金上昇につなげることを前提に復興 特別法人税の一年前倒しでの廃止の検討を盛り込んだ次第であります。さらに、政労使の間で経済の好循環実現に向けた共通認識を醸成をする ために、政労使会議におきまして議論も行っているところであります。
こうした取組を通じまして、賃金上昇を伴う好循環を全力で実現をしてまいります。(拍手)
〔国務大臣田村憲久君登壇、拍手〕
○国務大臣(田村憲久君) 雇用の規制改革についてのお尋ねをいただきました。
雇用の規制改革については、労働時間法制や労働者派遣制度に係る見直しの検討を進めているところでありますが、これらは安倍政権が掲げる 多様な働き方の実現を目的としたものであり、非正規雇用の拡大を意図しているものではありません。
また、G20の共同宣言では、各国に、より多くの質の高い雇用を促進するための広範囲にわたる行動を取ることを求めるもの と認識をいたしております。安倍政権では、各種の施策を通じて、若者、女性を含め、頑張る人たちの雇用の拡大を目指しており、これはG20の共同宣言の考え方に沿ったものと考えております。
以上でございます。(拍手)
〔国務大臣麻生太郎君登壇、拍手〕
○国務大臣(麻生太郎君) 法人税の引下げについてのお尋ねがあっております。
国際的租税回避を助長しないよう、税源獲得を目指した各国の税負担の軽減競争を避け、各国協調してそれぞれの税制の調和を図るということ は、これは最も必要なことであります。日本としても、これまでと同様、引き続き、OECDにおきます税源浸食と利益移転行動計画、通称 BEPSと言うんですけれども、BEPS計画、ベース・エロージョン・アンド・プロフィット・シフティング、通常これBEPSとみんな言 いますので、これ役所の言葉、えらい難しい言葉が書いてありますけれども、BEPS行動に関する議論などに積極的に、これは日本は議長も しておりますので、適正な課税の確保に努めてまいりたいと考えております。
なお、日本再興戦略に盛り込まれた税制上の支援策というものは、産業の新陳代謝を促進することを目的とした投資減税などを意味するもので あります。したがって、他国の税源獲得を目指したり、税の引下げ競争にくみするものではございません。(拍手)
〔国務大臣下村博文君登壇、拍手〕
○国務大臣(下村博文君) 国立大学法人の出資により損失が生じた場合、誰が責任を負うこ とになるのかについてのお尋ねがございました。
特定研究成果活用支援事業においては、民間が積極的に投資を行いにくい案件も必要に応じて支援対象とすることが求められるものでありまし て、最善の努力を尽くしても最終的に収益を上げられないこともあり得るものと考えますが、今回の出資の業務については一義的に国立大学法 人がその説明責任を負うことになります。
文部科学省としては、こうした説明責任を確保する観点からも、国立大学法人評価委員会において適切に評価を行うなど、適切に対応してまい ります。(拍手)
○議長(山崎正昭君) これにて質疑は終了いたしました。
- 日時
- 2024/11/23(土)
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